8-5 自衛官、登山する
列をなしてパワースーツが登山する。
『脚がうまって歩きにくいです』
『自分の足じゃねぇだけ楽なもんだろ』
「根性がたらん。帰ったら九十九里浜往復重装ダッシュな」
『普通に考えて軽装でも無理なんですけど!?』
無線でしょうもないことを言いながら登っていく。
体長5mのパワースーツなので、ルートはある程度制限されるがそこそこ順調である。
派遣されたのは6体で、うち2体が戦闘用でマニピュレーターがない。
残り4体は作業用で、放射性廃棄物処理機構が使用しているのと基本的には同じものである。
現在、登っているのは処分場に向かうためである。あと2つ尾根を越えなければ辿り着けない。
一応、地下の転移地点もトンネルの掘削をはじめたが、余震があるので作業は停滞気味とのこと。
FFRSの偵察で、処分場の状況は判明しているが、山体崩壊で谷が埋まってしまっており、辿り着いても何かできるかはわからないとのこと。
とはいえ、何もしないわけにもいかないので、黙々と登山を続ける。
NBCセンサーは外に出たら死亡することを示している。ほんと厳しい世界だな。
『ラーク』
『ラーク』
無線が聞こえると同時に、結構な大きさの岩が上から転がり落ちてきた。
生身で直撃受けたらヘリ要請するレベルである。
「多いな」
『もともと脆そうですが、地震で余計に崩れやすいんでしょうな。注意しないと踏んだところが崩れるなんてこともあり得ますよ』
砂地の上に落石もあるとか、ほんとパワースーツがあって良かったと思う。
『そういえば、あの自堕落な都市はどうなったんでしょうね』
「自堕落なのは支配者層だけだけどな」
『どこでもそうでしょ』
それ以上いけない。
それにしても、教都か。
もはや懐かしいような気もする。
「奴隷を完全に家畜扱いしてることを除けばいい街だったな」
『それ、ダメってことですからね』
「けどこの世界、あそこ以外に現代文明はないよな」
『まぁ、イカれた世界ですから』
無駄口を叩きながら登っていく。
自分の足で登ってるわけじゃないので、それくらいしか本当にすることがない。
「しっかし、なんも得るものがない世界だと思ってたんだが」
『もともと汚染されてるからやばいもん捨てても大丈夫って発想がやばいですよね』
「だが最終処分場を造る手間も管理する手間もかからない。住んでる人のいないところなんていくらでもある世界だしな」
『でも結局こうして俺らが手間かかってるんですけど』
『地震だろ?しゃーなくね?災害派遣だと思えよ』
政府も含めて、誰も地滑りに巻き込まれた3人が生きているとは思っていない。
山体崩壊と言われるほど大規模な地滑りに巻き込まれて、大した防護もしてない放射性廃棄物を捨てている谷に落ちたのである。
仮に生き埋めになっていても、被曝で死ぬだろうというのが公式の場では誰も口にださない思いだった。
もとからが遺体だけでも回収できれば、救助活動はやりましたよという言い訳になるだろうという打算の作戦である。
誰かが行かねばならないのが、たまたま俺達がパワースーツの実用試験中で都合が良かったというだけだ。
『尾根にでます』
「FFRSの情報ではこの先は傾斜がきつい、ルート取りは慎重にな」
『今下りのルートを見てますが、航空偵察ほど険しくなさそうです。次の尾根も見えますが、落石だけ注意すれば予定通り今日中には処分場までつけそうです』
「油断はするなよ。二次遭難なんてしても救助は難しい世界なんだから」
とはいえ、早く着いて、早く目的を達成するに越したことは無い。
『そういえばジャンプ使わないんですか』
「作業用にそんなの着いてるわけないだろ。戦闘用だけだ」
ロケットモーターによる跳躍機能が戦闘用には実装されているが、作業用には当然そんなものはついていない。
『そういえばジェットエンジンで飛行可能にするとか技官が息巻いてましたけど』
『燃料が足りないってボツになってたぞ』
「もはや何がやりたいんだ」
試行錯誤中の兵器なのはわかるが、迷走しすぎだろ。
とはいえ、こいつが飛行可能になると戦場は変わるだろうな。




