11-18 会議は踊る(日本)
「えー、第一次討伐作戦は失敗に終わりました」
首相官邸の会議室で関係閣僚を集めた会合が行われている。
その場で、防衛大臣は最初のタコ討伐が失敗に終わったことを告げる。
「失敗の要因は?」
「火力不足ですかね?」
防衛大臣も疑問形で応えるが、横にいた統合幕僚長は72発も500ポンド爆弾投下して火力不足とかねーよという顔をしていた。
「まぁ失敗したものは仕方ない。それよりも問題は、工作船の後始末と潜水艦のほうだよ」
「しかし、タコは元の針路に戻っています。このままではそのうち首都圏に上陸しますよ」
タコの話題を早々に終えようとする首相を経済産業大臣が牽制する。
「タコについてなのですが、1つわかったことがあります」
それまで黙っていた統合幕僚長が口を開く。
求められるまで黙っていようかと思っていたのだが、話が迷走しがちなので黙っていられなくなったのである。
「我が国で開発した異世界転移装置B型には全て位置確認用のレーダービーコンが埋め込まれているのはご存知ですか」
「それは知っている。異世界に行ったときにそこを基点に探索するから、位置確認も兼ねて装着しているのだろう」
それがどうしたといった感じで国土交通大臣が言う。
ちなみに、異世界転移装置A型は試作機なのですでに破棄済み。B型が部隊転移用の大型、C型が緊急連絡や事前偵察に使われる小型である。
「あのタコからそのビーコンの反応があります」
「「「「「「はあ????」」」」」」
室内がポカーンという擬音がぴったりな状態になる。
「じゃあ、何か、あのタコが転移しとるのは自衛隊や米軍と同じ仕組みということか」
「いや、というよりどこかで転移装置を食べたってことか?」
ガヤガヤとそれぞれが思い思いに発言しだす。
「静粛に!」
それをパンと手を叩いて官房長官が収める。
「それで、防衛省の見解は?」
「BC001の世界で地震により放棄した放射性廃棄物処分場がありましたが、その際に予備として地下倉庫で保管されていた異世界転移装置B型が1基、回収不能で放棄されています」
「それだという根拠は?」
「所在不明の異世界転移装置B型はそれしかありません」
ううむと何人かが唸る。
「それはつまり、あのタコが体内に貯めこんどる有害物質は、我々があの世界に捨てた物だということか?」
「その可能性が高いかと」
首相は完全に頭を抱えて机に突っ伏している。
「おそらくタコの体内に貯めこまれた放射性廃棄物の放射線や熱で、転移装置が誤作動して転移を繰り返しているのだと思われます」
「ならしばらくすれば勝手にいなくなるんじゃないか?」
「その可能性はありますが、エネルギーがほぼ無尽蔵である以上、転移は繰り返されますので根本的な解決になりません」
統合幕僚長ははっきりと断言する。
「なにか案があるのだろう、聞こう」
首相は縋るように統合幕僚長に先を促す。
と、そこで扉が叩かれ、1人の官僚が入ってきた。
「なんだ!会議中だぞ!」
怒鳴られるのも構わず、入ってきた官僚は一枚のメモを防衛大臣に手渡した。
「なんだね?」
「・・・タコに接近した例の潜水艦が、タコに沈められたようです」
何人かが呆れたような顔をする。
「その様子を監視していた護衛艦によると、原子炉だけ取り出して食べたように見えた、と」
「核物質が主食だという確証が得られたな」
「なら尚更、早く止めないとまずいぞ」
再び会議室が騒がしくなる。
「静粛に!」
そして再び官房長官が手を叩いて静かにする。
「統合幕僚長の作戦案を聞こう」
促された統合幕僚長は、タコの体内から転移装置を安全に除去する作戦案の説明を始めるのだった。




