10-2 転移者、魔導騎士を見る
スタインバルト皇国ベルトロイ侯爵家。
現在、皇国内で行われている実質的な内戦において、2番目の規模をもつ第一皇子派の実質的な首魁である。
そこの長男で、次期侯爵のユートロイ・ベルトロイとたまたま知り合いになれたので、自分、葛原暁人はなんとかこんな世界でも生活できている。
なんでも、皇国は一度の敗戦で軍主力が崩壊したらしく、それを好機と見た地方軍閥や異民族が一斉に武力闘争を始めたらしい。
半ば盗賊に近い連中は、国土を荒らしまわっており、皇国は混乱する一方。
間の悪いことに皇帝の崩御も重なり、周辺国は勝手に領土を占領する始末。
そんな混乱状態を治める為に、皇国の有力貴族は一丸となって次期皇帝である第一皇子を盛り立てなければならないはずなのだが、私利私欲に走る連中は第二皇子を次代の皇帝と擁立し、ベルトロイ侯爵達第一皇子派と対立しているらしい。
「周辺国の不貞な連中の対処と、国内の裏切り者共の対処、両方同時にせねばならん。困難な仕事だが、それをこなさねば皇国の明日はない」
ユートロイこと、ユートはそう熱く語っていた。
自分はユートロイに助けてもらったので、その恩を返したいと思う。
といっても、ただの日本の高校生だった自分には特殊な能力とかはないので、何ができるのかと言われると困るのだが。
結局、計算ができるということで、侯爵領軍の備品や資金の帳簿管理を手伝っている。
で、帳簿の数字を前に悪戦苦闘しているある日、ユートが気分転換でもどうだと誘いに来た。
どうもユートは同い年くらいらしく、家の拘束を嫌って以前からちょいちょい、こっそり抜け出して街で遊んでいた。
まぁ、そんなことをしてくれていたおかげで、ユートと知り合うことができたので、こちらとしてはユートのサボり癖に感謝なのだが。
丁度、使用した糧食の量と在庫しているはずの量が合わずに嫌気が差してきていたので、その誘いに乗って気分転換することにした。
サボるにしてもユートと一緒なら、断れなかったという言い訳もできる。
「今日はうちの魔導騎士が演習しているはずだから見に行ってみよう」
「魔導騎士?」
街に出て買い食いにちょうどよさそうな、ホットドッグに似たパンに塩漬け肉を挟んだ食べ物を勝っていたところで、ユートが提案してきた。
この世界にきてから、魔導騎士という話は聞いていたが、実物は見たことなかったのでその誘いを受けることにして、郊外の演習場に向かう。
「あれが我が軍の魔導騎士だ。皇国騎士団からも第一皇子派が合流している」
ユートに連れられて登った丘の上から、演習場が一望できた。
演習場というから、何か囲いでもあるのかと思ったが、何もないただの広い土地というだけで、いわば「未使用の土地」といった趣である。
そのだだっ広い土地で、大型の人型兵器が動いている。
人型兵器で思い出すことと言えば、せいぜい子供のころ見ていたヒーローものの合体ロボか、たまーに夕方にテレビをつけるとやっていたアニメくらいのものだが、それらのイメージからしても、この世界の魔導騎士と呼ばれる人型兵器は
「なんか間延びしてるな」
一つ一つの動作の繋がりがなく、剣を抜く、歩く、剣を振る、と言った感じに、まさにカクカク動作のワレハロボットと言った感じの印象を受けた。
その感想について、ユートはこちらの認識を正そうと、この世界での戦力比などを熱心に語ってくれたが、どうにものんびりした印象を拭えない。
こんなので本当に戦争をするのだろうか、という印象が強かった。
もっとも、彼の頭の中にある戦争とは映画の中の物であり、いくら「リアル」な戦場描写だといわれた映画でも、それは「演技」によってつくられたものであり、そんなに現実の戦争がテンポよく進むわけではない。ということを知らないことからくる感想でもあるのだが、実際問題、魔導騎士の動きを見た日米両軍の関係者の感想も「こいつらこんなので戦争するのか?」というものだったので、あながち間違いでもない。
その後、熱心に第一皇子派と皇国の軍事力の説明をするユートに絆されて、まぁ彼がそんなに言うのなら、この世界の軍隊としては強力なのだろうな。と漠然と思うのだった。




