9-10 大学生、今を楽しむ
結局、起きたら昼近かったが、昨日のクズ共が追い付いてきても面倒なので、先に進むことになった。
そういえば、塔の中なのになんで日が昇ったり、夜になったりするんだろうな。
ここまでだけでも普通に外としか思えないような、草原や川がある階層もあったし。
「ちょっと、あれどうにかしなはれ」
コハクがこっそり耳打ちしてきたので、そちらに視線を送ると、むすっとしているアレクシアが目に入った。
対照的にエクセルはニコニコしている。
どうしてこうなった。
「なんであんで不機嫌なん?」
「自分の胸に聞きなはれ」
コハクに原因を聞いたら呆れたように返された。
何かあるとしたら昨晩だよなぁ。
そういえば、みんなでしっちゃかめっちゃかになるのアレクシアだけ嫌がってたかな?
なんか酔った勢いで強引に行った気がするけど、嫌がってたなら悪いことしたかな。
よくよく考えてみると、複数人って初めてだったわ。
とりあえず謝っとこう。
「えーと、アレクシアさん?」
「なんですか」
むすっとしたままアレクシアが答える。
「あー、昨晩はごめん。記憶が曖昧だけど、嫌がってるのに無理やりやったような気がする。これじゃあ、俺も昨日のクズどもとおな」
「いいですよ。もう」
はぁと呆れるように溜息をついてアレクシアが言った。
「ちゃんとわかってくれてるなら次から注意してください」
「うん、ごめん」
「それに、朝こっそり私だけ抱き寄せてくれたのは嬉しかったですよ」
にへらっとあまり見せない緩んだ笑顔を見せてくれる。
うん、昔のこともあるんだし、アレクシアのことはもうちょっと注意しよう。
アレクシアのことは好きだし、なにより恩人だし、不快な思いはさせたくない。
「というか、なんでエクセルはあんな上機嫌なんだ?」
「多分彼女の頭の中では、昨晩あなたと二人っきりで過ごしたことになってます」
どんだけ都合のいい頭してんだよ。
全員同じ部屋だっただろ。
「彼女の中で勇者関係は都合よく解釈されるようになってるので、注意してくださいよ」
小声で注意されたが、どう注意しろと?
まぁ、昨日のどんよりした感じで後ろついてこられるよりはマシか。マシかなぁ?
「ちょっとゆっくりしすぎたし、急いで行かんと10階までつかれへんよ」
「いや、すでに昼だし、無理臭くね?」
コハクは急かしているが、最後まで寝てたのはコハクである。
まぁ、出発がここまで遅れた原因はエクセルがゲロゲロしていたせいだが。
「今日からはもうちょっと酒量考えような」
「まぁ、あんたと再会できて嬉しかったからちょっと羽目外しすぎただけやないの。連日これでは体が持たへんよ」
体が持たないのは別の原因な気もするが、そこはあえて触れない。
とはいえ、とにかく帰るためにも先に進む。
元の世界に帰るなら、またアレクシア達と別れることになるのかと思うと、少し心がチクリとしたが、今は考えないことにする。
「とはいえ、現実問題として今日中の10階到達は難しいのではないですか?」
「塔の中なのに夜になると暗くなるとか意味が分からん」
昼間は太陽がでているのに、夜になると星もでないので、本当に持っている明かりだけで進むことになってしまうので、基本的にこの塔の中では各拠点以外では皆夜は出歩かない。
なんでも、夜はモンスターも10階層以上の強さになるらしく、視界も利かない中奇襲されるので、夜に進むのは自殺行為らしい。
「まぁ、とりあえず進めるだけ進んで、日が暮れそうになったらその階の拠点で休むしかないやろ」
とはいえ、ここまで見た途中回の拠点は、モンスターの襲撃を防ぐ柵や塀と、灯火やかまどがある程度で、安全地帯で野宿といった趣の場所だった。
もっとも、冒険者ギルド職員の話では、低層の途中階では利用者も少ないので、あくまでも緊急避難用の拠点という扱いなのだという。
けど、できればベッドで寝たいよね。
「ぐずぐず言うてる間に進むで!」
コハクの号令のもと、4人で塔の攻略を再開する。
何階まであるのかしらないが、今はこの再会を楽しもう。
いつか終わりが来る旅だけど、今は一緒にいるのだから。
俺達の冒険はまだ始まったばかりだ!




