8-1 苦情言う奴がいないならゴミ処理場は簡単に作れる
放射性廃棄物処理機構。
この世界が発見されたことにより設立された、経済産業省所管の法人である。
事業内容は、BC001と呼称される世界における放射性廃棄物の最終処分。
まぁ、この世界自体が汚染物質まみれなので、実際には処分場ということにしている谷に、日本からもってきたいろんなものを捨てているだけである。
文句をいう住人もいないので、どんどん捨てているが、高レベル放射性廃棄物もぽんぽん捨てているので、IAEAが査察させろと騒ぎになったものの、「誰が入っただけで急性被曝で死亡する場所にいくのか?」ということで有耶無耶になった。
アメリカやイギリス、フランスといった同盟国の廃棄物を受け入れていたのもプラスに働いたようである。
『この世界は何度来ても過酷ですねぇ』
高い放射線量による電波障害のせいで、ノイズ交じりの音声がヘッドセットから聞こえる。
「俺達の世界も政治家がもうちょっとバカだったらこうなってるよ」
多分、俺の声も向こうにはノイズ交じりの聞き取りにくい音になってるんだろうな。とぼんやり考えながら手を動かす。
今いるのは、パワースーツと呼ばれる作業用二足歩行機械のコクピットである。
異世界から回収してきた二足歩行兵器を小型化、現代技術と組み合わせて重作業用に造られたのがこれである。
特に今乗っている機体は、この世界に最適化されており、コクピットは厳重に外気から遮蔽されている。
軍用ではないので、装甲とはいかないが、コクピットの周囲は全て鉛だといっても過言ではない。
VR技術の応用によって、操縦者はヘッドセットとグローブ型のコントローラーによって、簡単に物を掴んだり、抱えたり、持ち上げたりすることができる。
移動については、前進、後退、方向転換に簡易化されている。
手を使った作業に比べて、細かい作業を要求されないためである。
パワースーツの全高は5mほどなので、まぁ要するにクレーンやパワーショベルといった建設用重機の役割をまとめてできるように作られたわけだ。
二足歩行が維持されているのは、この世界の過酷さが考慮されている。
ゼロから整地したり、土砂崩れの現場に入ったりする必要があるので、タイヤや履帯よりこっちのほうがいいのではないか?といういわば試行錯誤の産物である。
「さっさと終わらせるぞ」
一緒に転移してきた、普段公道ではお目にかかれない大型トラックの荷台からドラム缶を降ろして、谷底に投げ込む作業を始める。
最初は効率を考えて、大型のトレーラーを使用したのだが、転移場所からここまで、道を造ったとはいえ、舗装されているわけでもなく、整地しただけなので、スタックが頻発したのである。
雨が降った直後には、一度タイヤが沈み込んで腹打ちしてしまい、どうしようもなくなったため、軍用の車高の高い大型トラックを方々から中古でかき集めて使っている。
ドイツ製にアメリカ製に日本製と、多種多様である。全て運転台はこの世界で活動できるように改造されているので、なかなか厳つい見た目になっている。
日本との転移場所は地下に作られていて、この世界で唯一、パワースーツやトラックの運転台から出てもいい場所とされている。
日本に帰る前には、転移場所の手前に設けられた除染室でパワースーツとトラックを除染しないと、入室できないのがめんどくさいが、日本に戻ってから除染するとその使用済みの水をドラム缶につめてこっちの世界に運ばないといけなくなるので仕方ない。
『そういえば今日はあの変な動物きませんね』
「邪魔になるだけだからそのほうがいいだろ」
熊のようなクリーチャーで、普通の熊と違い、変なトサカや背びれがあるよく分からない奴が、作業をしていると寄ってくることが多い。
襲い掛かってくることは最近少なくなったが、襲われてもパワースーツで一発殴ってやれば変な泣き声をあげて逃げていくので、見た目ほどの恐怖はない。
襲って来なくても、近くに寄ってきてうろうろしていることが多いそんなクリーチャーが今日は全く見当たらない。
「ほい、これで最後っと」
荷台に最後に残ったドラム缶をぽいっと谷に投げ落とす。
除染で出た汚染土だろうと、使用済み核燃料だろうとここでは扱いは変わらない。
『戻りますよー』
「よっこいしょ」
トラックの運転手の言葉に、空になった荷台にパワースーツを座らせる。
ちょうどその時だった、ぐらっと視界が大きく揺れた。
姿勢制御の不具合か?と一瞬思ったが、続いて大きな振動を感じた。
『地震だ!』
ノイズ交じりの運転手の声を聞いたのと、視界が土砂でいっぱいになるのは同時だった。
トラックごと地滑りに巻き込まれたと気付いた時には上下もわからくなり、視界は暗転した。




