9-1 姫騎士、狐人と皇女と共に日常を過ごす
「ねぇねぇ、アレクシアー、遊んでよー」
人の寝台の上に勝手に寝転んでバタバタと足を動かすこの世界最大の国の第一皇女様。
ここを軍で囲んで脅したことなど、記憶にないらしい。
「この人、帝国の偉いさんなんやろ?こんなとこで油売っててええのん?」
雄一が元の世界に帰った後も、なぜか公都に留まっている狐人のコハクがエクセルに侮蔑的な目を向けながら聞いてきた。
「エクセルは政略結婚の道具としてしか期待されていない、勇者オタクのポンコツですから遊んでいるしかすることがないんですよ」
「ほー、遊んでるだけでええとは、ええ御身分やねんねぇ」
狐人族から見たらお前もそうだろ。とは思ったが、いつも書類仕事を手伝ってくれるので口には出さない。
というか、コハクは狐人族の中では古老の1人のはずだが、こんなところでぶらぶらしていてほんとにいいのかは謎である。
「帝都にいると皇帝が結婚しろってうるさいのー。遊びに来てるんだから遊んでよー」
まだ寝転んでバタバタと足を動かしながらエクセルは喚き続けている。
というか、突然来た本当の理由はそれか。
「勇者に脈も無かったんやし、さっさと諦めて結婚したらよろしいやないの」
コハクがケラケラと笑いながらバカにしたように言う。
というか、背中から刺すような真似をして雄一を掻っ攫おうとしてしたエクセルに対し、コハクの心象がかなり悪いことは以前飲んだ時に聞いているので、遠慮というものがないようである。
ちなみに、私自身はエクセルの勇者オタクっぷりは昔から知っているので、暴走しただけだと諦めている。
というか、あそこで雄一がエクセルのところに行った場合、エクセルが雄一にぶっ飛ばされている気がしないでもないので、あの終わり方で良かったのだろう。
「違うもん勇者は帝国皇女の私と結婚する運命なんだもん」
今度はバタバタと駄々をこねる子供のように手足を振り回している。
というか、それ私のベッドなんだが。
ぐちゃぐちゃになってるじゃねぇかこの野郎。
「思い込みの激しいアホの相手は大変やねぇ」
コハクが苦笑いしながらこちらを見る。
いや、できるのなら代わってもらいたいんだけど。
「とりあえず仕事ってことにして部屋を出てお茶にしましょう」
「あんたもワルやねぇ」
小声でコハクに声をかけると、悪い笑顔をしながら了解を示す返事が来た。
仕事で面会があるとか適当なことを言って、エクセルを置いて部屋を出る。
ベッドはもう諦めた。
「隣の国との関係も考えなあかん立場は大変やねぇ」
「ほんとにね・・・。まぁ、あんなのでも小さいころからの付き合いですから・・・」
溜息を吐きながらコハクに答える。
ここで前から気になっていたことを聞いてみることにした。
「そういえば、コハクはなんでここに残ってるんです?」
「狐人族の里は面白いことがないんよ。しかもみんな古老古老って頼ってくるからめんどくさいんよね。その点、ここはアレクシアもおるし、日本やアメリカの話もはいってくるから退屈せんのよ?」
やはりそんな理由か。
「というか私がいるから?」
「そうよ?これでもあんたのこと気に入ってるんやから、末永く仲良うしてや」
「それはありがとう。こちらこそよろしく」
真正面から好意をぶつけられるのもなんだか照れ臭いので、顔を逸らして足早に歩く。
「照れてしもて、かわええなぁ」
コロコロとコハクは笑いながら着いてくるのだった。
「戻ったわよ」
午後のティータイムを(エクセル抜きで)終えて部屋に戻ると、エクセルがぐぬぬと唸りながら何かをいじっている。
「なんやそれ?」
コハクがエクセルの手元を覗きこむ。
「なんか部屋に落ちてたけど、アレクシアのじゃないの?」
なんだかよく分からない魔法道具のようなものをこちらに見せながら、エクセルは呑気に聞いてきた。
「見覚えはないですね。というか見たところ魔法道具のように見えますが、勝手に触ってると危なくないですか?」
「まぁ、このアホの考えなしは今に始まったことやないやろ」
コハクは相変わらず容赦ない。
「そんなことないもん!」
「「あ」」
エクセルがコハクに反論し、持っていたものに力を込めた瞬間、カチリと何かが動いた感触があると共に、意識が暗転した。




