9-4 大学生、二度あることは三度ある
目が覚めると石造りの部屋にいた。
足元には魔法陣。
初めての場所だが、似たような場所は2回ほど見た気はする。
昨日俺がどこで寝たのか思い出す。
講義が終わって、部活に顔を出して、軽く練習して、家に帰って講義の課題をこなして、ベッドで寝たはず。
うん、間違いない。
つまり、今のこの状況は。
「ああああああああああああああああ、3回目だぞ!ふざけんな!2度あることは3度あるってか!?なんなの!?どっかのアホな世界神のせいなの!?しかも聖剣まで背負ってるし!?やる気満々みたいじゃん!」
ひとしきり叫んだら、部屋の隅にドン引きしているローブの爺さんがいることに気付いた。
「お前のせいかああああああああ!」
「うえぇええええ」
ひとしきり爺を追い回すと、どうやら爺が召喚したわけではなく、爺はこの召喚陣に飛ばされてきた人間の案内人をしているらしいことがわかった。
ちょっとだけ罪悪感が。
一通り説明を聞いて、塔へと向かう。
とりあえず帰りたいので、塔の最上階を目指すことにする。
仲間がいたほうがいいのは確かだが、一番下の階層にいるのは見るからにこの世界に来たばかりの奴を食い物にしようとしてるクズか、上に行くには実力が足りなくて下の方をうろうろしているような連中なので、行けるところまで1人でいって腕の立つ奴らと組む方がいいだろう。
実際、どっかの世界神に貰った能力は日本に帰っても使えたし、聖剣もある。
ちなみに、聖剣は日本に持って帰った時に、ちょっと研究したいから貸してね。と言われて防衛省に持っていかれたが、ちゃんと返却されて、銃砲刀剣類登録まで着いてきたので部屋に飾っていた。
寝るときも飾ったままだったはずなので、なんで持っているのか謎だが、あって困るものではないのでありがたく使う。
「わはは、楽勝じゃねぇか!」
バッタバッタと襲ってくるモンスターを聖剣でなぎ倒しながら塔の中を進む。
まぁ、まだ1階なので、見るからに弱そうなコボルトとか犬っぽいやつとか、雑魚ばかりだが。
さくさくとモンスターを倒して先に進む。
「しかし、倒したら死体が消えて、ドロップアイテムが残るってどうなってるんだろうな?」
コボルトが落とした折り畳みナイフを拾いながら呟く。
聖剣の能力で使えるアイテムボックスから袋を出して、その中に放り込んでしまう。
こういうのが使えないと、ドロップアイテムの取捨選択がシビアに必要になるんだろうな、と思うとやっぱり世界に選ばれた勇者って便利なんだなと思う。
しばらく進んでいくと、何やらゲスそうな男たちが集まっていた。
めんどくさそうなので、関わりたくないが向こうから声をかけてきた。
「お、兄ちゃんも一緒にやらないか。向こうに上玉が3人もいるんだよ。これからみんなで囲んでパーティーだぜ」
ゲラゲラと下品な笑いが集団に起こる。
うーん、正直関わりたくないが、それで襲われる女の子が気になるし、仲間になった振りをして後ろから刺すかな?
「へー、それは良さそうだな。順番に決まりはあるのかい?」
なるだけ下卑た表情をつくって男たちの同類だとアピールする。
「特に決まりはねぇが、とりあえず最初はうまいこと組み伏せた奴からだな」
へへへと皆一様に嫌な笑みを浮かべている。
「じゃあ俺も仲間に入れてもらおうかな」
「よろしくな兄弟」
まぁ、お前と兄弟になる気はないけどな。
集団が移動を開始する。
別の場所にも同じ目的の集団がいるらしく、囲むように動くらしい。
前方で騒動が起こる。
どうやらターゲットにされた女の子と接触したらしい。
とりあえず、動く前にどんな娘なのかだけ見ておこうと思って、ちらっと人の間から様子を窺う。
見えたのは何やら見覚えのある狐耳と、白と青が基調の鎧に、黒いドレス。
若干1名関わりたくない気もするが、残りの2名を助けるためなら命を懸けるだけの価値はある。いや、むしろ命に代えても助けなければならない。
特に1人は、過去の凄惨な体験を追体験させるような真似は、絶対にさせたくない。
そっと気付かれないように、集団の最後尾に移動。
皆が一番乗りしようと前へ前へ出ようとしているので、特に違和感なく最後尾にきた。
下種達は誰も気付いていないようだが、エクセルが爆炎魔法を準備していたので、それがぶっ放されると同時に、この位置から聖剣の能力解放で剣撃を飛ばせばこちら側の集団は全滅させられるだろう。
爆音が聞こえると同時に聖剣を振るう。
「ミスティルテイン!」
このバカみたいに叫ばにゃならんのをどうしかしてもらいたいところだが、仕様のようなので仕方ない。
一番後ろから放った剣撃はさっくりと集団を消し飛ばした。
うん、初めて人に撃ったけど威力が高すぎるな。アホみたいなステータスのせいだろう。
ちなみに、最初の場所にいた爺さんによると塔の中で死んだら、また最初の場所に戻るらしい。
つまり上まで登って死んでもやり直しはできるが、また最初からということのようだ。
と、視線を3人に向けると、エクセルが爆炎魔法を放ったほうに突破をかけていた。
が、どんくさいエクセルが捕まりかけて、それを助けたアレクシアがゲスの一人に捕まってしまった。
それを見た瞬間、後先考えずに全力でそちらに向かい踏み込み、聖剣を振るう。
「薄汚い手でアレクシアに触れてんじゃねぇ!」
一撃であいてを無力化し、アレクシアを守るように立つ。
「・・・ユーイチ?」
背後のアレクシアの声を聞きながら聖剣を構え直すのだった。




