普遍文法と他の文法と意味とか
チョムスキーが「普遍文法」と言いだしているのには、それはそれなりに仮説がありあす。その仮説は、簡単にはこんなかんじ。
1. 言葉をそもそも成り立たせてるとか、そういう言葉の獲得を可能にし
ているだろう、むちゃくちゃ抽象的ななにかがあるんじゃね?
2. それは、人が生まれながらに持っている知識みたいなものってか、む
しろ脳の機能なんだろうなぁ。
3. 言葉の獲得を可能にしてるのは、個々の言葉の文法を脳に構築する諸
原理とそれにかかわる媒介変数からなると思うんだ。
4. その「原理の集り」と「媒介変数の集り」の集りを「普遍文法」って
呼ぶよ。
てな感じ。
今だとどこを見るのがいいのか悩みますが、この「3.」についてはXバー理論あたりはいい感じ。もっと進んでるのもあるけど、わかりやすさでそのあたりがいい感じかも。なおXバーというのはXの上に横棒を書きます。Xを抽象化したものがXバーみたいな感じ。本によってはXの上にバーを書くのではなく、同じことを「X'」と書いたりもします。
補足すると、前回書いた、
S -> NP VP
NP -> N
NP -> Ar N
VP -> V NP
みたいな文法を構築するための原理と変数です。こういうのそのものが脳にあるわけじゃありません。
なおチョムスキーは、「実際にそういう機能を果す脳領域って見つかんないだろうなぁ」とも言ってます。とらえ方にもよりますが、「言葉の文法を構築するために特殊化した部位ってのはないんじゃね?」みたいなもんだと思います。いろいろな機能の高次での統合された機能ということかもしれません。
んで、言葉の文法が獲得されているとしたら、言葉を聞くときだけでなく、言葉を話すときにも使われるはずです。
すると、何かわからんものがあって、そこから「文脈自由文法」で書いたトップダウン的に、文が作られるのだろうかという疑問が浮かびます。まぁ、このへんは面倒ですけど。
チョムスキーは、今はどうか知りませんが、「深層構造」というものがあって、そこから文が導出されるんだというようなことも言っていました。
でも、「じゃ、その『深層構造』ってなによ?」という疑問が出てくるわけです。
フィルモアは生成文法に対して、「格(case)文法」というのを言っています。まぁ、日本語だと、必ずしも厳密にそのとおりというわけではありませんが、名詞に「は」、「が」、「を」、「で」とかつけます。それらが示しているのが「格(case)」です。
そういうのがごちゃっとしているところから格を示すように云々というところで言われました。まぁ単純な話、チョムスキーが言った「深層構造」と、その現われである「表層構造」をわけなくても、「格」とかを基本にすればそのまま繋るんじゃね?的な感じ。
まぁ、これはこれで便利です。日本語だけでなく「格」をそれなりに明示する言葉は少なくありません。
ただ、実際にどういう格が普遍的に必要なのかはよくわかりません。えと、サンスクリット語だと8個、ギリシア語だと5個、ラテン語だと6個、フィンランド語だと10個とかあったりします。フィルモアは9個の格を挙げてたような気がします。あれ? 7つというのもあったと思うけど、誰だっけ?
で、チョムスキーの話だと、文法と意味ってのは分離してます。格文法は微妙に関係してる感じかも。それに対して、モンタギュー文法ってのがあります。
モンタギュー文法はもう面倒なので、簡単に。様相論理学と自然言語の意味論をうまいことどういうしようという話。
えと。記号論理学だと、命題を「P」とか書いたり、「P→Q」とか書いたりします。Pとかが、ある意味一つの文みたいなもの。
述語論理だと「P(a)」とか書いたりします。これで「aはPである」とか読んだり。あと「∀」を使ったり「∃」を使ったり。
様相論理学はさらに「□」(必然演算子)や、「◇」(可能演算子)とかを導入します。これらがどういうものかというと、「可能世界」を導入するのが簡単。
「□P(a)」とかだと、「全ての可能世界においてP(a)が真」という感じで、「◇P(a)」とかだと、「P(a)が真になる可能世界がある」という感じ。
この場合、「可能世界ってなに?」という話になりますが、あー、めんどい。様相論理において書き出した事実とルールによって想定しうる世界みたいな感じと思ってください。
んで、さっき「自然言語の意味論」とか簡単に書きましたけど、これがめんどくさいというか、正直言って、どう扱ったらいいのかすらわからないです。
昔は、「意味? 書き出せるって」とか考えられていたのですが。
その原始的な方法は意味素性というものを想定するもの。
動物 人間 雄 雌
男 + + + −
女 + + − +
雄鶏 + − + −
雌鳥 + − − +
椅子 − − − −
こんな感じ。「動物」とか「人間」というのが意味素性。これ、どういう意味素性をどれだけ用意すればいいのかわからないし、意味素性になっているものの意味とかわかんない。
というわけで、やってみると無理。状況をかなり制限すればある程度はできるけど。ちょっと範囲を広げようとすると、無理。というか、正直、「意味ってなんなんだろう?」となってしまいます。
今のところ、たとえば「赤い」についてなら、「『赤い』が意味するものは『赤い』という表現で示される条件を満足するような個体の集合」みたいな感じ。
あるいはコーパスベースで、「赤い」が使われる全ての文脈によって示されるのが「赤い」の意味みたいな感じ。
で、生成文法でも、あるいはどの文法でもかまいませんが、あるいはどういう書き方でもかまわないので意味について書いてみようとか、ぜひやってみることをお勧めします。
文法や意味についてゲシュタルト崩壊を起こしますから。
「あれ? この文って、書いてみたけど、文法に合ってる? 伝わる? てか、そもそも読める?」とかなるみたい。




