3-1 自衛官、召喚される
「ふざけんなあああああ!」
目が覚めたと思ったら、薄暗い部屋で何かおっさんが喋っていた。
そしてなぜか隣にいた滝川がおっさんを殴り飛ばしていた。
不意打ちだからおっさんは転倒したけど、もっと踏み込んで腰入れないと有効打にはならないよ。とか場違いなことを考えてしまった。
転倒したおっさんに滝川が追撃をかけようとしているのを見て、慌てて止めに入る。
「滝川君、何か知らんが落ち着け。転倒してる相手を蹴るのは割と致命的な結果になりやすい」
後ろから羽交い絞めにしながら声をかける。
同時に周囲を確認する。
あっけにとられたように甲冑に身を包んだ騎士や、神官みたいな男がこちらを見ている。
というか、騎士よ、貴様の仕事はこの倒れているおっさんの護衛ではないのか。
「ゆ、勇者殿は混乱しておられるようだ。まずは落ち着いていただくために部屋へ案内を」
滝川に殴り飛ばされたおっさんは立ち上がりながら、周囲の人間に指示をだしている。
王様っぽい見た目だし、「斬れ、斬れ!斬り捨てい!」とか言われたらどうしようかと思ったが、菩薩かなんかかこのおっさん。
んで、なんかやたらと豪華な部屋に通された。
メイドさんまでいてお茶を淹れてくれる。
まぁ、状況から考えると、俺も異世界拉致被害者名簿に載っちゃったっていうことだろう。
滝川はなんでだよとかぶつぶついいながら状況を嘆いている。やっと帰れたと思って一晩寝たらまたこれとか、可哀想ではある。
なんか持ってんのかね?
「失礼いたします」
お茶を飲んで一服していると、何やら美人さんが入ってきた。
露出は少ないがなんかエロい。体のラインが微妙にわかるようになっているせいかな。
「クルセイド王国第一王女、クリスティア・クルス・クルセイドと申します」
優雅に一礼して王女を名乗る美女は言った。
滝川のパーティーメンバーも見て思ったが異世界には美人しかいないのか。
「勇者として召喚されたお二人は何がなんだかわからず混乱されていることと思います」
混乱してるのかなぁ?
召喚直後の滝川のあれは理不尽に不満が爆発しただけだと思うが。
とりあえず、触れないようにしていたがボチボチ触れなきゃならんだろ。
「滝川君、理不尽に怒り狂うのはわかるが、現実は現実として受け入れよう」
とりあえず無難な感じに。
カウンセラーじゃないし、どういう風に声をかけるのがいいのかよくわからん。
「そんなこと言ったって、桐島さん、ひどすぎませんか。日本に帰れて一晩もたってないんですよ」
まぁ俺も駒門駐屯地で寝たと思ったらこれだったけどさ。
「あの、お二人はお知り合いなのですか?」
王女が不思議そうに聞いてきた。
「まぁ知り合いといえばそうですね」
「そうなのですか、前回勇者として来られたお三方は皆さま面識も無かったとのことでしたので」
つまり、俺らの前に3人日本人が召喚されている、と。
「その3人はどうなったのですか?」
当然の疑問を口にしたのだが、王女は返答を一瞬躊躇った。
「おひとりは見事魔王を倒されて帰還されました。残りのお二方は魔王と戦うなんてできないと言って投獄されてしまいました」
おい。
ん?ていうかどっかで聞いたことあるような?
「ただ、投獄されたお二方の勇者様にお話を伺ってみると、なんでも普通の市民として生活していたら突然こんなところに送られて魔王を倒せと言われたということがわかりまして、投獄はやりすぎだろう、と」
先に話を聞けよ。
というか、前の連中のおかげで、何の準備もなくただの一般人が勇者として呼ばれているってことが知られてたわけか。
で、滝川の狼藉は混乱によるものと片付けられたと。
それ以前にただの一般人呼んでることに気付いたんならもうやめろよ。
「お願いします、魔王を滅ぼすには3人の勇者が魔王に止めを刺す必要があるのです。協力をお願いいたします」
王女は深々と頭を下げている。
というか、1人は魔王を倒して帰還したからいいとして
「その2人の勇者はどうなったんだ?」
当然の疑問を聞いてみた。
「1人が魔王を倒しただけでは帰れないということがわかり、最終的に協力いただけることになって軍とともに出発したのですが・・・」
悲痛な顔をして王女は言った。
「王都からそれほどいかないところで、見たことも無い魔法を使い空を飛ぶ魔王軍の奇襲を受け、軍は大損害、勇者のお二人も連れ去られてしまいました。お二人が新たに召喚されたということはもう前のお二人は魔王軍に殺されてしまったのでしょう」
唇を噛んで悲痛な顔をする王女。
不都合な情報も包み隠さず教える姿勢に好感が持てるんだが・・・オカシイナァ、空カラ攻撃シテキテ勇者2人ヲツレサッタ魔王軍ニ心当タリガアリスギテ嫌ナ汗ガトマラナイゾ




