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0-8 転移者、前を向く(日本)

日本に帰ってきてから放り込まれた病院で見たテレビはいつも通りだった。


芸能人の不倫がどうだとか、話題の店がどうだとか、どうでもいい話題で溢れていた。


たまに異世界の話題があると思っても、持ち帰ってきた新薬がどうだとか、異世界で見つかったレアアースがどうだとか、そのおかげで日本経済がどうだとか、そんな話題ばかりだった。


異世界に飛ばされてしまった人達の話題なんて、たまに被害者の家族会が政府に要望書を提出したとか、今度は会社がまるごと突然消えたとか、そんな話題が出る程度。

世間にとっては異世界に召喚された人達なんてどうでもいいのかと思ってしまう。


しばらく安静が必要と判断されて、暇だったのでスマートフォンでネットを見ていたら、異世界から帰ってきた人達もほとんどが取材拒否で、政府も身元情報を公開しないせいで全くニュースにならないと書かれていた。

ネットで話題になっているのは、帰還者から直接聞いたとかいう不確かであやふやな情報ばかり。


マスコミで異世界召喚に巻き込まれた個人が話題になったのは、3度も異世界召喚に巻き込まれて、3度とも自衛隊に救出され、大学卒業後に自衛官になったという人物くらいだった。

3度の召喚のうち2度は勇者として召喚されて、その世界に平和をもたらし、残りの1回も現地の人達と力を合わせて生き残ったとかで、まるで絵に描いたような英雄譚が話題になっていた。


彼は恵まれていたのだろう。

俺のように、何もなく街中に放り出されたりすることなく、その世界の勇者として呼び出されるなど、待遇が違いすぎて羨ましさすら湧いてこない。

きっと、マスコミの取材を拒否しているという帰還者達も、俺と同じなのだろう。


異世界に行っても、何もできず、ひどい目にあった。盗賊のように犯罪行為を行って生き残った者もいるかもしれない。

そんな人間が、カメラの前で何を語ると言うのか。

それなら静かに日常に戻りたいと思うのではないだろうか。


とはいえ、実際、学校に戻っても皆なんとなく察している。


行方不明だなんだと騒いでいたのに、しれっと戻ってきたのである。

マスコミからの情報がない分、周囲の質問攻めは苛烈である。

親しかった人間はもちろん、一言二言しか言葉を交わしたことがないような人間から、全く見ず知らずの人間まで、好奇心むき出しで質問してくる。


魔王を倒したのかだの、現代知識で商売を成功させたのかだの、みんな好き勝手なことを聞いてくるので、全てこう返すことにした。


「それができると思うのなら、今からアフリカのどっかの国に行って反政府ゲリラ倒して、国を立て直して来たらいいんじゃないか?」


そう言えば、ほとんどの人間はノリが悪いだの、つまらない奴だだのと言って去って行った。

異世界に夢見すぎだろと思う。

そして、そんなくだらない質問に応える度に、俺が無力だったからミリアもユートも死んだのだという思いが蘇ってくる。


そして、もう何度目かわからない、そんな問答に応えた時、俺はあの時から何も変わっていないのだと気付いた。

ただ、漫然と学生生活に戻り、日々を過ごしてきた。

異世界に行く前と後、何か変わったのかと聞かれると、何も変わっていない。


つまり、今も俺は無力なままなのだと。

だが、何をしたらいいのかはまるで分らなかった。

勉強したらいいのだろうか?

体力をつけたらいいのだろうか?

知識を身に着けたらいいのだろうか?


分からなかったので、とりあえず全部やることにした。

勉強して、走って、本を読む。


それで何がどうなるのかはさっぱりだったが、それに集中している間は無力だった自分を忘れることができた。

今はそれでいいと思う。

いつかきっと、ミリアやユートに顔向けできるようになったら、せめてきちんとした墓を建てに行ってやろうと密かに思うのだった。

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