9-6 自衛官、耳を疑う
「は?単独偵察?」
突然呼び出されたらわけのわからないことを言われた。
「そうそう。ほら、ここんとこ日本人みつけれてないじゃない?成果としては新薬とか処分場とかいろいろ上がってるんだけど、ほら建前として日本人、見つけないと」
中央機動連隊長はのんびりとした感じで言う。
「んでまぁ、とりあえずしばらくはいくつかに部隊小分けにして、複数の世界を一気に調べることになったんだわ」
「それはわかりますが、なんで私だけ単独なんですか」
明確に不服の意志を表明する。
「いや、君、なんか異世界召喚されてから頑丈やし特殊能力持ってるし、何より弾の補給いらんやん?」
「12ゲージ限定ですけどね」
いやいやいや、そういう問題じゃなくて。
「大丈夫、転移先の世界、なんか飛ばされる場所が決まっててね。戻るのは一定の高度まで登れば勝手に帰ってこれるのドローンで確認したから」
「いや、1人で行くのにどうやってそんな高度まで上がるんですか。ヘリコプターの操縦なんてできませんよ」
「なんか高い塔がある世界みたいだから、その塔登ればいいよ」
雑!1人で行かせる気満々なのに事前の情報収集が雑!
「まぁ、なんだ君のとこの部隊、連続派遣が続いてるから、休ませてやらんと」
「俺が休めませんけど?」
あからさまに目を逸らす連隊長。
鬼か。
「まぁ異世界で休暇だと思って、ゆっくり行ってきたまえ」
「何にもわからない世界で塔に登る休暇とか御免被りたいんですが」
とはいえ、いくら抗議してももう決まったことが覆るわけでもなく、1人で行くことになってしまった。
おかしいだろ。
「あ、そういえば」
部屋を出ようとしたら、再度連隊長に呼び止められた。
「滝山君だったかな、あのいつぞやの大学生」
「ああ、日本に帰ったらその日のうちにまた異世界に飛ばされた彼ね」
まぁ、俺も一緒に飛ばされたわけだが。
「なんかまた家で寝てたらいなくなったらしいぞ」
「あ」
つくづく運の無い奴だな。
また異世界に拉致されてしまったようだ。
「複数回って今のところ彼だけですか?」
「まぁ、そもそもそんなに大勢連れて帰ってこれてるわけじゃないが、彼だけだな」
「なんか原因でもあるんですかね」
うーんと連隊長と2人で唸る。
「わかりませんね」
「わからんな」
一致した結論に達した。
「まぁ、悪いが1人で行ってくれ。そんなに脅威はない世界という評価だ。正式な命令書は後日出るから、準備は十分にな。足りない物や必要なものは随時需品科に相談してくれ」
「いろいろ買ってもらわないといけないと思いますが」
「その辺は融通するようにしておくから。というか、それくらいしか支援できんしな」
ふむ。この機会に前から欲しかったものをいろいろと買ってもらうか。
基本的に正面装備と違って、必要な時に大量購入できる歩兵装備はなかなか予算つけてくれないからな。
特殊作戦群はそのへん優遇されていたが、陸上総隊直轄の中央機動連隊とはいえ特殊作戦群ほどは好き勝手させてくれない。
単独で長期間の行動となると何が必要か考えてみる。
食料や水は非常食と携行分だけでいいだろう。人がいるなら食べるものや水はあるはずだ。
武器はいつぞやの世界神にもらったDP-12と12ゲージ弾が無限に出てくるポーチがあるので問題ない。ドットサイトとレーザー照準器をつけているが、バッテリーのことを考えると一考の余地がある。
いろいろと準備することは多そうだなぁ。
うーんと頭を悩ませながら自分の宿舎に戻るのだった。




