第2話 未だ足りず
第三位階上位
招待状が来るまでの間、軽くナイフを振り回しつつ、コアの報告を聞く事とした。
『最初に、神様から頂いた水薬ですが……』
「おう」
それ気になってた。
『どうやら、ゴルボルズの火と風の角に加えて他幾らかの素材を混ぜて作られた、進化の秘薬の類いです』
「ほう」
進化アイテムって事か。
そいつは良い物を貰ったな。
『秘薬の対象は、角を持つ者。また火と風の上位属性である雷に適性を持つ者で、現段階での適応者は、雷の聖剣を持つ担い手ゴブリンのみです』
「そうか、じゃあ早速——」
『——ただし』
あいつなら色々得だし安心だと投与を勧めようとしたら、コアにピシャリと止められた。
『この秘薬を飲むに当たって、推奨ランクはE級からです。それ以下では、グロウブースト同様進化に異常をきたす可能性が少なからずあります』
「じゃあ、担い手が一段進化してから、だな。そこの所、担い手はどうだ?」
『現時点では、サジェカントの魔石をポーションと共に投与していた為、総合エネルギー量はE級を超過しています。よって私は数日以内に進化が起きる物と考えています』
「そうか」
なら順当。進化してから投与して、進化の倍プッシュって訳だ。
神様直々のお薬なら、効果も存分に期待出来るってもんよ。
『秘薬に関しては以上ですね。このまま続けて配下達の進化を報告します』
「おう」
さてさて、既に幾らかちらついてはいるが、多少は実戦レベルになったかね?
『先ずは、スライムがビッグスライムに進化しました。ランクはE級です』
「サイズは?」
『マスターを呑み込める程の巨体です』
「へぇ……」
……デカくなり過ぎでは。
その分だけ頼もしいと言う物だ。
少なくとも、サイズ的に小動物相手に負けは無いだろう。
F級の猪や熊、牛に勝てるかと言うと……正直核が穿たれる可能性がある手前、もう2倍か3倍近い体積が欲しい。
サイズの上がるE級相手には先ず勝てない、もしくは核が破壊される危険性が高いと見るべきだろう。
「……やっぱり核がなぁ」
『器用値と魔力抵抗力次第では、グレーター化と呼ばれる核無しスライムへの進化も可能です』
「ほう、今からでも可能な具体的な訓練内容はあるか?」
核無しで魔法抵抗も高いスライムって、どうやって倒すんだろ。やっぱり魔法の物量攻撃か?
少なくとも俺には倒せないな。
『多数ある使用済みスクロールの消化、それからブラックミストの発動とその分解を1時間おき、ソイルの発動と分解を消化完了次第、ライトを常時浴びせ続ける等、下位のスクロールを利用するのが良いでしょう』
「実行だ」
いつ核無しスライムになれるかは分からないが、なった方が良いのは事実。やれる事はやっておこう。
それに溜まってた使用済みスクロールに使い道が生まれるのも大きい。主に倉庫の容量的な話で。
『他のスライムには、木の棒をぶつけ合わせる訓練をさせていれば良いかと』
「そっちも実行だな。木の棒はドールに作らせよう」
適当な枝を規格揃えて作らせれば良いだろう。
何、1体に付き600本くらいの木の枝を用意すれば30万匹分を賄えるだろうさ。
木工レベルが上がれば自力で回復できるリペアも覚えるし、やって損の無い事だ。直ぐに取り掛からせよう。
『続けまして、ビッグモームがヒュージモームに進化しました。サイズは人で言うなら8つの子供程はあり、粘糸を吐いて外敵の足止めをする事が可能です』
「取り敢えずヨシ」
子供程もある巨大なイモムシなんて恐ろしいが、そこまでのサイズにもなると却って怖く無いかも知れない。
取り敢えず戦闘力がほぼ無い事は分かった。
『次に、ユガレイドがユガレイド・ドルドに進化しました。およそ高さ3メートル程の幹の太い樹木の姿で、茨を操り外敵を拘束する事が可能になった他、バド・アード同様に実を生み出す事が可能です』
「ふむ」
まぁ、熊とかの攻撃力を考えると、ユガレイド・ドルド何某の付け焼き刃の茨では拘束し切れないだろうし、受け切れるとも言えないだろう。
実戦闘力はE級に満たないと見るべきだ。
『次、アレイ・イールがサンダー・イールに進化しました。名の通り雷の魔法が使えます』
「魔法、それも雷か」
正しく電気鰻、実際は電気鱓な訳だが。
気になるのは威力だ。
『雷の威力は、練度にもよりますが、サンダーボルトには一歩及ばない程度です』
「そんなもんか」
まぁ、少なくともサンダーボルト約1発分の威力は期待出来そうだ。
となると、実際の戦闘力は、E級1体をギリ倒せるか否かと言った所か。
『続けて、ノルメリオ・ガウルがノルメリオ・ドンガウルに進化しました。超大型犬サイズのE級です』
「強そうだな」
超大型犬がどれくらいか分からない点に目を瞑ればだが。
取り敢えず俺くらいのデカさの狼みたいな奴と言う事で良いんだろう。
F級相手なら十分足止め出来そうだな。
『次に、マリオネットがカースドマリオネットに進化しました。新たにクリミナルチェインに類似する魔法、仮称ブラックチェインを使用可能になった他、魔力量が増大してライトブレイドを持って戦える様になりました』
「これまた強そう」
光と闇が合わさって最強に見えるが……やっぱり魔力量が少なくてまともに運用出来ないんだろうな。
投げるだけのライトブレイドを剣として持って戦えるのは強いだろうが……元を辿れば剣術訓練をしていなかった個体なので、追加で訓練が必要になると言う事だ。
『続けまして、ウォンクルがウォンクル・ベルガに進化しました。ランクはF級です』
「よしよし」
元チッピ達のリーダーはしっかりリーダーとして成長出来ているらしい。
流石にD級の鳥狩にお供出来る程では無いが、やがてその時が来る頃には、それが出来るレベルに至って欲しい。
『最後にですが……シャドーシーカー、クロがシャドーストーカーに進化していました』
「その様だな」
『シャドーストーカー時点で影の武器化や影の呪縛等、高等な操影術を操れる様になっていましたが、ハイシャドーストーカーに進化をした事で、操影術の更なる強化が成されました』
「具体的には?」
そんな質問の後に続いたのは、実践。
『先ずは、シャドーウォークです』
「お——」
どんなだ、と思ったの束の間、俺が地面に沈み込んだ。
いや、影に入ったとでも言おうか、薄暗闇の空間の中で、見上げた地上は光に溢れて見えた。
『この様に、ハイシャドーストーカーになった事で、マスターも影の中に取り込んで移動出来る様になりました』
「成る程」
隠密活動に良さそうな能力だな。
心に直接響くコアの報告を聞きつつ、次。
『続けて、シャドーバインドです』
言うや、シャドーの上にカースドマリオネットが歩いて入って来た。
スカートの中丸見えだからやめい。
そんな事を思いつつも推移を見守ると、影が地上に伸び、カースドマリオネットを拘束する。
その際に広めな影の空間が狭まるなどと言ったデメリット効果は発生しなかった。
それどころか、潜っている影の射程から外れても、影の拘束は続く。
『この通り、シャドーバインドは影を操る操影術の基本であり、影があれば自由にバインドを仕掛ける事が出来ます』
「かわいそうだからやめれ?」
地上に排出された俺は、影に全身揉み揉みされているカースドマリオネットを抱き上げる。
『拘束力も試して見ましょう』
そんなコアの一言で、伸びて来た影と手を繋ぐ。
刹那、ぐんと力が増した。
「うおっ!」
怪力を使って抵抗するも、徐々に増すパワーを前に引き込まれ、マリオネット共々影の世界に逆戻りした。
直ぐににゅるりと地上に排出されながら、お得意の皮算用をする。
これは流石D級の魔物と言った所か。多分E級相手なら負けなしだろう。
牛も熊も猪も、影の世界に引き込まれて捻り潰されるに違いない。
『最後に、シャドーブレイド』
次の瞬間、クロの左右に生じたのは、黒い影のナイフ。
それは射撃訓練場のマトに次々と突き刺さり、おまけに地面からもナイフが生じてマトを破壊した。
多分ナイフ投げ飛ばす威力も高いが、地面から直接影を伸ばして斬る方が高威力に見えた。
まぁ、見た所、E級には通じそうだが、D級にはイマイチだろうな。D級サンプルが少ないので絶対とは言えないが。
取り敢えずゴルボルズには刺さりはするだろう、がグランクスみたいな甲殻持ちには刺さらないだろう。
『見ての通りそこそこの威力です』
「まぁまぁだな」
『報告は以上です』
まぁ、何と言うか、E級と渡り合えるくらいの戦力になってくれて嬉しい報告だったな。
それでもまだまだ戦力不足の感が否めないのは、敵のエリアボスが最低D級だからだろう。
D級と渡り合える様になってようやく戦力になる訳だ。
『続けて提案ですが……袋小路の森にゲル、グミ、スライムの増殖拠点を設置する事を提案します』
「確かに」
現時点の第一拠点では、ジェリー系達は溢れる寸前で、増殖を抑えて貰っているのが実情だ。
その分進化の為のエネルギーを溜め込んで貰えている訳だが、ゲルみたいにそれ以上進化ルートが用意されていないタイプの魔物もいる。
ここはシンプルに増殖拠点を設置した方が、DP収支的に良いだろう。
『全種倍程度の収容量を用意するのに、合計で3万Pあれば良いかと。また、現時点で不必要な資源であるE級素材等を投入すれば、溜め込まれたエネルギーとも合わせて明日には倍に増殖する物と考えられます』
「実行だ」
『はい、完了しました。移動は徒歩で、今から実行します』
「よし」
大移動になるが、昼には終わるだろう。
上手い事明日に倍に増殖してくれたら、獲得DPも倍近くに増大する。つまり出来る事も倍だ。
今は、どうもコアがDPを貯めてるっぽい。と言うか、おそらくE級使役の機能を解放する為に100万DPを貯めてるんだろうと推測が付く。
それが終わったら、事によってはドール用に何か購入するのも良いかもしれない。
水纏錬磨が上手く言ってるならそれ用の属性石を買っても良いし、武装をきっちり整えれば対D級討伐部隊にする事も出来る筈。
夢が広がるぜぇ。
そうと思っていると、コアから声が掛かった。
『マスター、招待状が届きました』
「よし、行こう」
さてさて、鎧のマスター様は無事かね?




