2-19 大学生、日本に帰る
「エクセル様の要求は、勇者、ユーイチ殿の帝国への引き渡しとのことです」
公国軍の先鋒とともに帰還したエリーシャが報告している。
一緒に帰ってきたメルドーズも渋い顔をしている。
「あー」
アレクシアは困ったようにこちらを見る。
「こっちの世界に残るんだったら公国がいいけど、いると迷惑がかかるし日本に帰るよ」
アレクシアを見て答える。
「我が国としては国民を拉致しようとする武装勢力を見逃すことはできません」
「友好勢力に対する恫喝を行う武装集団の排除は任務のうちだ」
なんで日米の指揮官2人はこんなに好戦的なんですかね。
「と、とりあえずそのことはエクセルに伝えよう」
アレクシアが冷や汗かいてる。
間に挟まれると大変だなぁ。
アレクシアはエリーシャに何事か伝えて、エリーシャは出て行った。
「ユーイチ、少しいいか?」
アレクシアに呼ばれたのでついていくと2人っきりになった。
「落ち着いているうちにお別れをしておこうと思って」
2人になった途端、アレクシアが体を寄せてきて言った。
「アレクシアには感謝してる。いろいろ助けられた」
そしてイイ思いもさせてもらいました。
「私も助けてもらいましたし、楽しかったですよ」
そのまま唇を重ねた。
しばらくするとエリーシャが呼びに来たので、会議室に戻る。
勇者の祖国が迎えに来たので、邪魔するものは実力で排除するといっていると伝えたらしいが、エクセルは要求を変えなかったらしい。
「まぁ、実際軍もいないし、エクセルは公都ごと攻め落としてしまえとか考えてそうではあるな」
メルドーズが当然だろうといった感じで言った。
「だがそうなると外にいる公国軍とも戦闘になって帝国も無傷ではすむまい?」
「まぁ、実際帝国軍の指揮官も、マジでやんのかよみたいな感じだったし、やる気なのはエクセルの嬢ちゃん1人だけだな」
なんでエクセルはそんなに俺に執着してんのかね。
まぁ、夜はイイ女なんだが。
・・・考えてみたら俺って割とゲスい?
「トップだけがやる気なら斬首作戦だな」
ジャネット少尉が何事か言っている。
もうちょっと穏便に済ましてもらえませんかね。
「まぁ航空支援は呼んであるし、脅してみて反応みればいいだろ」
桐島一尉は少し、米軍よりは少し穏便に済まそうとしてくれているようである。
結局、急行してきた航空自衛隊の威嚇爆撃で帝国軍は引き下がった。
エクセルは何事か喚いていたらしいが、周囲の将軍やらキリエやらが無理やり抑え込んだらしい。
まぁ、一方的に攻撃される上に対抗策がないってのは恐怖だわな。
帝国が引き下がったので、今公都にいる元パーティーメンバーにはきちんとお別れが言えた。
結局、召喚されてから最後まで一緒だったのはメルドーズだけだった。なんやかんや言って気の置けない男友達といった関係になっていたと思う。
エリーシャはむふふな関係は最初だけだったが、なんでも勇者を篭絡するために必死だったらしい。アレクシアのためという行動原理はわかりやすい奴だったが、最後の方はメルドーズとイイ感じだった。そのままくっついてしまえ。
キリエには、
「エクセル様泣かしてんじゃねぇ!」
と右ストレートをもらった。曰くエクセルの俺への好意は本物だったというが、あいつが好きなのは勇者だったんじゃないかなぁという気が拭えない。
一応エクセルもいたので、別れの挨拶はしておいた。なんかぐずぐずと私の勇者がとか言っていた。やっぱ俺への好意じゃ無くね?
コハクはいつものふわふわした妖艶な感じで、もうちょっと一緒に遊んでたかったですなぁとか言っていた。それはちょっと思った。面白い奴だった。
最後は一度別れは済ましたものの、アレクシアにさよならだけ言っておいた。向こうも笑って送り出してくれた。
ヘリで自衛隊と米軍が設営したという基地まで送られて、転移装置だとかいうやつで日本に帰ってくることができた。
なんでも俺みたいに異世界に召喚されて忽然と消える事件が多発しているらしい。
俺は比較的早く見つかった方だという。
日本に帰ってきたものの、とりあえずは検査だとかで病院に放り込まれた。
テレビにエアコン、そして快適なベッド。
文明の利器を噛みしめながら、日本帰国初日の夜は眠りについたのだった。
なぜか目が覚めた。
周囲は薄暗い。
石造りの部屋をランプが照らしている。
・・・石造り?ランプ?
「おお、勇者殿!世界を救ってくだされ!」
目の前でなんか赤いマントをつけて王冠を被ったおっさんがのたまっている。
「ふざけんなああああああああ!」
状況を認識した瞬間、俺は目の前のおっさんを思いっきり殴り飛ばしていた。




