11-6 自衛官、新婚生活(?)を過ごす(ひとつめの世界)
ぐびりとティーカップに入った液体を飲み、再びごろんとソファーに寝転がる。
日はまだ高いが、休暇中なので気にしない。
「んー、暇ですね」
向かいのソファで同じようにぐでーとしているマリアが言う。
「いいじゃん、暇。何もないってサイコー」
考えてみたらアメリカから戻ってからずっと派遣続きだったし、休むにはいい口実だったよね、結婚。
「それはそうなんですがね、こう、何か面白いことがないと退屈じゃないですか」
ぐびりと俺と同じものが入ったティーカップを飲む。
こいつ仕事中じゃなかったっけ?
最早、紅茶の香りづけにブランデー入れてるのか、ブランデーの香りづけに紅茶いれてるのかわかんないんだけど。
「おーい、結婚したと聞いて祝いに来てやったぞ、って酒くさっ!」
魔王が何やら部屋に入ってくるなり失礼なことを宣っている。
「何を祝うって?俺がこれに捕まったんがそんなに可笑しいか、可笑しいのか、とりあえず飲めー」
そう言って魔王の口にブランデーの瓶を突き刺し、顔を上に向ける。(※良い子は絶対に真似してはいけません)
「ぬおおお、なんのこれしきいいいい」
ゴクゴクと瓶の中身を飲む魔王。
ちなみに、魔王が結婚を祝いに来るのは3回目だが、毎回記憶を失くして帰っていくので、毎回結婚してから初めて会うかのようにやってくる。
瓶からゴクゴクとブランデーを飲む魔王を見てマリアはゲラゲラ笑っている。
「マリア!初孫はまだかね!」
今度はお義父様がやってきた。
一応、マリアは世間的には家を継がせるための養子ということになっているが、本当の親子らしい。
そのあたりの話は面倒なので詳しく聞いていない。
とりあえず、いろいろあってマリアを孤児院に入れざるを得なかったので、それの償いかのように大手を振ってマリアと接することができるようになってからダダ甘らしい。
そんなので俺との結婚も反対されるかと思いきや、マリアの選んだ勇者なら問題ないとか言われて、会うたびに孫はまだかとせっつかれている。
そういえば、俺この世界だと勇者として召喚されたんだったね。
「大変です、一尉!」
魔王と伯爵が飲み比べを始めてカオス時空になりつつある部屋に、嫌な呼称が響く。
「一尉ならいないよ。休暇取ってベガスに行ってる」
「いや、ふざけないでください。マジで大変なんですから、って酒くさっ!」
そういうこの世界に駐留している二尉だが、そんなに大変なら俺に言わずに上に言えよ。
「俺は休暇中だから仕事しないよ」
「バカデカいタコが現れたんですよ!100mくらい」
「「よっしゃ面白そうやし、見に行こう」」
見事にマリアとハモった。
「で、あれか」
「あれですね」
「たこわさ食べたい」
「あのでかさのわさびってあるのか?」
「あの・・・あれ食べるんですか?」
ヘリを使って巨大なタコが現れた現場に見物に来たが、主に自由な発言をしているのは俺とマリア、引いているのは二尉である。
「というか、遠いな。もっと近づいて見物してもいいんじゃないか?」
「これ以上近付くなら防護服いりますけど?」
「は?」
防護服?
「どうもあれの体内には大量の放射性物質や有毒物質があるみたいで、これ以上近付くならNBC防護が必須です」
やっかいなタコだな。というか、それじゃあ
「「食べられないじゃん!」」




