3-11 大学生、すぐに帰れることに気付く
妙にポンコツな王女様と、優秀なのにやたらと毒舌なメイドを伴ってゆっくり歩いていく。
桐島さんもいるし、むふふな展開は無さそうかなぁと思うと少し残念な気分になってくる。
のんびりした田舎の景色が続いている。
魔物も出てこないし、平和なものだ。
「ほら、姫様、気合を入れて歩いてください!こんなちんたら歩いていたら、2日ではとても大森林まで着けませんよ!」
ほんと、なんであのメイドは主人に対してあんな辛辣なんだ?
王女も王女で、泣き言いいながらも懐いてるし。
まぁ、なんだかんだ言いながらも王女の荷物はマリアが持ってるので、彼女なりの親愛表現なのかもしれない。
「えへへ、待ってよぉ」
「なんですか、そのだらしない顔は、気合を入れてください!」
・・・王女が言葉責めされて悦んでるわけじゃないよね?
というか王都にいた時は王女もっとキリッとしてたと思うんだけど。これが地なんだろうか。
ほぼ引きこもりに近かったとかメイドに言われてたし、外に出てタガが外れてるだけだろう。きっと。
しかし、アレクシアやエクセルとはまた違うタイプのお姫様で、これはこれでいいと思う。
正直、メイドのほうはノーサンキューな気がする。絶対尻に敷かれることになりそうだ。
「直に前の勇者様お二人が魔王軍に襲われた場所ですね」
そう言われても、何も知らない日本人が襲われた現場なんてどう反応すればいいのかわからない。
桐島さんのほうを見ると、全然違う方向を見ているし、警戒している様子もない。
まぁ、普通に通り過ぎればいいだろう。
クリスティアはビクビクしているものの、マリアは平然としたもので、見事なまでに対照的だ。
マリアと桐島さんが警戒してないってことは、警戒する必要はないのだろう。
しばらくすると、襲撃現場が見えてきた。
なぜわかるのか?
簡単な話だ。街道はさすがに綺麗になっているが、その周辺に爆発によるものと思われる下草がはげた場所や窪みが見えている。
「我が軍はほぼ一方的に蹂躙されて、勇者2人は連れ去られたそうです」
現場を通過しながらメイドは言った。その顔から感情は読み取れないが、横を歩いているクリスティアの顔は見るからに強張っている。
自国の兵士が一方的に殺されたことに対するものなのか、それほど強大な敵にこれから立ち向かわなければならないものなのかは判別がつかないが、多分両方だろう。
ここで優しい言葉をかけて励ましたりすればフラグが立つのかな、とかしょうもないことを考えながら歩いていると何かを踏んだ感触が伝わってきた。
「なんだこれ」
明らかに人工物だったそれを拾い上げてよく見る。
それは掌に載せて転がせるような小さい金属の筒だった。
というか、これは多分・・・
「桐島さん、こんなの拾ったんですけど」
ずいっと目の前に先ほど拾った小さい筒をもっていく。
「なんですかね?これ?」
「ナンダロナー、ヨクワカラナイナー」
明らかに目が泳いでいる。
「これ薬莢じゃないんですかね?銃撃ったあとにでるやつですよね?」
「ソウカモシレナイネー?」
明後日の方向を向きながら棒読み音声のような声を出している。
つまり明らかにこの薬莢のでどころを知っているということだろう。
「まさか、桐島さんこの世界に来たことあるとかないですよね?」
「アハハハソンナマサカ・・・」
どんどん声が小さくなっていく。
つまり襲撃して勇者2人を連れ去ったのは魔王軍ではなく、自衛隊だということだろう。
2人は死んだのではなく、日本に帰ったせいで、俺たちが召喚されることになったと。
ん?あれそれってつまり?
「桐島さん、この世界に自衛隊がいるんならすぐ日本に帰れますよね」
ずいっとにじり寄って睨みつけたら、なんとも言えない微妙そうな顔をしていた。




