11-21 タコの気持ち(いろんな世界)
黒いヒトガタに言われてから、谷に捨てられていたモノを一心不乱にもしゃもしゃと食べていると、気付いたら体が大きくなっていた。
そして、気付いたらよくわからない場所にいた。
青い空、緑の大地、木々の生い茂った森。
そのどれもがタコにとっては初めて見るものだった。
が、タコにはそんなことより重要なことがあった。
”どうしよう、ごはんがないよう。おなかすいたよう”
なんとなく食べるべき餌がどこにあるかわかるようになっていたタコは、その世界に餌がないことをなんとなく感じ取った。
”どうしよう、どうしよう”
そう思って混乱しているタコにとって、足元で魔法をぶっ放している人間は視界にも入っていなかった。
そして、また気付いたら世界が替わっていた。
が、やはり餌の気配は感じられなかった。
”ごはんさがさなきゃ”
とりあえず餌を求めてタコは動くことにした。
何も考えずに森に踏み込むと、突然大量のワイバーンが襲い掛かってきた。
”あっちいってよう”
特にダメージはなかったが、周りを執拗に飛ばれるのがいやで、足をめちゃくちゃに振り回して追い払おうとする。
が、ワイバーンも慣れたもので、足が全くあたらない。
そうこうしているうちにまたタコは光に包まれた。
”溺れちゃう!”
気付いたら海にいたタコは溺れていた。
タコなのに溺れるとはこれいかに、という話だが、タコの見た目をしているだけで、陸上生物だったので泳いだことがないのである。
というか、そもそもタコが生まれた世界では生物が入れるような水場は数えるほどしかない。
なんとか水上に浮いて落ち着いたところで気付いた。
”ごはんがある!”
まだまだ遠い場所だが、餌の雰囲気を感じ取ったタコは一直線に向かい始める。
ワイバーンはどこかにいってしまっていたが、餌を見つけたタコにはそんなことは関係なかった。
中々着かず、途中で何か飛んでいるものが近寄ってきたので、足を振ったらもう寄ってこなくなった。
ワイバーンもこれくらい素直だったらよかったのにと思うタコだったが、気付くと大きな船が横に並んでいた。
無視して進んでいると、突然、空から何か降ってきた。
”痛いよう痛いよう”
気付いたら並んでいた船も何か撃ってきていた。
”あっちいけ!”
空の方は遠くて足が届かないので、船の方を追い払おうとするが、逃げながら攻撃を続けていた。
”あっちいってよう!”
そのまま船の1隻を追いかけて追い払おうとしていると、右目に船の攻撃が飛び込んできた。
”イタイ!”
反射的に墨を吐き出して一気に逃げる。
その後、攻撃は止んだが、右目は見えなくなってしまった。
そして、船が離れていくと思ったら、頭上を何かが飛び去って、また世界が変わった。
が、すぐにわかった。
”帰ってきた!”
そこらじゅうに餌があるとわかったタコは喜んだが、それもすぐに吹き飛んだ。
大きな何かが組み付いてきて、口の中に腕を突っ込んできたのである。
”ヤダ!なんでみんないじめるの!?”
タコの頭に浮かんだのはそれだけだった。
口の中に次々とパンチされて、体内の貯めこんでいたモノを吐き出してしまう。
そして、吐けば吐くほど体は縮んでいった。
もうまともに動くこともできなくなったとき、吐き出した何かが突然光り出したのが目に入った。
”それは僕の!”
何故だかわからないが、それを取り戻そうとタコは足を伸ばし、そして、最後の転移をした。
”あいた”
どこかの船の上に落ちてきたのがわかった。
”痛いよう。お腹すいたよう”
左目しか見えない視界で周囲を見渡すと、自分を見下ろして何か言い合いをしている人達が目に入った。
なんて大きな人達なんだとタコは思ったが、実際には普通のタコの大きさまで縮んでしまっているのだが、タコは気付かない。
やがて、言い合いが終わったらしく、そのうちの1人が屈んで、タコの前にエビを置いた。
タコはエビを見るのは初めてだったが、恐る恐る足を伸ばし、そして食べる。
”おいしい”
幸せそうにタコはエビを味わうのだった。
これにて11章は終了です。
以前のお知らせ通り、ここでこの話も一区切りとさせていただきます。
この後数話エピローグを投稿させていただき、締めたいと思います。
残り7日、毎日更新は続けますので、どうぞ最後までお付き合いください。




