9-17 自衛官、この世界の成り立ちを知る
「108階なのに終わらないじゃない!」
むっきーと言った感じで皇女様がご立腹されている。
ここは108階、つまり最後の階である。
「お前話聞いてたか?108階までこの塔があるんだから、この階を突破しないと終わらないだろ」
皇女様を宥める勇者様。
というか、見てて思うが、狐も公女も滝川も、どんどん皇女の扱いが雑になっている。
「ぶー」
107階の上への転移陣に入って終わりだと思っていたらしい皇女様はぶーたれているが、誰にも相手してもらえていない。
というか、君ら結構長いこと一緒に旅してたらしいのに、ずっとこんなだったの?
「皇女フォローした方がいいの?」
こそっと近くにいた一番頼りになりそうな公女に聞いてみる。
「放っとけばそのうち忘れますよ。近侍の近衛騎士がいないとどうしようもないポンコツだとこの世界に来てつくづく思い知らされました」
溜息ついてるけど、それでいいのか。
まぁ、絡んでもめんどくさそうなので、俺も放っておくことにする。
「とりあえずまっすぐしか進めないみたいだし、進もう」
107階との転移陣の部屋からはまっすぐに長い廊下が伸びているだけで、他には何もない。
モンスターの姿も見えない。
滝川が戦闘でガンガン進もうといった雰囲気を出している。
「警戒だけはしておけよ」
俺は基本的に最後尾。背後を警戒するのが仕事になっている。
モンスターが複数で襲ってくることはなぜかないのだが、通り過ぎた後にポップしてバックアタックというのは普通にあるので、背後の警戒は割と重要。
まぁ、味方に背後を任せられるという安心があればいいが、この塔の下層の冒険者達があれなせいで、知らない相手とパーティーを組むというのはなかなか難しいようだ。
大概、パーティーを組んだことがある奴は、後ろから味方だったはずのパーティーメンバーに攻撃されて装備とられて1階から再スタートという経験があるらしく、各冒険者ギルドでこんなパーティーは珍しい珍しいと言われた。
そんなこと言うくらいなら下層の質の悪い連中をどうにかすればいいと思うが、そこまで手が回らないのが実情らしい。
まぁ、確かに塔を攻略して帰るのが目的の集団で、下層の業務してるって回りくどい印象になるし、組織としてしっかりした基礎がないとできないわな。
結局、モンスターも出てこず、長い通路は終わり、大きな部屋に出た。
と、部屋に入ったところで、突然パチパチパチと拍手が響いた。
音からして、拍手しているのは一人だけと思ったところで、いつの間にいたのか、部屋に入った時にはいなかったはずの男が立っていた。
真っ黒な神父服を着た黒人の見るからに怪しい男である。
というか、直感的に人間ではないと感じさせる恐ろしさがその男にはあった。
「おめでとう。君たちが初めてこの場所に到達した人間だよ」
拍手を止めた男は、感情の感じられない声で言った。
「まぁ、君たちの旅の様子はそれなりに面白く見させてもらったかな。欲を言うなら痴情のもつれで血みどろの展開くらいは見せて欲しかったけども」
「そら、悪かったなぁ。うちらはみんな・・・いやちょっと微妙なんもおるけど、みんな仲良しやさかい」
狐が男に言い返す。というか、よく普通に振る舞えるな。さっきから緊張でガチガチなんだが。
「ふんふん、まぁ、君たちはみんな帰っていいよ。塔を登りきったら帰れる。そういう風につくった世界だからね」
男は部屋にある、これまでとは異なる転移陣を指差した。
「それはご丁寧にどうも。一応あんたの名前を教えてもろてもええかえ?」
「名乗るような名前はないが、そうだね、ナイ神父とでも名乗っておこうか」
男は口角をあげて笑ったが、その笑顔を見て恐ろしいという感情が先にきたのはなぜだろうか。
だが、男は気になることを言った。それだけは聞いておく必要がある。
「そういう風につくった世界と言ったのは?」
「そのままの意味だよ。全ての世界は白痴の神が見る夢に過ぎない。その夢を全部つなぐ場所がこの世界だったんだが、まぁそこはほら、愉快になるようにね、いじらせてもらったよ」
こともなげにナイ神父と名乗る男は言った。
「神なの?」
「それはどうだろうね?」
滝川の問いに神父?はくくくと笑った。
「さて、そろそろ帰り給え。この世の真理は人の身では計れぬものだよ」
これ以上何も答える気はないと、神父は転移陣を指差した。
「まぁ、それが目的やし帰りましょか」
狐が皆を促す。
というか、ふと気になったぞ。
「この転移陣どこに繋がってるの?」
「好きなところに繋がるよ。まぁ、元居た場所を思い浮かべて入るのが無難だろうねぇ」
神父は答えるが、例の悪い笑みを浮かべている。
まるで無難でないことをするように期待しているみたいだ。
「この後、この場所はどうなるんだ?」
「消えてなくなるよ。そろそろ飽きてたしね」
ふと思いついた疑問に、こともなげに神父は言った。
「この部屋がなくなるってことか?」
「いや、この世界が無くなるってこと。元々白痴の神はこんな夢見てないしね」
「この世界にいる人間はどうなる」
「ランダムに適当に他の夢に飛ばすよ。君たちが元の世界に帰れるのはクリアボーナスみたいなものだよ」
それに反論しようとしたところで、神父は時間切れ、さっさと帰れと言って俺達を転移陣に押し込んだ。
転移する独特の感覚に包まれる中、顔のないヒトガタが怖気の走るような邪悪な笑い声と共に天に昇っていく様を幻視した気がした。




