1話
『人生は後ろ向きにしか理解できないが、前向きにしか生きられない』
────セーレン・キュルケゴール
「おや、こりゃまた美人さんが4人も。もしかして、上の?」
「はい、ここにいらっしゃるんですよね? 例の……」
「あぁ、あぁ、いるよ。『探し屋』だろう? ちょい待ってな」
建物の年老いた管理人が駆け足気味に階段をのぼる。
2階に自室兼オフィスをかまえる男に来客を知らせるべく、ドアをノックした。
「おうい、どうせ寝てんだろう? 仕事の依頼だってよ」
「……起きてるよ」
中の男が返事をする。
「ウソこけ。寝起きの声だ」
「はいはい、そうだよ寝てたよ。……依頼人は?」
「喜びな、美人さんがなんと4人! こりゃゲットのチャンスでねぇか? へへへ」
「わたしは仕事をするだけだ。それ以上の関係は持たない」
「……けっ、ノリ悪いねぇ。ほれ、さっさと準備して面会しな。いつもの応接室貸してやっから」
「わかったよ」
年季のはいった黒い紳士帽にヨレた紳士服、そして呪術めいた紋様が描かれたマフラー。
くぼんだ目に残る眠気と無愛想な表情をたたえた男の名は『マヌス・アートレータ』。
今年になって35歳になったマヌスは、眠い目を細めながら階段を降りて、応接室へと向かった。
「失礼、遅れてしまいました」
「あぁ、どうも、お先に失礼します」
4人はたしかに美人だ。
彼から見ても目を見張るほどに。
左から魔導士、剣士、格闘家、そして依頼人である女性。
彼女の職業はなんだろうか。
そんなことを考えたが、すぐに無駄と割り切り、いつものビジネススマイルを向けながら、向かい合わせに座る。
「このたびは『探し屋バトラキオン』をご利用いただきありがとうございます。わたしが所長のマヌス・アートレータです」
「あ、はい……その、メアリと言います。実はお願いがありまして」
「はいはい、お伺いいたします」
管理人が淹れてくれたコーヒーをすすめながら依頼人のメアリはその内容を明らかにしていく。
写真の人物は若く優秀そうな魔導士の男だった。
「ほうほう、旦那さんの浮気調査をねぇ。できなくはありませんが、メアリさん、一応これはつまらない確認なのですが、ほかの探偵の方にご依頼されたことは?」
「幾人かの探偵にも依頼しました。でも、ダメなんです」
「……浮気の証拠は一切見つからない?」
「はい」
メアリは自分の旦那が浮気をしているという確信があった。
旦那の様子がおかしいと思ったのは1ヶ月前。
国を守護する魔導士として勤務する中、帰りが遅い日が何日も続く。
そして知らぬ香水と酒のにおいもする。
怪しいと思うも彼はなにも語らず。
何度か探偵を雇うも、夫はなかなかに尻尾を見せなかった。
メアリの友人であるこの3人の力を借りるも、すぐに巻かれてしまう。
そこで最後の頼みの綱としてここへ訪れたのだ。
「ふぅん、なるほど……えぇ、できますよ」
「ほ、本当ですか!?」
「お任せください」
マヌスは大した仕事ではないなという感じで引き受ける。
その様子を見た3人の友人がメアリを連れて少しばかり席を外した。
「ねぇ、メアリ。本当にいいの?」
「いいってなにが?」
「ここに頼んで本当に大丈夫かって意味! ……ホラ、なんていうか、ちょっとうさんくさいし」
「でも……」
「無理しないで。なんなら私たちがアナタの旦那の監視続けてみるから」
「そうだよ! ここだってどうせほかの探偵と一緒のこと言うに決まってるってば!」
剣士に続き、魔導士と格闘家がメアリをさとす。
旦那だけでなく、よっぽど結果に裏切られてきたのだろう。
ドア越しに聞いていたマヌスはソソッとドアを開いて、
「あの~、すいまっせぇん」
「ひゃ! ちょっとアンタ盗み聞き!?」
「いやぁ、なかなか戻ってこられないものでつい……。もしも依頼されるのであれば、ひとつ用意していただきたいものがありますぅ」
「な、なんですか?」
「……旦那さんの私物ですよ。そうですねぇ。浮気に関連してそうな物であればなお可なのですが」
「ど、どうしてそれが必要なんですか?」
「捜査に使うんです。ウチのやり方なんですぅ~」
「は、はぁ……」
女性陣の不信感に満ちた視線など気にもとめない。
とりあえず承諾してもらい、旦那の私物を持ってきてもらう。
「ほぉ、ネクタイですか。けっこう使われていらっしゃるようで」
「最近、こういう派手なのが増えて……いったい誰に……」
「わかりました。これをもとに探ってみます」
「ねぇ、本当に探れるの?」
「もちろん、十分ですよ。明日までには終わると思いますよ」
「あ、明日ぁ!? ずいぶんと早いじゃん」
「ハッタリじゃないわよね?」
「そんなことしませんよ。ではまた明日この時間にでも。あ、依頼料を忘れずに」
「わ、わかっています」
4人が帰ったのち、オフィスへと戻る。
オフィスのさらに奥の部屋、シャワールームと同じくらいの広さの部屋でマヌスは早速仕事にとりかかった。
「聞く限り旦那は一流の魔導士だ。あの3人の尾行を巻いたりするあたり、相当実力者だな。普通にやったって太刀打ちできないだろうね。だが……」
簡素なテーブルの上にネクタイを置き、手をかざす。
「──わたしには一切無駄なことだ」
目を閉じ、しばらくするとコチ、コチ、と時計の音のみが耳介に響いてくる。
次第に音は早くなり、彼を包むように時空流が発生。
そしてひとつのゲートを生み出した。
「さぁ行こうか。"思い出の世界"へ」
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