10-1 転生者はDOGEZAした
「君はほんと後先考えないよね」
第三王妃になったリースに笑われた。
もともと、騎士団長だったころに冗談でセクハラまがいに口説いてみたら、あっさりいけちゃったので国王になってからも逢引きを続けていたのだが、まぁ、なんというか嫁2人にバレた。
まぁ、リースも俺が国王になった後、俺の後任で騎士団長になってたからね。そこそこ仕事の上でも会うことは多かったんだけど、どうもそれが逆に疑念を呼んだらしい。
色欲魔人とか、女性の純情を弄ぶとか最低とか、けじめをつけろとかさんざ2人に罵られたので、きっちりプロポーズして第三王妃に迎えたら、クリスから殴られた。グーで。
エリザのほうは、殴られた俺を見てゲラゲラ笑っていたが、ふと真顔になって、リースだから認めるけど立場を狙ってくるよからぬ連中もいるんだから、あんまりふざけてると捥ぐよ?と言われた。ナニヲモグノ?
まぁ、それよりもクリスが口をきいてくれなくなったので、どうしようとおろおろしていると、日本から連絡要員で派遣されている経産省の人が
「そういうときはとりあえずDOGEZAですよ!私も2回はそれで乗り切れました!今は息子とも会えませんがね!HAHAHA!」
というありがたくない話を聞かせてくれた。というか、経産省もそんな奴を派遣してくんな。左遷先かここは。
とはいえ、他に打開策もないので、DOGEZAして謝ったところ許してくれた。
どうやら怒っていたのは、リースを第三王妃に迎えたこと自体ではなく、そのことについてクリスとエリザに何の相談も無かったことのほうだったらしく、リースを王室に迎えること自体は賛成なのだという。
というか、相談したら増やしてもいいの?といったらアイアンクローされて3日ほど無視された。
少し自重しようと思った。
で、リースの冒頭の発言に戻るわけだが、これはリースを第三王妃に迎えた時にも言われたセリフだが、今はそのことではない。
「だって、トレラータ地方を還せって、そんなの断るでしょ。もともとうちの国の土地だよ、あそこは」
トレラータ地方。
もともと、ランシュタット王国の領土だったのだが、エリザが王位継承した際のゴタゴタに紛れて隣国のスタインバルト皇国が占領した地域である。
で、スタインバルト皇国が、騎士団主力を日米に吹き飛ばされて内戦状態に突入したので、やられたことをやり返した訳だが、そこにスタインバルト皇国の一派が文句をつけてきたのである。
「というか、普通に考えたらあの地方の領有を認めてやるからうちの一派に力を貸せっていうのが普通じゃない?内戦状態なのに、外にまで敵つくってどうするの?」
「まぁ、それはその通りだと思うけどね」
先ほどその使者を追い返した扉を見ながらリースと話す。
「しかし、そんなことも思いつかないような愚か者どもですと、内戦を放り出してこちらに来るかもしれません」
同席していた大臣が口を挟む。
ちなみに、エリザは騎士団の演習に参加中で、クリスもそれに付いて行って何やらやっているらしい。
「まぁ、現状、純粋な戦力でもこっちが上だし、自衛隊と米陸軍もいる。戦争にもならないよ」
「それはその通りですが」
大臣も本当に連中が攻めてくるなどとは思っておらず、職務として国王に忠告しただけである。
とはいえ、戦力差があれば戦争にならないというのが事実なら、今この世界に来ている2つの国がかつて戦争することも無かったはずなのだが、そのことは転生者である国王の頭からも抜け落ちている。
「使者からして話が通じない感じだったし、嫌がらせはあるかもしれない。国境警備の警戒度合いは上げておこうか」
「以前、皇国は麻薬を我が国に流して国力を削ごうとしたこともありますからな。警戒はしておきましょう」
そうと決まれば早速、国境警備への増援を手配する書類の作成にかかる。
こういう時に嫁が実務をできるのは、余計な侍従を置かなくていいので便利である。
とはいえ、この時点で想定していたのはせいぜいが歩兵部隊による国境地帯での略奪行為程度で、騎士を動かすような大規模な侵攻は誰も想定していないのだった。




