9-18 大学生、帰れない(帰らない)
転移が終わる感覚と共に目を開けると、どこかの豪華な部屋だった。
まるで中世のようだ。
うん、日本じゃないね。あのクソ神父。
と思ったところで、手が何かを握っていることに気付いた。
見ると、転移の際に無意識にアレクシアの手を握っていたらしい。
ということはここはアレクシア達があの世界に飛ばされる前にいたという、アレクシアの部屋か。
じゃあ、まぁこの世界には自衛隊もいるはずだしいつでも帰れるな。
「おー、熱い熱い、愛の力で勇者様はこの世界に戻ったみたいやねぇ」
いつまでも俺とアレクシアが手を握ったままでいると、扇をぱたぱたしながらコハクが揶揄してきた。
急に照れ臭くなって互いに手を放すが、アレクシアが少し寂しそうな顔をしたのは見逃さない。
まぁ、顔真っ赤なんだけど。
「ここはアレクシアの部屋ってことでいいのか?」
「そのようやね」
「はい、間違いないですね。エクセルがぐちゃぐちゃにしたベッドまでそのままです。あ、思い出したら腹立ってきました」
アレクシアが勝手に沸々と怒りを滾らせている。
まぁ、その怒りはエクセルに向かうし、自業自得なので放っておくことにする。
なお、当の本人はそんなことに気付かず、またアレクシアのベッドにダイブしている。
「んで、ユーイチはんはどないしはるん?」
「え、あー、まぁせっかく来たんだしゆっくりして行こうかな?」
とりあえず家主であるアレクシアのほうを見る。
これでさっさと帰れとか言われたら泣く自信がある。
「ええ、いつでも歓迎しますよ」
先ほどまで滾らせていた怒りを消してアレクシアは穏やかな表情で言った。
「アレクシアー、お腹すいたー」
「あなたはいい加減に帰りなさい」
アレクシアに冷たくあしらわれたエクセルがベッドでじたばたとして、余計にひどいことになっている。それに伴い、アレクシアの顔もひどいことになっている。
それを見たコハクも、とばっちりを受けないようすすすと距離をとっている。それして俺の影に隠れようとするのをやめろ。むしろエクセルが向かってくる可能性があるのは俺なんだから、俺を隠せ。
まぁ、それはともかく。
「あれ?部屋がそのままってことはアレクシア達がいなくなったその時に帰ってきたってこと?」
「あ、そういえばそうですね。おそらくそうでしょうが、確認してみましょう」
「そやねー、長いことお風呂も入れてないし、さっぱりしてベッドで寝たいわ」
もう10日近く塔の中で野宿(なんかおかしくね?)していたせいで、せいぜい水浴びしかしていないし、寝る場所も土の上か石の上といった状態だった。
「お風呂!」
がばっとエクセルがその言葉に反応して、ベッドから起き上がる。
「あー、はいはい、あろたげるからさっさと行くで」
そう言ってエクセルを有無を言わさず引き摺ってコハクは出て行った。部屋から出る際、俺とアレクシアにウインクして親指を立てていた。
男前すぎるイイ女だなぁ。・・・表現がおかしいな。
とはいえ、ここのところ2人きりになる機会がなかったので、急にそうなると気まずいというかそわそわしてしまう。
アレクシアもそうなのか、もじもじしている。
「「えっと」」
お互いに声をかけようとしてはもった。
それがおかしくてお互いに笑い合う。
とりあえず、現状の確認をして風呂に入ろうという話になった。
で、わかったことは、アレクシア達はあっちの世界にいって戻るまでに、ほぼ時間差が無かったことになっているということ。
そうなる、あの世界にアレクシアより後に行った俺はどうなるんだ?
まぁ、あとで考えればいいや。
とりあえず捕まえて話を聞いた侍従には、訓練でもしていたと思われたようだが、暗に風呂に入るように勧められた。
まぁ、そらそうか。
で、アレクシアに案内されて、大公家だけが使える浴場に案内されて、2人でゆっくり入った。
献身的に洗ってくれるアレクシアが最高だったので、俺もお返しに洗ってあげた。
ずっとこうやって2人でのんびりしてたいなぁ、と思うと同時に、いずれまた別れないといけないのかと思うと、一抹の寂しさが頭をよぎったのだった。




