2-18 大学生、現代兵器に戦慄する
自衛隊と米軍が俺を助けに来たという翌日朝、ミスティルテイン王国軍が公都に到達した。
最低でも1週間は籠城しないと旧魔族領にいる軍主力は戻ってこれないだろうとアレクシアは言っていた。
コハクが妖術で騙しているとはいえ、公都城壁の全てに配置できるほどの戦力はない。
相手が一転突破に拘ってくれればいいが、むしろ兵力を2つに分けて奇襲したりされるとあっさり抜かれる恐れがあるという。
完全に自衛隊と米軍頼みの防衛戦だが、アレクシアはその戦力に懐疑的である。
まぁ、合わせて8人+王狼しかいないわけで、今のところなんの能力を披露していないので当たり前か。
知っているこちらからすると、城壁に機関銃でも据えればその場所はもう大丈夫なんじゃないのかと思うのだが。
することも無いので自衛隊が陣取っている物見櫓に向かう。
一応聖剣を背負ってはいるが、周囲の兵士を鼓舞する程度の役にしかたたない。
多少剣術を教わったとはいえ、所詮は付け焼刃である。
魔王がいなくなって、聖剣の加護が失われた今では、おれの能力などそこらの兵士以下だろう。
「なんだ、危ないから後方の城にでもいればいいだろう」
物見櫓に登ってきた俺を見て、指揮官の桐島一尉が言う。
「せっかくなんで、爆撃なんて生で見る機会無いですし」
ここに来たのは純然たる興味である。
戦車や戦闘機って男の子なら一度は憧れるし?
「指示には従うんだぞ」
特に追い返されたりはしないようだ。
あれか、後で自衛官にならないかとか言われるのか。
隊員の1人は双眼鏡で城壁から弓やバリスタの射程外に展開しようとする王国軍のほうを見ながら、無線でなにやら話している。
数字やら何やら言っているが、さっぱりわからない。
すると、なにやら用意されていた大砲のまわりで自衛官が動き出す。
「半装填!」
叫んだと思ったら、みんな一斉に姿勢を低くして耳を塞いだ。
あ、まさか
ズドン
と腹に響く音を残して大砲が発射された。
耳がー、ミミガー!
キーンとする耳に悶えていると、桐島一尉が笑いながら悪い悪いというような動作をしている。
絶対わざと注意しなかったな。
気を取り直して、王国軍の方を見ると煙を引きながら何かが落ちていくのが見えた。
煙幕?
なんかもくもくと落ちたあたりを覆い隠す勢いで煙がでている。
と、遠くから明確な轟音が聞こえてきた。
兵士たちが出す喧騒とは明らかに異なる、なり続ける、そして徐々に大きくなってくる音。
すさまじい爆音になったとき、頭上を4機の戦闘機が飛び越していった。
そして、飛び越していったと思うと同時に、「何か」を一斉に投下し、そのまま飛び去った。
1機につき2つずつ投下されたそれは、王国軍のいるほうに吸い込まれていき、そして
派手な煙をあげた。
しかし、それが煙だと思ったのは一瞬だった。
次の瞬間、体を爆音と熱風が襲った。
音とは空気の振動である。ということが実感できたのは初めての経験だった。
いや、大砲の時にもちょっと思ったんだけど。
というか、爆発ってもっと派手に爆炎が上がると思ったら、煙ばっかりなんでびっくりした。
桐島一尉が言うには、夜なら爆炎が見えるし、昼間でも曇ってたり霧が出てたりすると爆炎が見えることもあるとのこと。
たった8発爆弾が落とされただけなのだが、王国軍は恐慌状態に陥ったようである。
「なんだ、自衛隊だけでケリがつきそうじゃないか」
米軍の指揮官だといういかにもな白人の士官がゲラゲラ笑っている。
「うーん、けどもう一回ダメ押しは必要ですかね」
桐島一尉は双眼鏡を覗きながら冷静に返している。
曰く、あの4機はあと2回同じことが可能だという。
「じゃあ、次はうちがやろう」
「おたくのにやらせたら奴さんたち文字通り壊滅するんじゃないですかね」
桐島一尉が言い終わる前にジャネット少尉が無線で何事か指示していた。
そのあとのことは筆舌に尽くし難い。
王国軍は空から降り注ぐ文字通りの砲弾の雨によってすり潰された。
ていうか何あれ?
物見櫓にきたアレクシアの声が震えてたもんね。
是非ともこれからも友好的な関係を、とか震えながら言ってたのはちょっと萌えた。
とりあえず、桐島一尉にはアレクシアが助けてくれなかったらどうなっていたかわからなかったとか大袈裟に伝えておいた。
少しはアレクシアの助けになっていればいいが。
結局、持ち出す量に制限を設けることで自衛隊や米軍が欲しがるものを公国が用意して自由に持ち出す形に落ち着いたようである。
桐島一尉曰く、どっちみち数機のヘリで運べる程度しか持ち出せないからこれでいいとのこと。
で、下にも置かない歓待を受けてアレクシアとコハクに別れを告げて、連れて帰ってもらおうかというところでまた問題が発生した。
旧魔族領からかき集められた公国軍主力の先鋒が到着したのである。
なぜかエクセル率いる帝国軍とともに。




