0-10 僕と副長、時々タコ(よっつめの世界)
今日も我が社が唯一保有する船である新生「ユーニービ」は海を行く。
結局、船を買ったはいいものの、軍艦が買えるわけも無く、そもそも海賊なんてヤクザな商売をわざわざ続ける必要もないだろうということで、普通の海上輸送業をやることになった。
で、街に残っていた元ユーニービ乗員を集めて船会社をやろう、となったときに副長を船長にしたら遭難してしまうとみんな泣いて止めたので、僕が社長兼船長ということになった。
よって、副長は相変わらず副長だし、機関長は相変わらず機関室から出てこない。
まぁ、船長といったところで、多少海図を読めて、現在地を(大きく外さずに)割り出せるという程度なので、実質的には航海長と言った感じで、指揮は副長に任せている。
元乗員たちによると、副長が暴走したときに止められる権限の人間が必要なので、(海図以外は)副長がやっていても問題ないらしい。
で、そんな船の甲板で副長と海を眺めてぼーっとしていると、
べちゃ
という謎な音がした。
「・・・べちゃ?」
「なんでしょう」
音のしたほうに行ってみると
「タコ?」
「タコですね」
「なんでタコ?」
そこにはタコがいた。
大きさとしては猫くらいだろうか。デカいと言えばデカいが、普通と言えば普通である。
「どうしたんですか」
「いや、なんかタコがいるんだけど」
そこに偶々通りかかる料理長。
腕には、夕食に使うのかエビの入った籠が抱えられている。
「おー、いいですねー、夕食にはタコも追加しましょうか」
「ダメですよ!こんなに可愛いのに!」
「「ええ・・・」」
たまに副長の感性がわからない。
「じゃあどうするんですか、海に投げ込みますか」
「このタコ怪我してるじゃない。可哀想でしょ」
良く見るとタコの足や頭に焦げたような傷があり、右目も潰れてしまっているようだ。
と、副長は料理長が持っていた籠から海老を一尾とると、タコの前に置いた。
「さあ、お食べ」
料理長が非難がましい眼でこっちを見てくるが、文句があるなら僕を見ずに副長に言ってほしい。
しばらくするとタコは恐る恐る、海老に足を伸ばし、食べ始めた。
「美味そうに食うなこいつ」
「そりゃ副長の夕食の海老ですからね」
料理長の言葉に、グギギといった感じに副長が振り返る。
当たり前なんだよなぁ。
「船長に貰うからいいです」
やらねぇよ?
食べ終わったタコは、のそのそと動いて副長の足元にひっついている。
「懐いてるの?」
「というか、タコなのに水中にいなくても平気なんですね」
「飼う」
「「は?」」
副長が足元のタコを撫でながら突然宣言した。
結局、副長の部屋(つまり僕の部屋)の住人がまた増えることになるのだった。
というか、このタコ全然水に入らないんだけどなんなの?




