2-12 大学生、魔王城に到達する
砦の脱出路から、魔王軍の攻勢に合わせて脱出し、敵戦線を迂回、昼夜問わず敵のいないところを突破して、敵前線後方への進出に成功した。
本来ならここで奇襲を加えて味方前線を支援すべきなんだろうが
「この人数じゃあなぁ」
俺はパーティーを見回していった。
勇者で名目上リーダーの俺、槍術遣いのアレクシア、治癒魔法の使える盾職エリーシャ、魔術師のメルドーズ、同じく魔術師のエクセル、エクセルの近衛騎士キリエ、弓遣いでハンターのルル、妖術士で狐人族のコハク、犬人族で格闘家?のガオウ、竜人のソウリュウ、斥候で猫人族のタマ。
以上11人である。
もっとも、この人数だから見つからずに前線を抜けられたのだろうが。
前衛、後衛がバランスよくはいるものの、回復役が一人というのは不安だが、この世界の回復魔法というのは、切り傷や火傷を治すことはできるが、完全に切断してしまったり骨折していたりすると治せないらしい。
死者蘇生なんてのは以ての外で、せいぜい従軍看護師程度の役にしかたたないから一定以上の怪我は医者と病院の領分とのこと。
斥候のタマとハンターのルルが前に出て、気配探知や遠見のスキルで偵察。
安全と見られるルートを素早く抜ける。
ここまではうまいことそれで抜けてこられた。
まぁ、魔王軍側も軍隊の背面強襲は警戒していても、こんな少人数では偵察はともかく、攻勢には使えないわけで、さして警戒がきつくないというのもここまで来れた理由だろう。
「魔王さえ倒せば、魔王が召喚した幹部は消滅しますし、魔物は統率を失って散り散りになります。今は一刻も早く魔王討伐を」
アレクシアは当初方針通りのことを眼前に広がる荒れた大地を見据えて言った。
不毛の大地にしか見えないここも元は穀倉地帯だったらしい。魔族に土地を支配されるということはこういうことだという実例だった。
「なんでぇ、ひと暴れしねぇのかい。俺一人で前線のひとつやふたつぶっつぶしてやるよ」
がはははと犬人族のガオウが豪快に笑った。
「ほんま、犬人は単純で下品でかなわんねぇ」
横で金髪の間から覗く狐耳をぴこぴこさせ、扇子で口元を隠しながらコハクが小声で言った。
「そうそう、犬はすぐに本来の目的を忘れるからにゃー」
のほほんとタマが言ってるが、猫よ気まぐれさではお前がナンバーワンだ。
「とにかく先を急ごう」
犬が狐と猫に噛みつきそうな気配があったのでそう言って先に進んだ。
結論から言うと、その後はぱったり魔物とは会わなかった。
魔王城。もとはステインの国の王都だったそこに入るも、全くの無人だった。
魔王もいないんじゃないか?と思ったが、王城からは禍々しい黒いオーラのようなものが立ち上っていた。
「魔王だけが城にいるのでしょうか」
エクセルが怪訝そうな顔をして言う。
「いってみりゃわかるぜそんなこと」
ガオウが拳を合わせながら言う。今にも突進していきそうだ。
「ここまで来たら迷っててもしょうがない」
「準備はしてきた。あとはいくだけだ」
そうだな。
ようやくここまで来たのだ。
あとは魔王を倒せば、元の召喚陣から日本に帰れる。どうやって召喚陣まで行くかは頭の痛い問題だが、今は考えない。
「ま、念のため姿は隠していきましょか」
そういうとコハクは全員に妖術をかけて視覚的には見えなくした。
結局、玉座の間の前まで何とも遭うことなく到着した。
そして、禍々しいオーラは明らかに玉座の間から噴き出していた。
「いくぞ」
そう言って扉を押し開ける。
扉が開ききる前にガオウ、キリエ、ソウリュウが突撃し、開ききると同時に詠唱を完了したメルドーズとエクセルの攻撃魔術が玉座に向かって炸裂する。
有無を言わせず、一気に不意打ちで押し切る作戦である。
「なるほど、俺が玉座に座っていればかなりのダメージだっただろうな」
攻撃魔術の爆音も治まりきらぬ部屋の中で、よく通る禍々しい低い声が響く。
そいつは玉座ではなく、入口から見て右手にある、サイドテーブルのある椅子に座って何かを飲んでいた。
黒い肌に赤い瞳、角と翼まで生えている。まさに見た目The魔王って感じである。
「作戦としては悪くなかろうが、その対象が玉座に座っているかどうかは確認すべきではないかね」
そいつは余裕ぶった態度を崩さず、続けた。
「あとまぁ、他人の城を勝手に使っている俺が言うのも何だが、君らは少し礼儀がなっとらんのではないかね」




