10-7 転移者、なにもできない
『なんだあのバカでかい騎士は!?』
王国軍陣地に鎮座している通常の騎士の4倍ほどは高さのある大型騎士に部隊で動揺が広がる。
『バカ者!あんなものこけおどしだ!的がデカいんだから外すなよ!』
騎士団長の指示で、部隊は一斉に砲撃準備に入る。
魔石投射機による曲射なので、牽制程度で当たればラッキーといったところだが、王国軍が高台に防御陣地を築いているので、無策に近づくわけにいかないからである。
『爆炎術式を使う。カウント5秒前、3、2、1』
バンと火薬とは異なる、魔石投射砲の発射音が連続する。
風魔法でつくった圧縮空気を使用して、攻撃魔法が込められた魔石を飛ばすので、いわば大きなエアガンである。
少しすると王国軍の陣地付近で爆発がいくつも起こる。
陣地に落ちたのもあれば、まったく見当はずれの場所におちているものもある。
基本的に方角は目測で合わせるしかないので、仕方ないのだろうが、改善しようという奴はいないのだろうか?
全体的に、この世界は道具の改良とか発明の意欲が薄い気がする。
魔法でどうにかなるせいだろうか。
『突撃!』
騎士団長の号令で50騎の騎士が走り出す。
俺とミリアは本陣直掩なので、これで仕事終了。
本陣には他に、支援砲撃を続ける大型魔石投射砲を装備した火力支援騎が20ほどいて、そちらは砲撃を続けている。
けど、砲撃って基本的に大楯で防がれるから効果が薄いって話じゃなかったか。
『はじまったな』
『そうだね』
ミリアと言葉を交わすが、無線というわけではなく、他にも丸聞こえなので、雑談はできない。
『あとは見てるだけか』
『本陣直掩に仕事があったら困るよ』
まぁその通りなのだが、なんだか残念な気もする。
『・・・そういえば向こうからの反撃が無いな』
こちらが射程内ということは向こうも射程内のはずだが、一発も飛んできていない。
『そういえば・・・おかしいわね』
何か企んでるのだろうか。
いずれにしろ、今のところ大楯は持っているだけである。
『まぁ、相手は50騎しかいないようだし、勝ちは動かんよ』
いつの間にやらユートの乗騎が横に来ていた。
『いや、大将が前に出るなよ』
『少しくらい前に出て指揮をとってた風にしないと、次期当主としていろいろあるんだよ』
はぁと溜息が聞こえてきそうな口調でユートが言う。
『ここを取り戻せばいよいよ国内の逆賊どもだ!機会はいくらでもあるから今は直掩を頼むよ』
それだけ言うとユートは下がっていった。
『もうすぐ直射の射程内に入る』
戦況を見ていたミリアが教えてくれる。
見ると、味方が魔石投射砲を直接照準で狙える距離まで近付こうとしている。
相変わらず王国軍からの反撃はないようだ。
『あ、射撃体勢に入った』
味方が射撃しようと動きを止め、魔石投射砲を構えた。
が、それより先に王国軍陣地で一斉に爆炎があがり、足を止めていた味方騎士達が吹き飛ばされた。
いや、よく見るとただ吹き飛ばされたのではなく、何かが貫通したかのように、胴体が無くなっていたり、腕や足が千切れたりしている。
『なにが!?』
『大砲か?』
王国軍は火砲を開発したのだろうか。
いや、火薬を使わなくても、魔法でも爆発は起こせるからそっちかもしれない。
どっちにしても、王国には兵器の改良を行う奴がいたということだろう。
とはいえ、その斉射によって、こちらの数的優位は一瞬で消し飛んだ上に、指揮系統も崩壊し、士気も下がった。
最悪の状況だが、立て直せればなんとかなっただろう。そう、立て直せれば。
動くべきときがあるとしたら、ここで総大将のユートの尻を蹴り上げて部隊を再編させるべきだったのだが、そんなことに気付いたのは全て終わった後の後悔の中だった。
『森から敵の伏兵が出現!数は・・・120!』
もたらされた絶望的な報告に、頭の中が真っ白になったのだけははっきり覚えている。




