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異世界召喚による日本人拉致に自衛隊が立ち向かうようです  作者: 七十八十
第8章 みっつめの世界 ~全ての人が救われるのは稀~
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8-2 見ればただなんの苦もなき水鳥の足に暇なき

「理事長、緊急事態です」


豪華な理事長室で、広げられたパターマットでゴルフの練習をしていた理事長は突然の乱入者に顔をあげた。


「ノックくらいし給え」


そう言ってそのまま視線を落とし、パターを振る。

仕事中にゴルフという、優雅なことこの上ない理事長は、数か月前まで経済産業省の官僚だった男である。要するに天下りという奴である。


「最終処分場で職員3名が行方不明です。報告では現地で大規模な地震があったらしく、1号トンネル、2号トンネルが崩落、搬入地点と処分場の間の連絡が不通になっています」


コンとボールを叩いた理事長が、その行先も見ずに顔をあげる。


「なんだと?私が理事長をやっている間に問題は困るよキミ。とにかく、穏便に解決し給え」


自然災害なんだからこっちの知ったことか!と心の中で毒づきながら、理事長に報告だけはせねばと続ける。


「事態が能力的にも予算的にも、当機構だけで処理できる範囲を越えております。関係各所に協力を仰いでよろしいでしょうか」

「君がそう思うのならそうし給え」


クソ野郎が!どうせ後で聞いてないとか何故勝手にやったのだとかいって、全部責任をこっちにおっかぶせるつもりだろう。あとでメールと紙にして机の上に置いといてやるからな!と腸が煮えくり返る思いで、副理事は退室した。


副理事が退室するのを見た理事長は部屋にカギをかけ、電話をとった。


「放射性廃棄物処理機構理事長の増山です。長官をお願いします。緊急事態です」


電話口でしばらく待たされたあと、誰かが電話口の向こうに出た。


「長官、ご無沙汰しております。増山でございます。お耳に入れておきたい話がございまして、いえいえ、そう言う話ではございません。緊急事態でございます。はい、はい、ええ、大臣にもこの後」


先ほどの副理事の報告をそのまま「第一報ですが」と伝え、電話を切った。

そして、切った受話器をそのまま持ち上げ、再び電話をかけた。


「放射性廃棄物処理機構理事長の増山です。大臣をお願いします。緊急事態です」


「放射性廃棄物処理機構理事長の増山です。危機管理監はおられますか。緊急事態です」


「放射性廃棄物処理機構理事長の増山だが、放射性廃棄物対策課長の安藤君はいるかね」


こうして、立て続けに理事長は電話をかけまくるのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「面倒なことになったな」

「とにかく、早いうちに収拾をつけませんと」


官邸の一室で、その主と女房役が話し合っている。


「とりあえずアメリカには秘密裏に話を通しました。一時的に出荷分を積んだ船を遅らせることで対処するとのことです」

「急場しのぎにしかならんな」


一部の国の使用済み核燃料の異世界への投棄を受け入れていた関係で、放っておくと続々と届いてしまうのである。


「しかし、事態の公表はどうするか」

「地震による地滑りに放射性廃棄物処理機構の職員3人が巻き込まれたということだけ公表して、処理場が一時使用不能という点は伏せるべきかと」


異世界に投げ捨てているとはいえ、他国の放射性排気物を一時的に受け入れることになることの反対や、そもそも管理もしない異世界への投棄について文句をいう勢力も存在する。

それらの批判を押し切って、異世界利用のメリットを一部同盟国にも享受させることで、何かと介入しようとする中国やロシアを抑え込もうという目論見なのだが、自然災害とはいえ処分場が利用不可になったのは抵抗勢力に反撃の口実を与えることになってしまう。


「そもそも捨てること自体は、あの世界ならどこに捨てても問題ないわけですから」

「再開は容易か」


ふむ、と内閣総理大臣は少し考えた後、


「とにかく、行方不明の3名の捜索はせねばなるまい。早急に防衛大臣に指示を出す。処分場については現在の場所を復帰させる調査と同時に、一時的でもすぐに使える場所を探させよう」


と言い、報道発表の打ち合わせに入った。

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