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異世界召喚による日本人拉致に自衛隊が立ち向かうようです  作者: 七十八十
第2章 ふたつめの世界 ~大学生、勇者になる~
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2-14 大学生、魔王をやっちまう

「なんだよ、いいことなかった人生なんだ、ここらでいい思いできたっていいじゃねぇかよぉ・・・」


そんな恨み言を残して魔王は何も残さず消えていった。


「やった・・・のか?」


メルドーズよ、その言い方はフラグっぽいからやめようか。

聖剣を持っていても、これまでのような力が湧いてくるような、身体能力が底上げされている様子はなくなっている。

つまり、勇者ではなくなったということだろう。


「ああ、やった」


勇者ではなくなったということは、魔王はもういないということだ。


「なんや、軍勢に苦しめられた割には魔王はえらいあっけなかったなぁ」


コハクは実感なさげに扇子をぱたぱたと仰いでいる。

数の暴力というのはそれだけ厄介だということだろう。

そう考えると、なぜ魔王が1人きりになっていたのかがわからないが。


「それはそうとユーイチはん、魔王は討伐できたわけやし、これでゆっくりしっぽりできますなぁ」


ずずいとコハクが体を寄せながら囁いてくる。

エクセルがすごい顔してこっち睨んでるから勘弁してほしいです。


「これで魔王軍は統率を失うとはいえ、あの数の魔物が無秩序に暴れまわるんだ。まだまだ大変だろう」


セイリュウが溜息をつきながら言う。

俺はむしろあの荒野をまた歩いて戻らなきゃならないということに吐きそうです。というか帰りは普通に魔物と出会う可能性が高いってことだよね、それ。

聖剣の能力バフ無しで大丈夫だろうか。




「ぜぇぜぇ、ちょっと休憩しようぜ」


魔物と戦う以前の問題だった。

体力が元に戻ってるんだもの、1日中速足で歩き続けるとか無理です。


「情けないですね。一刻も早く帝国に帰って復興を手伝わなければならないというのに」


エクセルが冷たい目をして睨んでくる。

じゃあ、先に帰っていいよと言いたくなるが、言うと多分余計に怒るので言わない。

なんだかんだ言って休憩してくれるし。


けど、少なくとも帝国に婿入りするつもりはないんだがなぁ。

こっちの世界に残るにしても、大樹海とか獣人の国でのんびり暮らすほうが楽しそうだし、人の国に残るとしても、どう考えてもアレクシアのほうに行く方が良さそうである。


「まぁ、魔王討伐ほど急ぐ理由もないですし、のんびり行けばいいじゃないですか」

「んにゃー、のんびりさいこー」


アレクシアの発言にタマが同意して、ごろごろと地面を転がっている。

最近思うのだが、タマって猫人族というかただの喋るでかい猫なんじゃねぇのかと。


「とはいえ、物資調達もままならない状況ではあんまりのんびりともしていられませんよ」


メルドーズが荷物を確認しながら言った。

世界有数の穀倉地帯だったというこの辺りも、いまや見る影もない荒野。

街や村は軒並み破壊され、森すらも枯れてしまっている。

もとに戻るのにいったい何年かかるのかという惨状である。


「まぁ、魔物討伐で軍も追撃でこっちに出張ってくるだろうし、逃げてきた魔物みつけたらたべちゃえばなんとかなるなる」


ルルがぽわーんと言っている。

・・・え?魔物って食べれんの?と思ったら人族の皆さんは軒並み嫌そうな顔をしている。あ、やっぱりそうなのね。




結局、行きは半月ほどでついたのに、帰りはひと月以上かかることになった。

そう考えると行きは警戒しながらといいながら、かなりのペースで進んでいたことになる。


幸い、途中で帝国軍や公国軍の斥候や魔物討伐隊と会合で来たので、魔物は食べずにすんだ。


まぁ、急ぐ理由もないということで、ガオウがどこからか酒をだしてきたせいで毎晩宴会になっているのもゆっくりになった理由である。

というか、ほんとにどこに隠してた。


魔王が何だったのかは深く考えないことにした。

俺が倒したのは魔物の王であって、40の会社員では決してない。

そう思うことにした。

いや実際あんな肌真っ黒で羽と角まで生えてる日本人とかいねぇし。


元の最前線の砦まで戻ってきて、ステインとフィーリスを弔った。

そして、そこでパーティーは解散することになった。

目的は達したから当然だろう。


「そういえばユーイチは結局どうするんだ?」


メルドーズが解散式という名目の飲み会で突如言った。

そういえば、帰る方法はかなりの面倒事になりそうだから魔王討伐まで俺とフィーリスの心の中に秘めておこうという話になっていたのだった。

・・・ひょっとしたら知っている人間がいなくなっていた可能性もあったのか。聞いていてよかった。


「それは勿論、帝国に戻り、私と結婚していただきます」


エクセルが当然だというように言った。


「いや、帰る方法はわかってるからなんとかして帰るけど?」


言ってしまってから、アレクシアがそれをここで言うのは面倒事にしかならないぞという顔をしているのに気付いた。


「ほな、うちは暇やし手伝ってあげよかねぇ」


コハクが面白そうに言う。

うーん、妖術で姿隠せるならなんとかなるかな?


「ふむ、では坊主とはこれでお別れか。まぁ楽しい旅だったな」

「ふにゃー、楽しかったのにゃー、ばいばーい」


ガオウとタマはお別れを言ってくれる。

二度と会うこともないだろうし、寂しくもあるがそもそも出会うはずもなかった仲間達である。

良い思い出を忘れないようにしよう。


「ダメです!そんなことは認められません!」


突然エクセルが叫んだ。

アレクシアが言わんこっちゃないという顔をしている。


「勇者は我が帝国の礎とならねばならないのです!それは使命です!」


この娘、こんなめんどくさい娘だったっけ?


アレクシアとコハクがエクセルを宥めてくれたり、メルドーズが呆れた顔で傲慢さを諫めたりしてくれていると、突然部屋の扉が荒々しく開かれた。


「申し上げます!ミスティルテイン王国がアリステイン公国に侵攻を開始しました!」


・・・なんだって?

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