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異世界召喚による日本人拉致に自衛隊が立ち向かうようです  作者: 七十八十
第2章 ふたつめの世界 ~大学生、勇者になる~
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2-10 大学生、挫折する

「こんなところにいたんですか」


使われていない部屋、俗にいう倉庫の隅で膝を抱えて座っていた俺にアレクシアが声をかけてきた。

彼女はそれ以上は何も言わずに俺の横に座った。


時間だけが過ぎていく。

俺も彼女も何も言わない。

ただ、何も言わずに横にいてくれる彼女が今はありがたかった。




どれほどそうしていたのかはわからない。

5分だったのか1時間だったのか。それほど今の自分にとって全てが曖昧で、ぼーっとしていた。


なんとか獣人をまとめあげて、各国の主力が陽動のために魔族支配地域への大規模攻勢をかけようとしていたところに、魔族側が先に大規模攻勢をかけてきた。


雲霞のごとく押し寄せてくるゴブリンにコボルト、オークの大軍。

攻勢の準備を進めていた各国主力はそのまま防戦にまわったものの、十分な城塞があるわけでもなく、野戦築城の部隊は軒並み大損害を被った。


陽動に合わせて魔族支配地域にある魔王居城を急襲するため、最前線に突出した砦にいた俺たちも当然、この攻勢と混乱に巻き込まれた。

砦の防衛戦は熾烈を極め、2つある防壁のうち外側は抜かれて、大混戦となった。


その防壁を取り戻す戦いのさ中、パーティーで初めて死者がでた。


1人目は現在の魔族支配地域にあった国の王子で、道案内と祖国奪還のためにパーティーに加わったステインだった。

短い付き合いではあったが、メルドーズと3人で酒を飲んでバカな話をしたりする、王族だったことなど感じさせない、付き合いやすいいい奴だった。


2人目はドルイドのフィーリス。

ひたすら砦の見張り塔から狙撃していたルルを狙ったオークメイジの攻城魔法から庇った結果だった。


2人の死を目の当たりにして、怖気づいたわけではない。

ただ、現実感が全く湧かなかった。


あと1分早く着いていたらステインは死なずに済んだだろうか。

ルルとフィーリスを見張り塔に行かせなければ、フィーリスは死なずに済んだだろうか。


そんなことはわからないことは、わかっているし、恐らく2人が助かっても他の誰かが死んだのだ。


ステインは俺たちが駆け付けた時、避難民を背にオークキングと一人で戦っていた。

剣は苦手だ、ほんとは城で本でも読んでいたかったと笑っていた奴が、鬼のような形相で自分の倍以上あるオークキングと戦っていたのだ。

俺たちが到着したのを見た瞬間、俺を見て笑いかけ―オークキングに胸を貫かれた。

まるで、俺達が到着するまで避難民を守るために残りの命を燃やし尽くしたかのような最期だった。


パーティーの集中攻撃でオークキングを倒した後、僅かに息の残るステインは似合わないことしてないでさっさと逃げ出せばよかったのだと泣く俺に、


「ノブリスオブリージュだよ。王族として生きた僕は義務を果たさなければならない。国を守れなかった僕は二度と民を捨てて逃げ出すなんて真似はしたくなかったんだ」


と力なく笑った。


「勇者なんて地位を押し付けられた君は迷惑かもしれないけど、どうか勇者の義務を果たしてこの世界を、僕の故郷を」


そう言って事切れた彼の顔を忘れることはないだろう。


だが、それでも、勇者の義務なんて他人事としか考えられなかった。

そもそも、陽動の攻勢どころか、防衛すらままならない現状でどうやって魔王城に到達するのか。


フィーリスは今も見張り塔の瓦礫の下だ。

ルルは自分の不注意のせいだと泣いていた。

瓦礫になった見張り塔を見ても、フィーリスが死んだ実感は湧かなかった。

またひょっこり顔を出すのではないか、そんなことを考えてしまう自分がいた。


なんで俺はこんなところにいるのだろうか。

なんで俺はこんなことをしなければならないのだろうか。


ステインの願いを叶えてやりたいとは思う。

だが俺はただの大学生だ。

気付いたら勇者にされていたにすぎない。

家に帰って布団にくるまって寝てしまいたい。

そして起きたら、行くのが面倒だと思っていた授業に出て、部活に出て、酒を飲んで。

そんな日常に帰りたい。


「以前」


俺の思考がどんどんダメな方に流れていく中、アレクシアが唐突に口を開いた。


「どうして利用して切り捨てるつもりだったのに気が変わったのか知りたがってましたよね」


そういえばその時は教えてくれなかったのだった。


「ちなみに、利用してポイはやめて協力してあげようと思ったのは、実は初めて会ってお酒飲んだ時なんですよ」


いたずらっぽくアレクシアは笑うが、その顔には疲労の色が濃い。

無理をして俺を励まそうとしてくれているのだろう。

思えば彼女には助けられっぱなしな気がする。


「知らないところに連れてこられて、望まないことを押し付けられて、もとのところに帰りたいっていうあなたの愚痴を聞いて、あなたを元の場所に帰してあげたいって思ったんです。」


一息置いて彼女は言った。


「昔の私と同じだったから」

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