第11話 人事を尽くして
第三位階上位
やって来たカースドドールと合流した。
カースドドールは、元が小さな人形だったのが人型サイズになり、相変わらずの黒いドレスはそのままに、可愛らしい人形の顔だが、少し不気味な感じになっていた。
そんなカースドドールを加えて、2人ではやや狭い影の中、変わらぬ速度の地上を見上げる。
程なくして到着したクアンダは、のそのそと4足で歩む、やや小型の個体。
折角のコアの補助なので、此処で試し切りをしてみる事とした。
「……」
特に声も無く、サージナイフをカースドドールに渡す。
その後、後ろに回り込んで、抱き付く様にナイフを握る手を持った。
若干やりにくいが、大丈夫。サージナイフの射程は意外と長い。
果たして——影の拘束が放たれ、即座に俺たちが飛び出す。
振り上げたナイフにはグランサージの力が宿り——振り下ろした。
スパッと、音も無く。
クアンダの首が落ち、僅かな血を残して消滅する。
「……完璧だ」
発動が僅かに早い感はあるが、問題視する程では無い。
普段からライトブレイドの修行で彼女もナイフを振るっているし、ちゃんと出来ていたと思う。
クロの拘束もあるし、これなら安心して続きを任せられるだろう。
◇
狭い穴蔵の中で3人で瞑想を行い、魔力が十分に回復したらクアンダを狩りに行く。
それをタイムリミットまで、都合3度繰り返し、夜を迎えて第三拠点へ帰還した。
今日狩ったクアンダの数は、昨日の倍近い21匹。
比較的小型の個体が多く、合計獲得DPは8万になった。
これで現在の所持DPは80万。
この後の時間でどうあがいても20万は貯められない、日付が変わるのを大人しく待つしかない。
暇つぶしがてら、心持ち慣れて来た瞑想や魔力操作を行う。
やっていて気付いたが、瞑想している時、魔力が全体的に内向きになる様であった。
意識を内に向けるから魔力も内に向いていくのだろう。
瞑想の原理が分かれば、後は魔力操作でそれを再現出来る様にするのみだ。
『本来の魔力回復はマナを感知出来る様になれば、瞑想をするよりは直ぐに可能です』
「やはりか」
だろうなぁ。
それが出来る様になれば早いんだろうが、その為にはマナを感知しなきゃならない。
「マナを感知するにはどうすれば良い?」
『現状で出来るのは、流入するマナの感知を続ける。武装等にオドを注入して操作を行う。体外へオドを流出させて操作を試みる。相性の良い他者のオドや属性魔力を流し込んで貰う。等が考えられます』
「ふむふむ」
それらをやる事で、感知能力が鍛えられて行ってマナを感知出来る様になると。
1番効果的なのは、多分マナを外部に流出させて操る事だろう。
だが、それは操れればの話で、現状では魔力操作能力が追い付いていない。
放出した魔力は殆ど回収出来ていないのだ。
なので、やるべきは、サージナイフに魔力を込めてみる事、だ。
早速、瞑想して回復した魔力を操作し、サージナイフに注入を試みる。
しかし、これが中々上手く行かないもんで、外部への流出が多い。
柄を握っている為、魔力も手のひらから出しているが、オドが外に流出しているのが分かる。
そして、どうにか込めたオドも、体の外となると操作が途端に覚束なくなった。
この感覚には覚えがある。
パーティー会場でシャドーの義体に入った時、体を切り離してみたのと同じ感覚だ。
多分シャドーの体はオドの塊なんだろう。
このままだと、魔力操作ではクロやカースドドールに負けて行ってしまう。
だからなんだと言う話だが……いや、違うな。
その分野で頼ってしまうと、戦場でも頼ってしまう。そうなると、クロやカースドドールが危険な目に遭う確率も自然と上がる。
俺はそれを恐れている様だ。
「……頑張るか」
負けたって良いが、頼り切りには決してなるまい。
その為には、ひたすらに努力するのみ。
幸い、魂に根差すスキルと言う物には、成長によって木の根の様に伸びるレベルとか言う物があり、どんな努力も余程的外れで無ければ意味があるのだとか。
魔力が活性化している世界では、努力は決して裏切らない。らしい。
そんなこんなで、何度目かの決意を新たにし、サージナイフの魔力操作を続ける。
辛うじて動くそれは、僅かずつ流出して行ってしまう為、随時補給が必要だ。
そうしている内に、操作が容易な方の魔力が尽きたので、瞑想に入る。
今度はやや小柄なカースドドールを膝に乗せ、クロを背中側に宿して、魔力を注入して貰いつつの瞑想だ。
体の内に意識を向けて、両手の操作が難しい魔力をどうにか体側へ引っ込めつつ、ゆっくり流入してくるマナや、2人のオドを感じる。
どうやら、魔力の注入はクロの方が上手いらしく、カースドドールの魔力は何となく拡散して外部流出しているのが分かった。
こう言うのの感知も、魔力感知の特訓には有効なのだろう。
そんな、気があちこち散る様な半端な瞑想をしていると、ありがたいお言葉が降った。
『……基本的には一時的な物ですが、操作しやすい得意属性魔力と生命力を操作して、体内の操作し難いオドと中和させる事で操作可能な魔力を増やす事も出来ます』
「良い事聞いた」
スラっと軽口を叩き、クロ達から受け取った闇属性魔力を操りに掛かる。
感覚的に、クロ達に貰った魔力は、俺が元々持ってる奴より操り辛いが、それに構わず内部の魔力と中和を試みる。
そうと考えてみれば案外容易い物で、色々な色で感知していた魔力達はやや暗く闇色に染まり、操作が少しし易くなった。
こりゃ良いや。
多分全体的に操作し辛くなるから実戦向きでは無いのだろうが、操作可能な魔力は増えるから修行向きではある。
要約すると、闇属性魔力しか操れないなら、他の属性魔力に闇を混ぜて、ちょび闇属性魔力に変えてしまえば良い訳だ。
加えて、混ぜてちょび闇にした物を、引き出して闇属性に戻す作業も、おそらく魔力操作の特訓に効果的だ。
まるで新しい世界に踏み込んだかの様に、色々な魔力操作を続ける。
まさしく、新しいおもちゃを与えられた子供だと自認しつつ、反省はしない。
楽しく修行出来れば、それの方が良いに決まっている。
暫くそうしていると、コアから声を掛けられた。
『……マスター、時間です』
「あぁ」
遂に来たか。
俺は直ぐに、暫定的に墓に飾っていた白いチケットを取る。
どう使うかはまったく分からなかったが、取り敢えずそれを掲げてみた。
『……念じてみれば使えるのでは』
「うむ」
と言うありがたい言葉を頂戴したので、使うと念じると、チケットが光を放った。
現れたのは、羽の生えた白い猫。
抱き上げていたそれを、降ろす。
「にゃ、お届け物ですにゃ?」
『あ、あぁ、101万DPを鎧のダンジョンコアまで。出来ますか?』
「にゃ、合点承知ですにゃ! またのご利用をお待ちしてますにゃ」
触れて感じたのは、力の圧力。
ただの羽付き白猫では無く、神に程近い力の重圧を感じた。
白猫はむふんと笑うと、目の前から解けて消える。
「……どうなった?」
あまりにも立板に水過ぎて何が行われたか分からなかったが、コアに問うと、予想通りの答えが返って来た。
『101万DPちょうどが無くなっています。成功したかと』
「よし!」
ならば人事は尽くした。
後は天命を待つのみだが……来るのは凶報か、それとも数日先の再会かになりそうだな。
便りが無いのが良い便り。それを信じて待つ事になるだろう。




