2-13 大学生、魔王を討伐する
そいつは立ち上がると玉座のほうに歩いていき、ボロボロになった玉座に座ろうとして―諦めてこちらを向いて言った。
「俺がいわゆる魔王というやつだ。待ちくたびれたぞ」
大仰にそう言った男の態度と行動は、どうにも立ち昇るオーラとは一致しない。
「で、どれが勇者だ?」
名乗るべきかと一瞬迷う。
今の俺は剣を2本差して、聖剣は抜かずにステインから託された王剣を使っている。
しばらくの沈黙の後、魔王は口を開いた。
「ふむ、まぁ概ね予想は付くが、なんだ、俺が魔物に囲まれてる間に美女に囲まれて随分といい思いをしてるみたいじゃないか」
羨ましそうに魔王は言っているが、何を言っているんだ?
「いいなぁ、俺は召喚されてからこっちなんもいい思いなんてできなかったよ。仕事だってあるのに帰れないし、というか無断欠勤でクビになってるとかまじで勘弁してもらいたいんだけど」
ちょっとまて、こいつは何を言っているのだ。
「で、勇者のほうはどうだったん、感じからして高校生か大学生くらいか?」
まさか
「まぁなんだ、こっちは40の独身のおっさんだ。こっちにいてもなんも楽しいことないし、勇者に倒されたら死ぬのか帰れるのかわからんが、ぶすっとやってくれ」
手を広げて早くやれっといった感じでこちらを見る。
どうすべきか。
ちらっとアレクシアの方を見ると、話はよくわからなかったがやらせてくれるんならやっちまえみたいな雰囲気を感じたので前に出て、聖剣を抜く。
そして剣を振り上げたところで、 突然腕を掴まれた。
「なんていうとでも思ったか、美人をこんなに連れてきてくれてありがとよ」
腹に衝撃を感じ吹き飛ばされた。
「かはっ」
あまりの衝撃で聖剣はどこかに手放してしまった。
それよりも息ができない。
「野郎!」
ガオウとキリエが前に出て魔王に攻撃を始める。
俺の側にエリーシャが走ってきて治癒魔術をかけるが、気持ち楽になった程度であまり効果を感じない。
魔王の攻撃だからなのか、治癒魔術で対処できる限界を超えるダメージだったのか、判断はつかない。
エリーシャに手を振って戦闘に加われと合図する。
攻撃魔術の炸裂音や、剣戟、怒号が飛び交うが、一向に意識がはっきりしてくれない。
王剣を杖のようにしてなんとか立ち上がる。
玉座の方を見遣ると、ガオウが攻撃し、キリエが盾を使って攻撃を捌き、合間を見てアレクシアが槍を突き入れていた。
うまく連携がはまっている。
後方でメルドーズとエクセルは長時間の詠唱に入っている。大技をぶっ放すようだ。
他のメンバーは連携にぼろが出た時のために待機している。
なんとか普通に立てるくらいに痛みが引いてきた。
どうやら内臓なんかは無事だったようだ。
と、前衛にいた3人が一斉に下がった。
魔王は突然のことでぽかんとしている。
そこにメルドーズとエクセルの攻撃魔術が突き刺さる。メルドーズは炎、エクセルは雷である。
ここで前衛は交代、ソウリュウが重たい一撃を叩きつけ、タマが手数を稼ぎ、魔王の攻撃はエリーシャが捌くか、ルルが腕狙いの矢で止める。
魔王は確かに強大な力を持っているようだ。
だが、明らかに経験が足りていなかった。
まぁ、40のおっさんだという先ほどの言葉が正しければ、ゲーマーでない限りMMOの経験などないだろう。
そして、どうやらずっとこの城にいただけで、自分は何もしていなかったようである。
だから、完全に抑えられていた。
1対1なら間違いなく力負けするだろうが、熟練の戦闘員が連携できるのなら、対人戦の経験のない相手に負けはすまい。
「なんでだ!俺は魔王だぞ!力を持っている!なんで思い通りにならない!」
魔王の絶叫が部屋に響く。
より一層負のオーラが強くなる。
もっとも力がいくら強くなったところで、それを扱う経験の問題なので一撃で相手の攻撃を粉砕できるような力でない限り状況は変わらない。
「くそくそくそ、お前らふざけるな!女は死ぬまで犯したおしてやるからな!男も楽に死ねると思うなよ」
どう見ても負け犬の遠吠えである。
ボコボコにされて魔王は今にも膝をつきそうである。
だが、魔王に止めを刺せるのは勇者が振るう聖剣のみ。
俺は聖剣を見つけて手に持つと、ゆっくりと玉座にむかって歩き出した。




