0-6 日本政府の後始末(太平洋上)
「ああー、嫌だなー、行きたくないなぁ」
アメリカに向かう政府専用機の貴賓室。
そこで頭を抱えて悶えている人物が1人。
「そうは言っても、海上保安官を守るために戦って戦死した米軍軍人の葬儀なんですから、日本国の代表として行かないわけにはいかないでしょう」
それを呆れたように諫めるのは国土交通大臣。
「そんなのわかってるんだよ。だけどなぁ、戦死した軍人、子供もいるって話じゃん?」
頭を抱えて悶えている人物、日本国内閣総理大臣は言った。
先日行われた、工作船との戦闘で殉職した海上保安官の葬儀で、父親の棺を敬礼して見送った小学校低学年の子供を見てボロ泣きしてしまったのである。
最高指揮官としての責任感に欠けるとか、無責任だとか散々叩かれる羽目になったが、人間味があるとか、無表情より遥かにいいとかいう意見もあり、支持率に影響は無かったが。
「しかし弔慰金はアメリカ政府に拒否されちまったしなぁ」
「それは仕方ありません。向こうの意思を尊重しましょう」
日本政府から弔慰金をという話をしたのだが、アメリカ海軍の職務の中で戦死したのであり、不要であると拒否されていた。
「まぁ、日本人守って死んだ軍人にだけ追加で金が出るっていうのは、アメリカ政府としても微妙なんでしょう」
「そのへんは難しいなぁ。まぁ個人的に向こうが求めてくる分にはアメリカ政府も文句は言わんだろ。そのへん上手く処理しといてよ」
つまり官房長官に丸投げということである。
「はぁ。それは構いませんが、それより例の件、めざとい連中は気付いてるみたいですよ」
「そんなの知らんよ。在日米軍はタコの駆除に協力していただけだ。それ以上でも以下でもない」
ふんと総理大臣は鼻で笑った。
そもそもはネットで話題になった話である。
三沢から離陸した米軍のF-16が、離陸時は対レーダーミサイルと対地ミサイルを装備していたのに、長時間の飛行の後帰ってきたときは空荷だったという目撃情報である。
在日米軍の説明は、タコ討伐の支援。
自衛隊もそれを追認したが、なぜタコの討伐に対レーダーミサイルが必要なのか?という話であり、それと呼応するようにグアムでB-1の発着も確認されていた。
工作船の報復で北朝鮮を空爆したのではないか、という話が一部で広まっていたが、アメリカも北朝鮮も何も言わないので真相は闇の中ということになっている。
「日本もあれくらいやれりゃぁ舐められることもねぇんだがなぁ」
「総理、マスコミに聞かれたらまた面倒ですよ」
「わかってるよ」
なお、潜水艦のほうは中国がほんとに無視したので、日本もアメリカも、国籍不明の謎の潜水艦ということで処理した。
原潜の時点で中国かロシアしかねーだろ!という突っ込みが方々から入ったが、そこを突っ込んでも誰も得にならなさそうだったので、無かったことになっている。
「まぁ、何にせよ、葬儀に首脳会談とスケジュールは目白押しだ。今のうちに少し休んどくか」
「頼むから今度はボロ泣きしないでくださいね」
そう言って官房長官は部屋を出て行ったが、やっぱり翌日の朝刊をボロ泣きする総理の写真が飾ることになるのだった。




