2-16 自衛官、大学生を見つける
<おい!吾は荷物扱いか!荷物なのか!>
王狼がさっきからずっと文句を言ってくる。
よほど貨物吊り下げ用のネットでCH-47に吊り下げられてここまで運ばれたのがお気に召さなかったらしい。
中に入らないんだから仕方ない。
「泳ぐよりはいいだろ?」
<もうちょっと何かあるだろ!>
まぁ、たしかに箱とか他の方法もあったかもしれない。
「しかしこの犬は贅沢だなぁ」
「大飯喰らいだしなぁ」
<誰が犬だ!吾は狼だ!>
米軍のジャネット少尉とうちの秋月が犬扱いして、それに王狼が吠えている。
・・・やっぱ犬じゃねぇかな?言わないけど。
当初は自衛隊のみでの行動のはずだったのだが、現地勢力と接触する可能性が高いという話になったら米軍が連れてけと言い出したので、偵察部隊は陸自から4名、米海兵隊から4名、それに加えて王狼という編成である。
重量物は王狼につけた鞍?というかベスト?に乗っけている。
王狼マジ便利。
「んで、ここの公国?の為政者とは面識あるんだっけ?」
<次期大公だな。勇者パーティーにおったぞ?魔王討伐に行ってたのなら戻ってきているかはわからんが>
まぁ、王狼を前面に出しとけばいきなり敵対はないかな?
・・・ないよね?
とりあえず王狼の情報で公都だという都市を目指す。
周辺の地形はRF-4で十分に把握して、マッピングも行っている。
これで近接航空支援もばっちりである。
とりあえず直近の情報では公都はどうやら籠城を決めたらしいとのことだった。
王狼の話では恐らく軍主力は旧魔族領の掃討で、野戦できるほどの兵力はなかろうとのこと。
つまり、その主力を本国に引き戻すまでのあいだ籠城できれば公国の勝ちか。
「けど公都に行くのはいいとしてどうやって話聞いてもらおうか。白旗って通じるのかね?」
「え、考えてなかったのか」
俺が悩んでいるとジャネット少尉が呆れたように言った。
そういうお前も何も考えてねぇだろ。
「まぁ王狼いればいきなり攻撃されることはなくね?」
<まぁ、そうだといいが・・・>
自信ないのかよ。
公都が視認できる位置まで何事もなく進出できた。
敵対勢力はあと1日ほどでここまで到達するらしい。
なんでも、二手に分かれていた敵兵力が2つとも公都に針路を変えたとの偵察情報が入っている。
「そもそもなんで向こうさんは兵力を2つに分けてたんだ?」
<恐らく公国は牽制だけで素通りして帝国を襲うつもりだったのだろう。で、軍主力を本国に戻す動きが早いと見ての方針転換ではないか>
勝てるところに全戦力を突っ込んでさっさと勝負を決めてしまおうということか。
「まぁ、ともかく公国とコンタクトをとらんとな」
結局、協議の結果、俺とジャネット少尉、王狼で正門前までいってみて出たとこ勝負という話になった。
ダメだったら尻捲って王狼に乗って逃げる。
「作戦ではないですよね・・・」
「行き当たりばったりとも言うな」
鴨野曹長と桧山一曹が呆れたように言っている。
じゃあ他の方法あんのかよ。
「じゃ、行きますかね」
通じるのかどうかわからないが、白旗も持って2人と1匹で歩いていく。
服装は特に変えていない。
俺は自衛隊迷彩にプレートキャリア、チェストリグ、ヘルメット、HK416
ジャネット少尉は森林向けピクセル迷彩というだけでほぼ同じ。小銃だけM27を持っている。
ちなみに装具をプレートキャリアにつけずにわざわざチェストリグをつけているのは、伏せるときに前にあるマガジンポーチや小物入れは邪魔になるので、すぐ外して後ろに回せるようにするためだ。
あえて、堂々と現代軍隊の歩兵装備でいくのは日本人がいた場合に認知してもらうためである。
籠城に備えて閉じられている正門の前に立つ。
距離は概ね100mといったところか。
この距離なら弓矢でも届くので飛んでくると割と危ない。
城壁の上はなにやら慌ただしく兵士が走り回っている。
矢を番えたりはしていないので、いきなり攻撃されることはなさそうだ。
しばらくすると門が開いて2人出てきた。
女性と男性、どちらも若い。20前後だろうか。
<次期大公と勇者だ>
王狼からの情報である。
会ったことあるのだから間違いはないだろう。
やがて2人は10mほど離れたところで立ち止まった。
「アリステイン公国次期大公アレクシア・アリステインである。卿らの所属と来訪理由を知りたい」
話を聞いてくれるようだ。
「日本国陸上自衛隊、中央機動連隊本部管理大隊付情報分隊分隊長、桐島隆司一尉であります。召喚等により不当に拉致された日本人の救出のため、捜索任務にあたっております」
敬礼して所属を述べるが、なんだこのクソ長いの。次から省略しよう。
「合衆国海兵隊、第五武装偵察中隊ジャネット・ジェイコブ少尉。情報収集と自衛隊支援のため展開している」
そういやこの世界は日本語でいいんだよな。
前の世界は違うかったのに。
それはともかく、俺は王狼がいう「勇者」のほうを見る。
「滝川雄一、大学生、日本人です」
俺の視線に押されたのか、彼は日本人だと名乗ったのだった。




