第8話 ペット飼うってよ
第三位階中位
既に次々と枝が持ち込まれ、戦いの気運が高まってシャドーウォーカー達が蟹歩きをしまくる中、最後に最良の報告とやらを聞く事にした。
「これから戦いになりそうってんで気持ち的にはネガティブ寄りなんだが……最良の報告ってのはどんなのなんだ?」
『ゴブリンの件です』
ゴブリンで最良? なんぞね。また戦いの話か?
『詳しい調査の結果、ゴブリンの群れは山側に巣を構えている事が分かりました』
「ほう?」
山側に巣を構えている。と言う事は……支配可能な領域に住んでるって事か?
『最短距離でラインを結べば、100DPでゴブリンの巣を支配可能です』
「よし、実行!」
『支配が完了しました』
やったぜ。早ぇ。短距離転移の範囲内かどうかは分からんが、奇襲し放題って事だろ?
「どうだ?」
『お待ちください……数はおよそ20匹。成体が13匹に幼体が7匹います。群れの規模としてはかなり小さいですね』
「俺はゴブリン何匹分くらいの戦力だ?」
『武器にもよりますが、今のマスターならざっと5匹は同時に相手出来るかと。負傷をポーションで回復すれば、一応は殲滅出来る数です』
そうか、隠密をしつつ足を止めずに斬りまくれば無傷も行けるか?
「短距離転移の範囲内か?」
『範囲外ですが中継地点を設置すれば問題はありません。しかしそれよりも、入口を塞いでしまう事を推奨します』
「……成る程」
目から鱗だ。餓死狙いと言う手もあったか。
入口に沢山ある石を飛ばして出れなくすれば良いだけだし、簡単に殲滅出来るな。
「こりゃ最良の報告やで……!」
『ふふん』
心なしかコアも嬉しそうだ。
「因みに外出している個体がいる可能性は?」
『ゴブリンは本来夜行性の生命体ですが、多くの場合他の夜行性魔獣を恐れ、夜は巣穴に引きこもります。その為午前は日が高く昇るまで眠っています。このゴブリン達も例にもれず寝ているので、外出している個体はいないかと』
「居たとしても少しか……よし、塞げ!」
『実行します!』
やったぜ。これで1つの問題は解決したも同然って訳だ。
『因みにアーカイブによると、ゴブリンは男女の比率が9対1と圧倒的に雄が多く、雌は少ないです。出産は最短で3日。通常ならば5、6日掛け、一度に最大5匹のゴブリンを産みます。産まれたゴブリンは1日で体が大きくなり、2日で走り回れる様になって、3日経てば狩りに出ます』
「ふーん? じゃあゴブリンの幼体が7匹ってのは産まれたばっかって訳だ」
『それと数から見て、雌ゴブリンは3匹程いるのではないかと』
13匹中3匹が雌だって? 全然9対1じゃないな。
通常とは異なる特殊な群れだったって事か……? ……いや。
「……あと20匹近く雄ゴブリンがいるって事か……?」
『どうでしょう? 見た所痩せた個体が多いので、何らかの形で群れから逸れたのかもしれません。雄の数が少ないのは雄が戦死したからとも考えられます』
「近くにゴブリンの群れがある事を警戒しておけって事だな」
『そうするに越した事はないでしょう』
まぁ、洞穴から出なければゴブリン程度どうとでもなる。だろう。
それにしても、ゴブリンってのはやっぱり結構な速度で増えてくんだな。
流石にペルタには劣るが、およそ2週間あれば最悪でも雌の数×2倍。最短なら2週間で……20倍?
「……F級の魔物は1日何DP生み出すんだ?」
『およそ10匹で1DPです』
「じゃあ20匹で2DP。間を取って10倍だとしたら30匹だから合計50で5DP」
『餌代を考慮すると赤字です』
そっか。餌代……そりゃ餓死させようとしてたから掛かるわな。
「じゃあ無理か」
『ただし種から育てた野菜や穀物を与えるなら、多少の投資は必要ですが実質ただの様な物です』
「野菜に穀物か……収穫まで時間が掛かるからな……」
『土の栄養を一気に吸って急成長する穀物を購入可能です。種は10粒で1DP程ですが、収穫は3日もあれば十分、バド・ユレイドに世話を任せれば更に早める事も可能でしょう』
「ふむ、それぐらいならやっても良いかな」
投資額としては、土地を作るのに60DP。畑を作るのに10DP。バド・ユレイドを100体追加生成して100DP。例の植物を100粒程度用意して10DP。合計180。
それから、穀物が収穫出来るまでの餌代が……。
「ゴブリンってどんくらい食うの?」
『1日1DP分あれば十分でしょう。出来合いの茹で豆を20DP分送りましょう』
収穫が早まる事を計算して40DP。合計220DP掛かるって事だな。
「よし、良きに計らえ」
『ではその様に』
壁が除かれて土が出て、バド・ユレイドがピカピカ生成されて、謎の種がパラパラ撒かれた。
仕事が早ぇ。
「ところで、なんて言う植物なんだ?」
『魔界に生息する豆。俗称でデモンビーンズと呼ばれる植物です。急速に土から栄養を得て繁殖しますが……それが大繁栄出来ない程には魔界は危険と言う事ですね』
「行きたい所では無いな」
『この世界に隣接する魔界はありませんので当面は行かなくて済むでしょう。その他、ゴブリンの排泄物ですが、そちらはジェリーに食べさせるのが良いかと』
「えー、それはなんか嫌だな」
『我慢してください。他にも——』
病気に罹った時の対処として初級ポーションの使用許可とか、数が増えた時は巣の拡張をするとか、陽光代わりの光を発する道具を取り付ける案とか、色んな話をした。
……ペット飼うのって、大変なんだな。
そうこうあれこれやってる内に、迷宮周辺の枝は十分集まったらしい。
あとピグマリオン達が頑張って木を一本切り倒して来てくれたとか。
2DPで乾燥やら何やらの処理をやって貰い、さて……。
「……何すりゃ良いんだ」
『切るなり削るなり、紐で結ぶのもありですね』
「まぁ、取り敢えず作るか……」
『ノコギリやノミ等をセットで用意しましょうか? 5DPです』
「頼む」
送られて来た幾つかの工具と麻紐とかを使い、取り敢えずやり始める事にした。
◇
『木工スキルが取得可能になりました』
ちょっとした力仕事なので、シャドーウォーカーを手に憑かせてやること暫く。いつのまにかスキルが取得可能になったらしい。
『130DPです』
「取っといて」
そんな事を言いつつ、ぐいぐいと麻紐を縛り、完成。
「よし、出来た」
素人が作った程度のまぁまぁな出来だ。
『で、どれが何で、何が出来たんですか?』
そう聞いてくれるコアに、軽く説明する。
「先ず箸だろ。こっちのがシャドーウォーカーとピグマリオン用の橋。んでシャドーウォーカーの小枝椅子。舞台。こっちがミニティピー。シャドーウォーカーの即席テントな。んで……」
最後に、ちょっと時間が掛かった立札だ。
「こっちがイモムシ畑の立札で、こっちが豆畑」
『イモムシ畑……?』
まぁ、スキルを取るのが目的であって、それはイコール作るのが目的。必要な物があって作った訳じゃないからな。
『まぁ、良いです。木工修復を取得するにはもう少々スキルを鍛える必要があるのですが……昼食はどうしますか? もう正午を回っていますが』
「あー……一応取っとこう」
その後水路に橋を掛けて、シャドーウォーカーやピグマリオン達が簡単に行き来出来る様にしよう。
◇
飯を食い、橋を幾つか量産し、思いの外受けが良かったティピーと、それを応用したブランコ擬きを作って、魔法『木工修復』を使える様になった。らしい。
ベッドに腰掛け聞いた所によると、発動自体は単純なワード発声により出来るらしいが、俺の魔力量では現状20回しか発動出来ないらしい。
「出来ないよりゃマシって感じだな」
『魔力量を増加するには、マスターのレベルをあげるか魔法系スキルを取得すると良いでしょう』
「それは凄い興味あるな」
『魔法系スキルを取得するには、先ず瞑想スキルを取得しなければなりません。集中して己の鼓動を感じ取り、更に奥を覗き込む様にじっとしていれば、瞑想スキルを取得出来る様になるでしょう』
「分かった。じっとしてれば良いんだな」
あれやらなきゃこれやらなきゃと思いがちだが、どのみち今は待つしか出来ない。
じっとしていても不労所得が入るし、じっとする事で得られる物もある。
なら出来ない事は無い。
じーっと集中してやろうじゃねぇか。
〜2日目・夜〜
「そういえばさー……進化って勝手に起きるもんなの?」
夜の獣が這いずり回る頃、マスターは遂に数度目の集中を切らし、疑問を投げ掛けて来た。
『瞑想は良いので?』
「いや、マジで……未だ取得不可でしょ?」
『不可ですね』
「……取得不可能と言う可能性は?」
『単に不得手なだけでしょう』
「やっぱそうだよなー」
『何度も言う様ですが、小さな経験を積み重ねる事は決して無駄でも無意味でもありませんよ』
全ての生命体はそうやってスキルを磨くのですから。
迷宮核に刻まれたこの機能も、所詮は散らばる経験を繋ぎ合わせてスキルの種子を作っているに過ぎません。
……神々はその種子を外部から持って来て埋め込んだりする様ですが、私にその機能はありません。
まぁ、魔法系統に才能が低いマスターの為にも、ここは会話に乗ってあげるべきでしょう。
『進化についてですが……そもそもマスターは、進化が意図されないと起こらない物とお考えですか?』
「……あぁ、いや、そうか……進化つったら適応。環境に適応して機能を獲得したり、不要な機能を捨てて効率化する物だから……勝手に起きるか」
『そうですね。通常の進化は適応。適者生存こそが世の理です』
どれほど強大な捕食者であっても、子孫を残せなければ寿命に喰い殺されるのみ。個の滅びと同時に種は滅びます。
どんなに弱い生物であったとしても、それが毒を持っていたり、爆発的に増殖する生物であれば、個が幾ら死のうと種は生き残り、未来を繋ぐ。
進化とは本来マクロな物であり、それは無数の犠牲の元成り立っています。
『……ですが、マスターの言いたい進化とは、個の進化の事ですね?』
「あぁ、そうだな……イマイチよく分からないが」
『簡単な話です。個の進化とは、全ての生命体が等しく平等に持つ魔法の一つだとお考えください』
「進化は魔法、か」
『生ける者は皆生存を真に望む。その実現に必要な力を得るのが進化です。私に刻まれた機能は、その進化の道を示し、背中を押しているだけに過ぎません。即ち、進化とは、無限の道なのです』
そう、無限の道。
例えばこの蛇の体は、頭蓋近傍の背骨から牙にかけてが魔石による強化を受けています。
これは、本来蛇にとって常套手段では無い噛み付きと言う攻撃に、外敵を殺傷せしめる威力を求めた蛇達の生存戦略!
おそらく硬い外殻を持ち、足は遅い為容易に逃亡可能であり、飲み込めない程に大きな生命体に対抗および捕食する為の種の進化だと考えられますが……この袋小路の森に該当する生命体は、いるとも言えるしいないとも言えますね……となると、この森の近傍にそれに該当する大型生命体がいるのでしょうか? とても興味深いです。
「そうか……あくまでも進化の道を提示し、その背中を押しているだけ。規格の揃った進化しか出来ない代わりに、早く進化させる事が出来る訳だ」
『その通りです』
大事なのは規格が揃っている点と進化を早められる点。
性能が上下しない事は信用という面で運用が楽になりますし、十分なエネルギーや経験を獲得した後直ぐに進化させてハードウェアをアップグレードすれば、戦力は格段に増大していきます。
……私は別に自然進化は自然進化で悪くないと思いますけどね。
ともあれ、迷宮を運営して行く上では、規格の揃った進化を積み重ねて行く方が堅実で確実なのです。
「戦力増強か〜……蟻っていつぐらい来るんだろうな」
『夜は来ませんよ』
「ふむ……根拠は?」
『夜は魔が濃くなります。闇が生命体に死を想起させ、生命力をより多く発散させる事、または畏怖の信仰により、地表の魔力濃度が僅かに向上。それが隠れ蓑となっていまだ未熟なこの迷宮を隠してくれるからです』
「成る程……だから迷宮は洞窟にあるんだな」
御明察です。洞窟の闇は生き物の生命力を絞り出す為の補助機能の様な物ですから。
……まぁ、確実に夜には襲って来ない訳ではありませんが……マスターには心穏やかであって貰わなければ困ります。
『……万が一来た場合はちゃんと叩き起こしますから御安心ください』
「そりゃ安心だな」
『明日に備えて本日はもうお休みになられては?』
「……活心を使うべきじゃないか?」
『活心に肉体の疲労を回復させる効果はありませんので』
「んん、成る程、確かに」
現時点で主力の俺が体をまともに動かせないとなるのは不味い。と考えてますね。手に取る様に分かります。
意図して循環する魔力を操り、光度を落とす。
『おやすみなさいませ、マスター』
「あぁ、おやすみ」
どうか、その御心だけでも、穏やかに。
◇
《2日目》
【出費】
水路 30P
石除去 62P
畑用土 15P
初級ポーション×30 10P
悪魔の豆の種×100 10P
茹で豆 20P
木材処理 2P
工具セット 5P
朝食 1P
昼食 1P
夕食 1P
バド・ユレイド×100 100P
木工 130P
支配領域拡大 100P
合計:487P
【収入】
地脈吸収 108P
生産量 7.1P
ゴブリン生産量 2P
蛇?(中)×3 18P
鼠?(黒)×2 4P
蟻?×159 31.8P
その他
小虫?×83 8.3P
鼠?×12 9.6P
合計:188.8P
所持DP:2,692.6P
【所持アイテム】
石塊(中)×210
石屑
木材(中)
枝
木屑
蛇?(大)の牙
蛇?(大)の皮
蛇?(大)の骨
蛇?(大)の肉
蛇?(大)の魔石
蛇?(中)の牙×5
蛇?(中)の皮×5
蛇?(中)の骨×5
蛇?(中)の肉×5
蛇?(中)の魔石×5
鼠?(黒)の歯×6
鼠?(黒)の毛皮×6
鼠?(黒)の魔石×6
蟻?の牙×159
蟻?の魔石×159
鼠?の毛皮×20
皮類は小さな穴が沢山開いています。齧られた跡ですね。




