11-7 自衛官、タコを見る(ひとつめの世界)
「で、あのタコどこ向かってるんだ?」
「このままだと1時間ほどで魔族領に入りますね」
二尉が地図を見ながら言う。
「こっち来ないなら問題なくね?」
「いやいやいや、こっち来られても困るから」
すかさず魔王が突っ込んでくる。
「とはいえ、自衛隊の主力ってもう帰っちゃったよね」
「そうですね。とりあえずはこの世界の方たちでどうにかしてもらわないと」
完全に他人事のように俺と二尉が言う。
「お前ら意外と冷たいな!?」
「いや、だってどんなに急いでも1日はかかるし」
24時間の即応実戦体制なんてスクランブル待機の空自か海自しかやってない。
人を集めて、装備を点検して、弾を支給してとやってると、どうやっても時間がかかる。
「というか、お前明らかに、王都の家だけ無事ならいいやっていうのが顔にでてるからな」
魔王にびしっと指差して言われる。
そら今の俺の安息の地だし多少はね?
「まぁ、応援は頼んでますから、それまでは足止めだけでも」
二尉が魔王を宥めるように言う。
「そうはいっても、あれはデカすぎるだろ」
魔王はぐぬぬとタコを見上げる。
魔王のくせに情けないな。なんかこう、ズバっとすごい力でやっつけたりできないのか。
「そんなことできるならお前らに負けてないからな?」
ソレモソウデスネ。
「あ、飛竜」
双眼鏡を覗いていたマリアが声を上げる。
「む、縄張りに入ったな。あいつら数は多いから、タコが気を取られて止まってくれるといいのだが」
見るとタコの周囲を大量のワイバーンが飛んでいた。
とはいえ
「人から見たら蚊くらいの感じかね?」
「もう少し大きいのではないか?」
魔王とそんなどうでもいい会話を交わす。
「ふむ、別に軍を動かさなくても足止めできそうだな」
ワイバーン多いな。というか
「魔王としてあれ助けなくていいの?」
「あれは魔物だからな。魔族なのはドラゴンだ」
「どうやって区別するんだ?」
「意思疎通できるかどうかだ」
わかりやすいような、わかりにくいような。
タコは周囲を飛んで攻撃してくるワイバーンを鬱陶しそうに、足を振り回して追い払っている。
結果的に足止めは出来ているので、ラッキーか。
「しかし、タコは足を振り回すしか攻撃手段無さそうだな」
「とはいえあの大きさだぞ?叩きつけられるだけで大惨事だ」
魔王と戦力評価を行っていたら二尉に突っ込まれた。
「人の話聞いてました?これ以上近付くと線量とかいろいろ危険で危ないです。それが最大の攻撃でしょう」
確かにその通りだ。
って、ん?ちょっとまてよ。
「そういやタコって墨吐くよな?」
「そうですね」
「あれが吐く墨はとんでもない汚染物質なのでは・・・?」
うわぁという顔を二尉とマリア。
魔王は線量とかがよくわかってなさそうだ。
「あ、なんかタコ光ってる」
「転移するときの光に似てますね」
言ってる間に、強烈な光を放ってタコは消えた。
大量のワイバーンを巻き込んで。




