10-9 転移者、己の無力を悟る
伏兵が出現してからは、一方的にやられるだけだった。
敵陣の直射圏内まで進出していた主力は、もともと敵の初撃でかなりの損害と混乱状態に陥ったうえ、後方に伏兵が現れたとの報告で、統率を完全に失ってしまった。
大方が伏兵に対処しようと、本陣の方に後退する素振りを見せたが、敵の射程内で背を向けることになり、余計な損害を増やした。
一部が、強行に敵陣に突入しようとしたが、砲撃の精度と威力が段違いで、こちらも損害を増しただけだった。
『どうする!?』
本陣のユートに声をかける。
前線を捨てて撤退するにせよ、前進して救援に向かうにせよ、本陣が動かないことには1人では何もできない。
『あううう』
ユートの騎士は完全に棒立ちで、現状に思考が追い付いていないようだ。
こういう時に頼りになるのは騎士団長だが、生憎と騎士団長は前線であり、無事なのかどうかも不明である。
『アキト!敵が来る!』
やはりうちの大将が再起動するまで待ってはくれないようだ。
ここで迎え撃つしかない。
『すぐ行く!』
とはいえ、前線がやられたあの砲撃をやられると為す術無いので、伏せるくらいしかできないが。
『大将はダメだ。ここで迎え撃つしかない』
ミリアの横に並び、ユートの様子を伝える。
言葉には出さなかったが、ミリアの失望したような雰囲気が伝わってくる。
ユートは完全に勝ち戦のつもりでいたから、突発的な事態への対処を何も考えていなかったのだろう。
とはいえ、ろくに勉強もせず放蕩していたツケがここで来たということか。
その放蕩がなければ俺もここにいないのだから、困ったものだ。
『あれは・・・』
ミリアが呟く。
見ると、深紅に塗られ、特殊な装飾の施された騎体がすごい速度でこちらに接近してきている。
火力支援騎が攻撃しているものの、元々陣地攻撃用の大型砲で、間接照準を前提にしているのでまるで照準が追い付いていない。
というか、それ以上にあの騎士の動きが異常である。
『あれはエリザベート女王の専用騎マジェスティ!あれを潰せれば流れが変わるぞ!』
ミリアが興奮して叫ぶ。
とはいうものの、動きがこっちの騎士とはまるで違う。
王族用の専用騎ということを差し引いても、ちょっと異常である。というか、どう見ても動きがゲームやアニメで想像する戦闘用ロボットの動きである。
幸い、武装は接近戦用の長刀を二刀流なので、砲撃はこないが、このままでは間違いなく肉薄される。
こちらの本陣で、支援砲撃用ではない通常の騎士は俺とミリア、それにユートだけである。
うちユートは専用騎だが、思考停止状態で使い物にならないので、俺とミリアであれをなんとかしないといけない。
『ぶつけてでも止めないと!』
『無茶すんな!』
止める間もなく、ミリアが火力支援班の前に出る。
深紅の機体はもうすぐそこまで来ている。
ミリアは長刀と大楯装備。
大楯を前に出し、そのまま深紅の騎士に突撃する。文字通りぶつけて動きを止めるきだろう。
が、相手はそんなことは百も承知と、打ち合うことすらなく、交叉する直前、ジャンプでミリアの機体を飛び越し、火力支援班の真ん中付近まで跳躍する。
『しめた!』
ジャンプは騎士ができる移動の中で、距離を一気に詰めるのに向いているが、距離が伸びれば滞空時間も増えて着地点を狙われやすくなる。
連続して風魔法を発動できない都合で、一度跳んでしまえば着地点はずらせない。
『もらった!』
着地点を予測し、魔石投射砲を発射する。
間違いなく命中する、そう確信してトリガーを引いた瞬間、深紅の騎士が横にズレた。
まるでスラスターのように何かを噴射し、着地点をズラしたのである。
何もない地面に俺の放った魔石が着弾し、爆発を生じさせる。
その時には、深紅の騎士はとりあえずといった感じで、周囲にいた火力支援騎に向け、両腕に装備した長刀を薙ぎ払っていた。
『畜生!』
『それ以上やらせない!』
俺が射撃、ミリアが体当たり紛いの格闘で動きを止めようとするが、深紅の騎体はそれを嘲笑うかのようにこちらを無視して、逃げる火力支援騎を狩り続ける。
『うおおおお、止めろおおお!』
『ユート!?』
突然、飛び込んできたユートの専用騎が深紅の騎士に斬りかかった。
俺とミリアにとっても予想外だったが、相手にとっても不意打ちだったらしく、攻撃は外れたがムリな回避をした深紅の騎士はバランスを崩し、動きが止まった。
『もらったあ!』
攻撃も何もない、ただぶつけてでも相手を倒す。
気迫だけでミリアが突撃する。
深紅の騎士の立て直しと回避は間に合わない。そう確信したとき、突如、空から蒼い騎士が降ってきた。
その降ってきた騎士は、地面に叩きつけるように長刀を振っており、その長刀は――――ミリアの騎士をとらえ、頭からコクピットのある胸部までを、原型を止めずに破壊した。
『ミリアーーーーー!』
俺の絶叫と同時に、立て直した深紅の騎士がこちらに急接近して長刀を振るうのが見えた。強い衝撃とともに、俺の意識は暗転した。




