11-13 緊張高まる(日本)
”こちらは日本国海上保安庁の巡視船である。これから貴船に立ち入り検査を行う。直ちに停船しなさい”
警告をしながら同航を始めて、1時間が経過しようとしている。
前回の不審船騒動と異なり、連中の向かう先はどこまで行っても日本の200海里内なので、今のところ強行措置はとられていない。
もっとも、相手の数が多すぎるので応援を待っているという理由もあるが。
船名は中国船らしきものだったので、中国に照会したところ、公式に我が国に該当する船はないと回答してきていた。
中国船だといって介入してくることも懸念されたが、さすがに武装した工作船だった場合に国際社会で引っ込みがつかなくなるので自重したようだ。
《海上自衛隊哨戒機より通報、中之島水道を通過する国籍旗を掲げない漁船団を発見。速力25ノットで東に向かう模様》
管区本部からの無線は、他にも不審船団が見つかったことを告げていた。
「おいおい、あの国にまだそんな力が残ってたんだな」
「ひょっとすると、異世界転移できるタコをどうにかしようとしてるんじゃないですか」
「だが、100mもあるタコをあんな小船でどうするんだ」
と、そこで再び無線のブザーが鳴る
《海上自衛隊哨戒機より通報、口之島水道を通過する国籍旗を掲げない漁船団を発見。速力25ノットで東に向かう模様》
あかいしの船橋にいる乗員全員に嫌な汗が流れる。
《第五管区より増援、きい、とさ、こうや、あらせが急行中。あかいしはヘリの受け入れ準備を行え》
第五管区からの増援と同じタイミングでのヘリの受け入れ準備。
「特殊警備隊ですね。受け入れ準備をします」
上は強硬手段をとることに決めたということか。
「警告弾を使用する。投擲距離まで接近せよ」
警告弾は殺傷を目的としない手りゅう弾のようなもので、大音量と閃光を発すると言う点ではスタングレネードに近い。
同じ船団を追跡する巡視船に連絡しようとしたとき、あかいしの周囲を再び海自の哨戒機が旋回し始めた。
「船長、発光信号です」
「読め」
上を通じて通報するほどではないが、伝えておいた方がいい情報を現場レベルで非公式で哨戒機が教えてくれる時にとる原始的な方法である。
見た人間にしかわからないので、どこにも記録が残らないという現場レベルの省庁間協力である。
「えーと、ここで”繰り返す”だから」
「まだか」
とはいえ相手は速度を落としているとはいえ、旋回している哨戒機である。
それが発している発光信号を解読するのは、船同士よりもはるかに難易度が上がる。
解読を終えた乗員が青い顔をして顔を上げる。
「この先に戦闘態勢の米海軍駆逐艦がいます」
「なんでこんなところにいるんだ!?」
そして、再び無線のブザーがなる。
《政府発表、種子島海峡を潜航したまま通過した国籍不明の原子力潜水艦あり。種子島領海への侵入を確認し、本不審船事案と合わせて、自衛隊に対し海上警備行動が発令された》
こいつか!
船長は海上自衛隊で行われた研修での会話を思い出す。
佐世保の護衛艦に乗って、軍艦とはどのような船なのかという海自と海保の相互理解のために行われた研修だった。
「どれもこれもPLHクラスというのは羨ましいですなぁ。防弾もしっかりしているのでしょう」
「そうでもありませんよ。基本的に現代の軍艦は接近戦が考慮されていませんから、重要区画を除けば弾片防御、爆発の破片に対する防御程度しか考えられていません。ソマリア派遣のときだって、艦橋には防弾版外付けしていったくらいですから」
「え、そんなのでいいんですか」
「基本的に現代の艦船は相手より先に撃って当てる。相手の攻撃は当たる前に止める。という思想で設計されています。まぁ、要するにミサイルの撃ちあいですな。なので、小型船舶の接近には脆弱だったりします。米海軍もそれで自爆テロをやられてますしな」
「え、じゃあ、工作船が接近してきたらどうするんですか」
「それ以前の話として、自衛隊は平時は怪しい船が接近してきても一発たりとも撃てませんよ。米軍なら躊躇わずに撃つでしょうが」
それで部下を失うかもしれないという場面でも、私は上の命令が無い発砲を躊躇するでしょうなぁ。とその艦長は悲し気に笑っていた。
米軍なら躊躇わずに撃つ。
あの艦長は、平時でも怪しい船が来たら米軍は撃つと言った。
まして、今はもはや平時ではない。
「戦闘になる」
「は?」
思わず思っていたことが口に出てしまった。
「各船に連絡。警告弾を使用する。なんとしてもここで止めるぞ!」




