9-7 大学生、皇女の扱いに困る
結局さくっと5階まで上がれたので、とりあえず今日はここで休むことにした。
最初の爺さんが言っていた通り、2階から4階にあったモンスターの襲撃を避けて休めるだけといった感じの冒険者ギルドの拠点と異なり、道具屋や酒場もある集落のような拠点だった。
「今日はベッドで寝れそうやね」
コハクはご機嫌な感じで先頭を行く。
妖術を使うどちらかと言えば後衛職のはずなのだが、殴る蹴るの格闘もこなす割と暴力系なのは相変わらずで、モンスターが出てきてもぶっ飛ばしていた。
おかげで俺とアレクシアは出番がない。
エクセルは完全にぶー垂れて時々憂さ晴らしのように爆炎魔法をぶちかましていた。
どうやらエクセルは俺がアレクシアとコハクには再会を喜んだのに、自分には定型の挨拶しかしなかったのが気に食わなかったらしい。
いや、別れ際に一国脅して俺を連れ去ろうとした奴にフレンドリーに接するとかムリです。
「ギルドの宿でええやろ。お金はここまでのドロップでどうにかなりそうやし」
「それが一番安全なんじゃないのか?どうもこの世界では公的機関の性格もあるみたいだし」
「治安維持にもう少し気を払ってもらいたいものですが」
俺の公的機関という発言を受けて、アレクシアが溜息を吐きながら言う。
まぁ、よろしくない冒険者を取り締まってもらいたいところだが、冒険者ギルド自体が元の世界に帰るために活動している人間の集まりと考えると、そのあたりはおざなりなのだろう。
「冒険者なら自分の身は自分で守れってことだろ」
「そういう点では、3人まとめて飛ばされたうちらは運が良かったんやねぇ」
しみじみとコハクは言うが、本当にその通りだと思う。
現に俺は1人だけだったので、3人と会わなければ近いうちに行き詰って、信頼できる仲間を探すのに苦労していただろう。
いくら自分だけ強くても、ずっと起きているわけにはいかないのだ。
「アレクシア達と合流できて良かったよ。俺は1人だったしな」
「私もまたユーイチと会えて嬉しいです」
「ほーん、うちは所詮アレクシアのおまけかいな。はー、へー」
コハクが茶化してくる。
まぁ、実際異世界の知り合いの中では、一番やりやすい相手と会うことができたと言えるし、かなり運が良かっただろう。
3回目の異世界召喚の時点で果たして幸運かどうかはさておき、どこぞのクソメイドとかエクセルしかいなかった場合とか考えるとぞっとする。
3人でわいわいやっている後ろで、1人どよーんとした空気をまとってエクセルがついてくる。
このままにしとくのはいかんよなぁとは思うのだが、如何せんいい接し方が思いつかない。
きっと、好意を感じさせるような接し方をするとまた暴走するだろうし、かといってこのまま無視に近い形もパーティーとして良くない。
あとでこっそりコハクに相談して知恵を借りよう。
長生きな分、こういうことでは頼りになる。はず。
少なくともマジメに相談すれば、ふざけた回答はしないだろう。
「現在、部屋の空きは一部屋だけになります」
冒険者ギルドの宿泊受付で告げられたのは無慈悲な一言だった。
「6人部屋ですので皆さまでお泊りになれますが」
いや、まぁ確かに同じ部屋に泊まるのは今更な気もするので、別に(俺は)構わないのだが、コハクにこっそり相談というのは難しそうである。
「どないする?うちは別にかまへんけど」
狐耳をぴくぴくさせながらコハクが言った。
あの耳をぴくぴくさせるときはだいたい碌なことを考えてない時だ。
「私も別にユーイチと相部屋で構いませんよ」
ちょっと照れてるあたりアレクシアは可愛いなぁ。
「・・・うぅぅぅ、いいけど、いいけど・・・」
エクセルはなんかぐずぐず言ってる。というか不機嫌とか怒ってるとかじゃなくて、思い通りにならない子供がぐずってる感じか?
「みんながいいなら俺もいいよ」
どうせ魔王討伐のときはみんな一緒に野宿したりしていたのだ。
むふふなことは別にして、一緒の部屋で寝たところで今更である。
「ほな決まりやね」
こうして同じ部屋に泊まることになったのだが・・・どうやってエクセルのこと相談しよう?
まぁ、どうせお酒飲むだろうし、その時にどうにかしよう。
いつも通り、軽く考え、疲れた体を休めるためみんなで部屋に向かうのだった。




