23話
調査は思うようには進まず、その休憩がてら、マヌスはランテックに聞いてみる。
「余計な好奇心で聞くがね。君はフレデグンドさんとはどこで知り合ったんだい?」
「ねえさんと? あぁ、どこだったかなあ。僕も小さかったからなあ」
「どこかの養護施設かな?」
「いや、戦場だったと思う」
「君、戦争孤児だったのか」
「だと思う」
(曖昧なのも、無理はないか)
ランテックが水筒を渡してきた。
ありがたく、と中の水を含む。
「リーベルねえさんは、僕のことすごく嫌ってる。部下の人たちにも僕の悪口言ってるみたい」
「辛いかい?」
「ううん、どうでもいい」
「そうか。やっぱり精神強い系なんだな」
「そうなのかなあ。僕には本があればいいから。そういう強いとかよくわかんないや」
「大したもんだよ」
だが、あまりにも冷めすぎているようにも感じた。
リーベルに対してだけの態度ならそうかもだが、フレデグンドにも当てはまるようでどうも腑に落ちない。
フレデグンドが戦場で拾ったというのなら、彼女はランテックにとって恩人に当たるはず。
なにか秘密があるのかと勘繰りたくなったが、
「そろそろ再開しようか」
「あ、ああ、そうだね。あっちのほうをまだ見ていない。行こう」
タイミングを逃した。
また休憩したときにでも聞いてみるかと思った矢先、ランテックはあるものを見つける。
「マヌスさん、これ見て」
「石碑かな? 残念だがわたしは読むことはできない」
「碑文のところはいい。問題は、この下にある浮き彫りだよ」
「んん? この紋様……」
「マヌスさんのマフラーと同じ柄だね」
「……なんだいこれ? もしかしてウチのルーツはここにあるってことなのかい?」
「ふふふ、そんなぶっ飛んだ話じゃあないよ。でも、それに近い面白い話かもしれない」
「冗談で言ったんだが、どうやら核心をついてしまったかな」
「マヌスさん、そのマフラー少し貸してもらえる?」
「いいとも」
ランテックは灯りで照らしながら周囲を念入りに探ってみる。
すると、一部分だけ色の違う石畳を見つけた。
マフラーをかざしてみると、それに呼応するようにマフラーと同じ紋様が光のラインとなって現れる。
ゴゴゴゴゴゴゴ……。
「地下への道か……」
「行こう」
「お、オイ! フレデグンドさんたちに知らせなくて……あぁもう、ひとりで行くなって!」
階段を降りるも、意外と深い位置にはない。
ランテックの動きはさっきより早く、壁に備えられた古い魔導灯に光を灯していった。
「これは、たまげた……」
「すごいよ。これは図書館だ。この構造、僕知ってるよ。大昔に焼かれて消えたっていう」
「……ラレンド図書館か。でも、この竹簡とか、分厚い本は……」
「多分写本だよ。なにかあったときのために、こうして写本を保管してたんだ。でも、誰が?」
「待った待った。奥にまだ部屋があるらしいぞ」
「もう少しいたいけど、仕方ないね。進もう」
石の扉を開ける。
奥には円形の空間があり、真ん中に石棺が横たわっていた。
ふたりは息をのみ、蓋を開けてみる。
「うぅ、……コホ、ミイラだ」
「この衣装、エンブレムの形……間違いないよ。この人はドワイト・マグガーベンだ」
「なんだって!?」
「白女神の学院の設立者であり、サンドリヨン妃の弟子……そうか、ここで眠っていたんだ」
周囲に光を当てて、じっくりと観察した。
頭部がドラゴンの裸婦像の手足は鱗に覆われていて、石棺を囲むように並べられている。
ほかにも壁には、先に見た浮彫壁画が描かれていた。
だが最も注目すべきは、石棺の頭方向の壁に設けられた祭壇だ。
祭壇に作られた女神像らしきもの。
これもまた裸婦像なのだが、ポーズがまた違う。
彼女も手足が鱗に覆われているものの、顔は美しい女性のままだ。
「これは、なんだろうね? 女神を崇めていたって解釈、なのかな?」
「マヌスさん、とっくにわかってるんじゃない?」
「わたしの予想が間違っているのなら遠慮なく言ってくれ。もしかしてこの像は、サンドリヨン妃をかたどったものじゃあないのか?」
「その可能性は十分にあるよ。そして、手足が鱗に覆われてる。これは……なんだろ? 確かにドラゴンにまつわる話は結構あるけど」
(いや、まさか……だがありえない話ではないのか?)
マヌスの頭脳が高速で働いていく。
ありえないと理性が否定しても、直感がありえるかもと対立する。
(サンドリヨン妃は……ドラゴンだった?)
思い出の世界でのドラゴンは、あらゆるものに化けていた。
なんなら人間にだって化けられるだろう。
もしも、1000年以上前にサンドリヨン妃となるであろうドラゴンが人間世界に入ってきたというのなら……。
(────ありえない話ではない。なにか、ほかになにかないのか!)
「マヌスさん?」
「あ、なんだいランテック君?」
「……そろそろ戻ろう。ねえさんたちに報告しなきゃ」
「そうだね」
「どうかした?」
「いいや、なんでもないよ。フレデグンドさんに報告だ。大手柄だよランテック君」
「え、僕?」
「そうさ、これは君の発見だよ」
「でも……」
「いいんだ。君が見つけた。わたしは手がかりが見つかっただけでも満足さ」
「ふぅん」
数分後、フレデグンドの指揮のもと、この場所の調査が行われた。




