9-5 大学生、再会する
その後、戻ってきたコハクとエクセルのバックアタックもあり、あっさり連中はやられて消えて行った。
「というか、塔の中で死んでも最初の場所に戻るだけって仕様のせいであんなクズが低層に溜まってるのでは?」
どうも世界を作った神様と言うのはどこもポンコツらしい。
「ユーイチ!」
アレクシアが抱き付いてくる。
鎧を着ているので柔らかさとか皆無だが、ぎゅっと抱きしめ返す。
過去のトラウマが刺激されたのか、涙目になっていたのは見なかったことにしておく。
しばらく抱きしめて、背中と後頭部をポンポンと撫でながら、アレクシアが落ち着くのを待つ。
2人の世界に浸っていたかったのだが、ふとこういう時に空気を読まずに突撃してくるアホがいたはずだが、静かだなと思い周囲を見回した。
するとコハクにヘッドロックされて身動きとれなくなっているエクセルが目に入った。
俺が見ていることに気付いたコハクが、こちらに親指を立てた拳をぐっと突き出している。
ナイスだコハク。
俺もこそっと親指を立てる。
コハクにはあとでお礼を言っておこう。
「久しぶりだな、アレクシア」
アレクシアが落ち着いたころを見計らって声をかける。
「ユーイチも、久しぶり。また会えて良かった」
涙の跡がある顔で笑顔を向けてくれるアレクシア。
うん、これだけでもまた異世界召喚された意味はあったな。
「再会を喜びたいのは山々なんやけど、またアホどもがけーへんうちに先に進んでまえへんかえ?」
完全に2人の世界に入ろうとしたら、エクセルをヘッドロックしたままのコハクが声をかけてきた。
まぁ、それもそうか。
ここモンスターも出るしね。
「そうだな、とりあえず次の階の冒険者ギルドまで行こう」
「ちょっとはマシな連中がおるとええんやけどねぇ」
コハクはヘッドロックしたままのエクセルを引きずるように歩き出す。
「ぷ」
それを見たアレクシアが思わず吹き出している。
とりあえず、もう大丈夫そうだな。
「んじゃ行こうか」
「ええ」
警戒は必要なので手は繋げないが、2人で並んで歩き出す。
俺が帰ってからのことや、この世界に飛ばされた経緯を聞きながらコハクの後についていく。
「じゃあ、エクセルがアレクシアの部屋で何かいじってたら3人まとめて飛ばされたの?」
「そうですね。見覚えのない魔道具のようなものでした」
つまりきっかけはあったわけだ。
毎回寝てたら飛ばされる俺とは大違いだな。
・・・まさか俺の部屋のベッドが原因なのか!?とあほなことを思いついたが、考えてみたら1回は病院のベッドだった。
つまり俺自身のせいか?
「お、ここが上の階に上がれるとこやね」
結局、あの後数時間歩いて上の階に行ける転移陣に到着した。
「下の方の階層くらい探索も済んでるでしょうに、案内表示でも作ってくれたら楽なのに」
「なんか30日ごとに各階の構造が変わるらしいよ?」
アレクシアが文句を言ったことに、冒険者ギルドで聞いたことで答える。
ちなみに、アレクシア達も冒険者ギルドには行ったものの、言い寄ってくる連中が多くて、最低限の説明だけで出てきたらしい。
まぁ、3人とも美人だからね。
なお、エクセルのヘッドロックは解かれているが、ぶすっと不機嫌である。
どうやら、ヘッドロックされていたことについて、俺とアレクシアが当然のように流したのが気に食わないらしい。
だってコハクが押さえててくれなかったら、絶対こっちに突撃してきて私の勇者様とか言ってたじゃん。
めんどくさいもの。
「まぁ、さっさと行って休みましょか。積もる話もあるやろし」
率先してコハクが転移陣に入る。
自分から魔法陣に入るのは初めてだし、なんか緊張するな。
みんな別々の場所に飛ばされても困るし。
と、不意に手を掴まれた。見るとアレクシアが手を繋いできたいたので、握り返す。
「ほな、いこか」
コハクの声とともに転移陣が起動した。




