第7話 悪い報告
ひたすらに瞑想と魔力循環の平行修行に時間を使った。
何せ魔力操作がまだ下手くそなもんで、魔力を強く循環させると、魔力の発散が起きてしまう。
回復量が多くなる様に気を付けながら魔力を循環させ、十分に回復したら、動きながら魔力を循環させてみる。
そんな実戦に向けた修行は、思いの外上手く行っていた。
特に慣れているナイフを振り回す曲芸をしながらの魔力循環は、他の動きよりも魔力の発散量を抑えられた。
端的なイメージとしては、足運びと同時に手の動作や上体の動作と言う、いわゆるダンスを踊りながら、頭では今日の献立を考えている様な感じだろうか?
どちらも慣れは俺の味方だった。
そんなこんなで23日目が終わり、朝が来た。
◇
『マスター、朝です……喫緊の報告が何件かあります』
「お? ……ちょっと」
『活心を使いましょう』
「頼む」
スッキリ爽快になってから、コアのその緊急だかの報告を聞く。
「それで?」
『先ず、昨日の夕方頃、壮大湿地の中心付近で、クアンダの群れとエリアボスとの戦闘があったのが確認されました』
「ほう?」
それはまた、良いこって。
『戦場は湿地帯中心から東に逸れていた為詳細は分かりませんでしたが、地脈から得られた最新の情報で、エリアボスの正体が判明しました』
「ほう」
重要な情報だな。
果たして——
『エリアボスはC級、蛇の魔物。三首の巨大な蛇で、何らかの方法で毒を扱う事から……レッサーリトルヒドラの近似種である可能性が高いです』
「その、危険度的にはどうだ?」
C級が確定してしまったのが悪い報告と言った所か。
『レッサーリトルヒドラであるなら、恐るべきはその再生力と毒です。オリジンヒドラ程の恐ろしい再生力はあり得ませんが、首を全て落とせば勝てると言う物でも無いでしょう』
その後に続いたコアの説明によると、レッサーリトルヒドラを倒すには、首を全て落として脳を破壊し、その上で胴体にトドメを刺すレベルの攻撃が必要との事だった。
5倍ルー先生で首を落とせるかは微妙らしく、打てる手は全て打ち切って初めて倒せるレベルだろうとの事だった
入念な準備と作戦が必要だろう。
『次にですが……エリアボスとクアンダの群れの衝突から、縄張りが玉突き事故の様にズレが生じ、ちょうど今、蜥蜴達の繁栄地にクアンダ5匹の群れが進行中です。間も無く接敵する物と思われます』
「それはまた……」
良い情報だろうが……これ、エリアボスが動いたのは南と西の支配が原因だろうな。
まぁ何にせよ、支配地だからその魂の力は全て回収される。
背負う十字架の重さに変わりはない。
『それから……これが最も重要な情報ですが……『壮大湿地』の北部、最北端に、地脈の噴出口がある事が分かりました。そして……その最深部にエリアボスがいる事も判明しました』
「……エリアボス2体目、か……」
それまた、不味いな。
エリアボスが2体の厄介さは平原で履修済みだ。
『地脈から得られた情報によると、その地脈の噴出口は比較的巨大な噴出口と見られる為、我々の誘引力を振り切り、その地を支配するエリアボスが侵攻する危険性は極めて低いと見られます』
「ほう……」
なら、最悪戦わなくて良いって事か? いずれは戦う事になるだろうが。
『それが安全の担保になるかは不明ですが……報告を続けます』
何やら不穏な事を言いつつ、コアは報告を続けた。
『地脈から得られた情報によると、その地を支配するエリアボスは亜竜です。壮大湿地北部のリザードマンに信仰されている明らかな現神個体であり、どうやら友好的な存在らしいですが……』
「ですが……?」
態々溜めを作ったコアに、ごくりと唾を飲み込む。
果たして——
『その想定ランクは……最低でもA級を超えます』
「っ……」
絶句した。
A級だと?
んなもん……どうしようもないだろ。
「……近づかなければ?」
『縄張りとなっているエリアへ進出しなければ問題はないかと。思いたいですね。ですがクアンダは北部にも生息しているので、北部の支配は必須です』
「藪を突いて竜を出す様な事にならないか?」
『ですので、その亜竜が支配するエリアを『水竜湖畔』と命名し、『壮大湿地』から十分な距離を置いて支配を留める事としましょう』
「……分かった。そうしよう」
こればっかりはコアの言い分を信じるしか無い。
どのみち、本当にクアンダの殲滅は必須だ。
そうなると北部の支配も必須。
支配せずにD級と白兵戦は冗談抜きで勘弁だ。
——せざるを得ない。
それでもし駄目だったら……邪女神様にもうワンチャン頼める事を祈るのみである。
『……気を取り直して……良い報告です』
「おう」
その気を取り直せる程良い報告になるかは微妙だけどな。
『ついにDPが100万Pに到達した為、E級使役の機能が解放出来ます。現在のDPは115万DPですが、実行しますか?』
「実行で」
『はい、完了しました。続けて、長老ゴブリンやミルカルグオン、また白波海岸のイルカ、ディルン達、合計37体の使役には、3万7,000P必要です。実行しますか?』
「それも実行」
これで、宙ぶらりんだった仲間達をしっかり仲間として受け入れられた訳だ。
なんかイルカ達は仲間ってか友達みたいだがな。これから仲間になっていけば良いだろう。
『完了しました……間も無くクアンダ5匹とリザードマンが接敵します』
◇
悲惨な戦いだった様だ。
クアンダとやらは、主に湿地帯の浅瀬等を狩場とする亜竜で、純陸上では不利なのだとか。
それでも、D級。
リザードマン達は襲われた直後、狂った様に騒ぎ立てて亜竜へ攻撃を仕掛けたとか。
多分だが、竜の血を浴びる宗教関係の何かがあるのだろう。
誰一人として引く事は無く、老若男女関係なく亜竜へ挑みかかり、その内3体をも仕留めて、全滅した。
文字通りの全滅だったらしい。
『獲得DPは27,000P。クアンダの中でも比較的大型の2体が残っています。5倍ルーセントソードを送り込む為にカースドマリオネットを転移させますか?』
「実行だ」
『完了しました。弱っていた2匹の死亡を確認しました。合計1万DPです』
いや、早! 近場に転送し過ぎだろ。
そうと思いつつ、墓に祈る。
やっぱり首の位置がやや低いって話だから、5倍ルー先生なら一撃か……弱っているとは言え2体を瞬殺とかな……。
曲がりなりにも戦った戦士達と、それを襲った天災に等しいD級達に、祈りを捧げる。
……さてさて、早速その素材の有効利用について話そうか。
「クアンダを見せてくれ」
『此方です』
ヒュンと飛ばされて来た遺骸を見下ろす。
それは、まんま恐竜だった。
刎ねられた首にはぎらつく無数の牙。どでかい胴体は背中にトサカの様に骨板が付いていた。
スピノサウルスとか言うのに近いだろうか?
『背中の帆を含めた体高およそ4メートル。頭高2メートル弱。長い尾を合わせた全長は10メートルに及び、水中ではおおよそ2足歩行、陸上では場合によって4足で歩く獣竜型亜竜です』
「利用価値は?」
『背中の帆、骨板が水の魔法の触媒となっている他、魔石や亜竜石に使い道があります。それ以外の全ては、リザードマン共々分解して飼料とし、ペペルタの進化の為に餌として与えるのを提案します』
「実行だ」
まぁ、死んだ奴等には悪いと思うが、早速有効に利用させて貰おう。
◇
その後、戦いに備えて変わらず瞑想と魔力操作、偶に息抜きのナイフ振りと射撃をしていると、コアが慌てた様に報告して来た。
『ま、マスター……!』
「どうした?」
相棒の慌て具合に敢えて冷静を装いつつそう返す。
『落ち着いて、聞いてください……たった今、神様から連絡がありました……』
その凶報は届いた。
『鎧のダンジョンマスターが——戦死した模様』
「……は?」
それは、あまりに唐突の出来事だった。




