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文芸の限界を超えて

 下の方で紹介するものは、実のところこれっぽっちも文芸の限界を超えてなんかいませんが。


 言葉が持つ機能は、よく二つ挙げられます。一つは実用的な機能で、もう一つは美的機能と呼ばれています。「呼ばれています」と書いたとおり、私がかってに言っていることではなく、学術的に、その二つが挙げられます。

 実用的な機能というのは、普段言葉を使っているときに用いる機能で、何かを伝えるとかの機能です。まぁ、そうは言っても、普段は実用的な機能しか使っていないかというと、そんなことはないわけですけど。

 対して、美的な機能というのは、実用じゃない機能です。「美的」というとよくわからないかもしれませんけど、単に「実用を主な目的とはしていない」くらいの意味で考えてもらってかまいません。その現れが、詩とか美的な方面で顕著に現われるから「美的な機能」と言われるという程度です。小説の場合なら、比喩なんかがこちらの機能の主な、かつ明らかな現われになるかもしれません。


 さて、文芸の限界というタイトルにしてますが、実のところ美的な機能は文芸に関してだけでなく、実用的な機能にも影響を与えます。ちょいわかりにくいかもしれませんけど、言葉の表現がひょこひょこ変わるのは、美的な機能が影響してます。まぁ、それなりにというか結構というか。


 では、現在、文芸において言葉の限界はどこにあるでしょうか。一つは具象詩とゲームブックあたりがあります。こちらは、「形式の崩壊」と言えるでしょう。ゲームブックは、少なくとも小説という形が崩壊しています。分解されてますし、飛びまくりますから。具象詩は、詩の形式、韻だとかなんとかですが、そういうものから離れて、見た目をも詩の内容(?)として表現に使うようなものです。えーと、まぁ、いろいろありますけど、一応はそんな感じで。

 文芸における言葉の限界はもう一つあり、それはナンセンス詩と呼ばれるようなものです。まぁ詩でなくても不思議の国のアリスとか、ドグラ・マグラとかもこっちに入れていいかと思います。とくに鏡の国のアリスの「ジャバウォックの詩」なんかは代表例としてよく挙げられます。こちらは、「意味の崩壊」と言えるかと思います。

 えーと、意味と文法という話もあるのですが、まぁそれはまた後で。


 ともかく文芸であれば、少なくともどっちかの限界を目指したいものだと思います。そこで、「愚かしくも愛おしく」(http://book1.adouzi.eu.org/n1759cw/)の「5−2: あなた」と「5−4: 老夫婦」で、実はやってみようかと思ったことを、ここではおまけで紹介したいと思います。UIの制限により、早目に諦めたので、あまりうまくは形式が整っていませんが。以下、形式の問題で、人力で改行を入れてあります。PC以外での表示だと、崩れるでしょうけど、そこは我慢してください。また、行頭に "2" と "4" を着けていますが、"2" は「5−2: あなた」の方のもので、"4" は「5−4: 老夫婦」の方のものです。(ほんの少し手を入れてます。)



2 「スプレーでもペンキでも。中にあるものを使えばいいだろう。そんなもの、

2 今、持っていこうとする奴なんかいないだろうからな」

4  またしばらく歩いた頃、老夫婦はスーパーの前に着いていた。


2 「そうだな」

4 正面に車が着けられていた。


2  スーパーの中の物は、既にいくらか持ち去られていた。だが、まだ強奪に

4 「始まってしまうのか」


2 近いことは起きていないようだった。

4  夫はそう呟いて、様子を見ていた。


2  あなたは、スプレーとペンキを持ち、スーパーの正面に出た。

4  スーパーの中から、二人の若者が歩いて来た。だが、その手にはスプレー

4 と缶が抱えられていた。


2 そしてスプレーで大きく

4 そしてもう一人は、スーパーの入口近くに何やら大きく書き始めた。


2 "They Watch You" と

4   "They Watch You"


2 "TWY" と書いた。

4   "TWY"


2 隣の男はその様子を録画していた。

4 一人は脇により、どうやら動画を撮り始めているようだった。


2  あなたは視線を感じて振り向いた。そこには、老夫婦が立っていた。

4  若者はそう書くと、老夫婦に振り向いた。



 と、まぁこんな感じで併記というか並置というかして、書きたかったというのが本音です。

 まぁ、これをやると、「小説の作法から外れている」と言われるかもしれません。ですが、そんな作法なんか知ったこっちゃありません。私はこう書きたかったのです。


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