10-12 転生者は穏やかな日を過ごす?
ベルトロイ侯爵軍の侵攻をけちょんけちょんにして退けた後、トレラータ地方の再興は思ったよりも早かった。
放っておいても、自衛隊と米軍が勝手に動き回っていろいろ集めてくるので情報収集が迅速だったのが良かった。
もっとも、大して得られるものが無いとわかると、米軍はさっさと別の場所に行ってしまったが。
俺も治安が安定しているのを確認して、王都に戻ってきた。
今日は久しぶりに嫁全員と家族水入らずのお茶会である。
特に、リースはずっと王都に残って国政を処理してくれていたので、その労いの意味もある。
というわけで、部屋のソファの中央に俺、両脇にクリスとリース。
そして2人がなんやかんやと世話を焼いてくれる。
いわゆるラブラブ状態である。
うむ、苦しゅうない。
「あの・・・」
向かいから声がかかる。
そこには床に正座させられているエリザがいる。
多分、血筋とか考えると一番偉いはずなのだが、まだ怒られているのでその位置である。
いや、床って言っても、王城の私室だから、ふかふかの絨毯だしね?
「なんですかエリザさん?」
クリスの言葉に、エリザがびくっと体を震わせる。
一体彼女の中にどれほどの恐怖心をクリスは植え付けたのだろうか。
「私もそっちに行ってもよろしいでしょうか?」
敬語かよ。
「ダメです」
そしてそれをピシャリとお断りするクリスさん。
「だってまだなんで私とテリオスが怒っているのか、わかってないでしょう?」
いや、俺もう怒ってないよ?
後先考えず無茶したことには怒ったけど、それはエリザを心配したからだし。
「えーと、私が1人で飛び込んで戦果を全部ひとり占めしようとしたから怒られたんだよね?王として部下にも手柄をあげないといけないよね?」
こいつまじか。
さんざクリスに説教されたのに、俺とクリスが怒った理由わかってないの?
「エリザ?あんまりふざけてると本気で怒るよ」
「えっと、えっと・・・」
クリスサンコワイ!
救いを求めるように、エリザが俺を見てくる。
とはいえ、ここで露骨に助けると、俺のほうにもとばっちりが。あとこればっかりはわかってもらわないと、多分次も同じことする。
「エリザは1人で突出したよね?」
「うん」
「それでどうなった?」
「えっと、不意打ちでバランスを崩したけど、なんとか立て直してあなたと一緒に敵を一掃した」
肝心なとこを飛ばしてるし。
「俺がたまたまタイミング良く落ちてきたから良かったけど、俺が間に合わなかったらどうなってた?」
「えっと・・・攻撃を受けてた」
エリザはしゅんとしている。
王位継承のゴタゴタのときにも騎士を駆って戦ったようだが、一度も攻撃を受けたことが無かったというエリザにとって、今回の件はそれなりにショックだったようである。
俺が考案した制御系の悪い部分が出たせいな気もするが、それは今は置いておく。
「侯爵軍の騎士に乗ってた日本人がいただろ。戦闘で友人をみんな失って抜け殻みたいになってた。俺もエリザを失ってたらあんなになってたか、後悔で泣き喚いてただろう」
友人を殺した相手にすら何の感情も湧かないと答えた、あの少年を思い出す。
「俺もクリスも、エリザが心配だったんだ。大切な家族だし、失いたくない」
あと、王族の血筋はエリザだけなので、いなくなると国家運営的にも非常にやばいことになるだろうが、それは個人的にはどうでもいい話だ。
「なんで怒ったかわかったか?」
エリザを見ると、綺麗な顔をぐちゃぐちゃにして泣いていた。
「ごめ゛ん゛な゛さい゛ー」
そのまま俺の腹のあたりに抱き着いてきて、顔を埋めて声を上げて泣き出した。
王室の後継者争いの中で生きてきた彼女は、家族というのは敵だったと以前言っていた。
俺が思っているように、みんなも大切に思って欲しいと思う。
「エリザさん」
クリスがエリザに笑顔を向ける。
「誰がこっちに来ていいと言ったんですか?」
鬼かお前。
その後、4人でわいわいとお茶会を楽しんでいると、突然、部屋の扉が叩かれた。
「陛下!緊急事態です!大型の生物が現れました!」
何?熊かなんかがでたの?
「日本の方は怪獣?とかいって大騒ぎされてます!」
・・・怪獣?




