3-13 自衛官、連隊主力とともに魔王城を目指す
「がははは、いい風だな、桐島!」
16式機動戦闘車の車長用キューポラから上半身を出している車長が嬉しそうに言う。
「というかなんで乗車位置ここなんだよ!おかしくね!?」
なぜか砲塔後部に腰かけて、必死になって捕まっている。
普通ここは移動中に乗員の荷物を置く場所なのだが、つまるところ荷物扱いである。
「民間人をそこに乗せるわけにもいくまい?」
滝川は砲塔内の装填主席である。
「というかなんでMCV乗らんといかんの!?96式装輪装甲車でよくね?」
「勇者が魔王倒しに行くのに先頭がAPCでは見栄えが良くないだろ!」
別に勇者が先頭車両に乗る必要はないと思うんですが。
どうせ魔王は城の中だから降車するんだし。
というか、こいつ防大のころはこんなぶっ壊れてなかった気がするんだけどなぁ・・・。
「しかし、北海道と富士以外で陸自の装甲車部隊が威風堂々進軍する様など早々見れまい?」
「確かに壮観ではあるな」
後続してくる車両群を見ると、むしろ呆れるくらいにファンタジー世界には不釣り合いだが。
16式機動戦闘車24輌が集団前方から側面にかけて展開しつつ、集団中央付近は24輌の96式装輪装甲車や無数の軽装甲機動車という大集団である。
装甲車両以外にも火力支援中隊の120mm迫撃砲をけん引した高機動車や中距離多目的誘導弾といった車両まで含まれた、堂々たる中央機動連隊の主力である。
なんか頭の中で、てめぇに渡した銃も言ってた仕様と全然違くてキレそうなのになんつーもん持ち込んでんだコラー!という世界神の声が聞こえたが気のせいだろう。
そもそも、ちゃんと世界神からもらった銃は「二連装の12ゲージショットガン」という条件は守ったのだから文句を言われる筋合いはない。
ちょっとチューブマガジンが2つついてたり、コッキングしたら2つの銃身がまとめて装填されたりするだけだ。
ちなみに、中央機動連隊合流時にせめて89式小銃でも借りようと思ったら
「派遣されてない奴に渡す銃なんかあるわけないだろ」
という辛辣な言葉を投げられたのでこのDP-12を使うしかなさそうだ。
元々が軍用ではなく、どちらかというとアメリカの趣味の一品という感じの変わり種なので激しく不安だ。
結局、襲撃現場に落ちてた薬莢から滝川に、前の勇者を連れ去ったのが自衛隊だとばれたので、早々に中央機動連隊に合流することにした。
その際、クリスティア王女とメイドのマリアが問題になったが、まぁ、現地勢力の要人なのだから「交渉」の役に立ってもらおうということで、(後ろからゴム弾を撃ちこんで)連れて行った。
んでまぁ、クリスティア王女は殺せだの辱めを受けるくらいなら死んでやるだの喚いていた横で、マリアがあっさり寝返って連隊長にお茶をいれていたのはほんとどうかと思った。
まぁ、そのメイドを見る王女の顔もなかなかすごいことになっていたが。
滝川を日本に送り返して終わり。となるはずが、連隊長の
「魔王倒しちゃえばもう日本人呼ばれないんじゃないか?」
というお言葉で、中央機動連隊主力による魔王討伐となった。
魔王城手前5Kmで火力支援中隊が展開、120mm迫撃砲9門による火力支援を提供する。
その護衛のためAPCが4両ここで残ることになる。
それ以外でMCVの直接支援の元魔王城に突撃、魔王城到達後は降車した普通科が魔王城内部を制圧、魔王もフルボッコという予定である。
「これで楽に魔王を倒せれば私も魔王討伐の英雄の1人ということで、晴れて王宮メイドを退職できるわけです」
「ていうかなんでお前いんの!?」
すごく謎なのだがメイドはついてきていた。
というか俺と同じく砲塔後部に腰かけているのに、なんか普通に馬車にでも乗っているかのように優雅である。
なんでだよ。これまでで一番のファンタジーだよ。
≪ハンター01より各隊、進行方向正面、距離3000、敵対的と思われる大型生物を確認≫
「大型生物?」
車長と顔を見合わせ、双眼鏡を覗いてみる。
遠くてよく見えないが・・・
「ドラゴン?」
「羽があるけどあんな姿で飛べるのか?」
四本足にでかい図体、大きな羽に長い首。
いかにも西洋チックなドラゴンの姿である。
「ブラックエビルドラゴンですね。魔王配下のドラゴンの中で最弱とされていますが、そもそもドラゴンが討伐されたという話自体が残っていません。魔王討伐の際は、ドラゴンとの接触をいかに避けるかが最も重要とも言われるほどです」
メイドが肉眼なのになぜか大型生物について解説してくる。
便利な奴め。
「長距離移動の際は飛行するようですが、戦闘時や短距離の移動で飛ぶという話は聞いたことがないですね。もっとも戦闘記録自体があまりありませんから、本当にそれが正しいのかはわかりません」
王狼よりも便利なんじゃなかろうか、このメイド。
「迂回するルートもないし、このまま突っ込むぞ」
車長が嬉しそうに手をすり合わせて、マイクに向かって号令する。
あ、なんか嫌な予感。
「目標、正面敵対大型生物、徹甲、小隊集中、行進射!」
諦めて車両後方を向いて、耳を塞ごうとして・・・え、これ手離したときに段差に乗り上げたりしたら転げ落ちない?
「撃て!」
答え、現実は非情である。
転がり落ちるのを恐れた結果、乗っている車両も含む4両の105mm戦車砲の斉射により耳鳴りしか聞こえなくなった。




