10-10 転生者は戦場跡を見て歩く
結局、戦闘は王国軍の一方的な勝利で終わった。
勝手に突出した挙句、危ない場面もあったエリザは、俺とクリスにしこたま怒られて凹んでいる。
俺の騎体に勝手にロケットブースターをつけた防衛技官は、結果的にエリザのピンチを救うことができたので、以後勝手な改造を行わないと誓約させてお咎め無しになった。
今思い出してもあのジャンプはぞっとする。
結果的に、着地点がうまい具合にエリザが戦闘中の地点、それも危機に陥ったところだったので、うまい具合にバーニアの噴射と、着地点にいた騎士に長刀を叩きつけて衝撃は相殺できた。
まぁ、叩きつけた長刀と騎士はぐしゃぐしゃだが、エリザを助けられたので良しとしよう。
今は護衛はいるものの、1人で戦場跡を歩いている。
エリザは王都に帰した。1人で突出したことを少しは反省してもらわないといけないので、クリスも一緒である。
王都までの道中、散々お説教をしてくれることだろう。
俺はしばらくこの地方に留まって、皇国の占領中にグチャグチャになった内政の立て直しである。
皇国の、というか、実質的に支配していたベルトロイ侯爵の圧政の反作用で、住民は王国に戻れたことを喜んでいる。
住民感情が良好というのは、内政を立て直すうえで大きくプラスだろう。
「と、こりゃひでぇな」
騎士に乗らずに、散歩のつもりで歩いて戦場跡を見て回っていたが、ほんとに見たかったのは着地点にいた騎士である。
頭部からコクピットのある胸部、果ては腰部に至る辺りまで、ぐしゃぐしゃになっている。そこに長刀も残ったままである。
よく見ると、衝撃に耐えられなかったのか、脚部も破損しているようだ。
とても長刀で倒された騎士には見えない。
そんな騎士に何人か取り付いて、コクピットをこじ開けようとしている。
放っておくわけにもいかないので、放置されている侯爵軍の騎士の回収を進めている施設部隊である。
「任務ご苦労。どんな感じだ」
騎士に取り付いている兵士に声をかける。
「どうもこうもねぇよ。ぐしゃぐしゃだ。ミンチよりひでぇよ」
作業をしたまま応えた兵士が、俺の方に顔を向けると、慌てて他の兵士に声をかけて騎体から降りてきて整列した。
彼らの眼はめんどくさいことさせやがって、という感じではなく、憧れのエースパイロットを見る眼である。ずっとそうありたいものだと思う。
「いや、邪魔したみたいで悪いな。作業を続けてくれ」
整列した全員を労うと、部隊長は恐縮して縮こまっていた。
ほんとはその騎体のコクピットの状態じゃなくて、全体の作業の状態を聞きたかったのだが・・・。
まぁ、それをいうと部隊長がますます恐縮しそうだったので、触れないことにする。
ぐしゃぐしゃの騎体を離れて、別の大破した騎体に近付く。
あれは確か、侯爵軍の大将を務めていた嫡男の専用騎か。
見事に上と下に別れている。
降伏させて捕虜にして、第二皇子に引き渡してやれば利用価値もあっただろうにと思うのだが、多分エリザは戦場ではそんなこと考えてないんだろうな。
「この操縦士は?」
一応確認してみる。
「ユートロイ・ベルトロイ次期侯爵ですね。残念ながら負傷による失血が多く、コクピットを開けた時にはもう・・・」
「そうか・・・」
もうちょっとエリザには戦場でも普段の冷静さを保ってもらいたい。
「あっちのは?」
同じく、エリザに長刀で薙ぎ払われた騎士を指差して言う。
あちらは入り方が悪かったのか、棍棒で殴られたように全体がひしゃげているが、原型は保っている。
「フレームが歪んでいて開けるのに苦労しましたが、操縦士は無事です。目立った外傷は無いようなので、直に意識を取り戻すのではないかと」
「ふーん」
見ると、ひしゃげた騎体の前に、手錠をされて寝かされている男がいた。
かなり若いようだ。というか、高校生くらいか。
それにしても
「黒髪だし、顔の感じも日本人みたいだな」
「言われて見れば、日本から来ている方々に似ていますな」
同行の護衛も日本人みたいだという意見に同意する。
「これが異世界転移者って奴かな?一応、自衛隊に知らせておけ」
そう指示を出したところで、寝ていた男が目を開いた。
「お、起きたか?」
俺が覗きこむと、男は不思議そうにこちらを見返してきた。




