9-14 大学生、自衛官の存在を知る
その後も、確実に1日5階ずつ登って行った。
前衛は俺、コハク、アレクシアの交代制。
魔術師のエクセルは常に後衛だが、基本的に前衛の一人だけで倒せてしまうモンスターばかりで、手強いと感じることもなかった。
こんなのでなんでみんな登れないんだ?と思ったが、俺がサクサク進めるのはパーティーメンバーを信頼できることと、俺自身の能力もどっかの世界神のおかげで身体能力が底上げされたり変なスキルが使えたりするおかげなのだろう。
50階まで登ってきたが、20階くらいまでに比べると明らかに人は少なくなっている。
なんでも、20階くらいまでのドロップで生活必需品から嗜好品まで、ほぼ揃うらしい。
よって、1階を生活基盤にする人、つまり帰ることを諦めた人(と最初にアレクシア達が絡まれたような新人を喰い物にするクズ)はそれ以上登ってこない。
変わったドロップを狙って登る人もいないわけではないようだが、ごく少数で、40階を超えると塔を攻略しようという人しか見かけなくなった。
その分、拠点の賑わいもなくなっているが、宿泊施設や道具屋は充実している。
そんな上の拠点でもドロップ品の買取をやっているが、上層階特有のドロップ品以外は買い取ってくれない。
よって、基本的に普通のドロップ品、肉とか野菜とか鉄とか木材みたいなものはドロップしても放置されることになる。
放置されたドロップ品は、いつの間にか消えてしまう。
不思議だが、ごみを捨てておけば勝手に消えるので、便利といえば便利である。
各階の拠点内ではごみが消えないのも不思議だが、モンスターも入ってこないので、何か特殊な場所だということだろう。
「それにしても50階とは、随分高いとこまで登ってきたねぇ」
「キリ良く100で終わってくれるといいけどなぁ」
コハクと呑気な見通しを話す。
「うぐぅ」
アレクシアは早く帰りたいが、それをはっきり言うのも抵抗があると言った感じで悶々としている。
エクセルは多分何も考えていない。
「とりあえず早く部屋を取ろう」
「ここんとこ個室ばっかりやし、面白ないねぇ」
人は減っているが、冒険者ギルドがある最高階だったときがある関係で、前線基地として造られたので宿泊施設のキャパがでかいのである。
部屋も個室が多く、低層階のようにみんなで同じ部屋と言うことは無くなった。
まぁ、それそれで好都合なので、こっそりアレクシアと同じ部屋に泊まったりしているのだが、他の2人には秘密である。
「いや、相部屋にしたらまた二日酔いで進む羽目になるし、そろそろね?」
「そら、あんたとアレクシアは2人でしっぽりできるからええんやろうけどなぁ」
扇で口元を隠しながらむふふと笑うコハク。
なぜバレたし。
まぁ、エクセルに聞こえないように言っているあたり、面倒事を避けようという意思は感じる。
「と、とりあえず受付を済ませよう」
そう言って誤魔化そうと冒険者ギルドの受付に向かおうとしたところで、アレクシアに引き留められた。
「どうしたの?」
「これ、あの時の人じゃないの?」
アレクシアが指差す先を見ると、そこは冒険者達が連絡事項を貼りつけるのに使う掲示板だった。
基本的にはパーティーメンバーの募集や、必要なアイテムの買取依頼を行うのに使われるのだが、稀に個人間の連絡などにも使われている。
そこにひときわ目立つ掲示が為されていた。
”滝川雄一君へ
60階にて待つ。早く来ること。
陸上自衛隊 一等陸尉 桐島 隆司”
なんでいることバレてるんだよ。
というか、せめて探しに来いよ。
なんで呑気に60階で待ってるんだよ。
何はともあれ
「帰る目途は立ちそうだな」
「思ったより早かったねぇ」
コハクはパタパタと扇を仰いでいる。
「60階ならあと2日か」
「なんやこの生活も終わるとなると寂しいねぇ。結構おもろかったのに」
寂しいと言う割にはあっけらかんとした表情のコハクに比べ、アレクシアは何とも言えない表情で無言である。
というか、あれ、一人足りなくね?
「エクセルどこ行った」
「え?」
アレクシアも慌てて周囲を探し出す。
面倒事の予感しかしない。
「それなら、ほれあそこ」
コハクが扇を指した先に、ギルドに併設された酒場で勝手に飲み始めている皇女様がいた。
あの野郎、いい加減にぶっとばしてやろうか。




