第8話 刃の決戦
明らかに他と違う、まるで剣を持っているかの様な特殊な形状の鋏に、他の巨大蟹の1.5倍はある巨躯。
その蟹は刃を光らせると、此方へ駆けるルー先生にそれを振るった。
——響く金属音。
半分以下にまで減ったルー先生が、吹き飛ばされる勢いを利用して一気に壁際まで飛んで来る。
そこで俺は、銃を構えた。
放ったのは、火の爆石。
果たして——狙い通り直撃、爆発。
モロに胴体に着弾した。どうだ——
思ったのも束の間、煙を切り裂いて現れたのは、甲殻を僅かに赤く変色させた巨大蟹。
遠くにいる内に少しでもダメージを稼ぐべく、即座に続けて風の爆石を放つ。
次の瞬間——
「っ!?」
蟹は高くジャンプし、爆石を回避した。
驚いたのも一瞬の事、着地予想地点に、放ったのは水の爆石。
刹那、蟹の剣鋏が光を放ち、水の爆石を切り裂いた。
——なんて正確性だよ!
そうと驚いてもいられない。
直ぐに今度は土の爆石を、奴から随分前の位置へ放つ。
一応とばかりに軽く飛んだ蟹は、飛散する石杭に襲われて、その甲殻に多少の傷を重ねるに留まった。
『領域に入りました! 想定D+級! エリアボスに違いありません!』
「ルー先生の補充を!」
コアの指示でルーセントソードが補充され、マリオネット達の一斉退避が始まる。
そんな中で、俺はスクロールを起動した。
発動したのは、ヴォルテクスジェイル。
「どうだ!」
放たれた水流は瞬く間に蟹を包み込む。
次の瞬間、水の監獄内で光る刃が縦横無尽に振るわれた。
直感的に理解した。ヴォルテクスジェイルが破壊されると。
故に、即座にサンダーボルトを放った。
放たれた雷撃は水球を襲い、持ち上がり掛けた水球が破裂した。
一瞬で壊れたな。それだけダメージが積み上がっていたって事だろう。
僅かに痺れて動きが鈍った蟹へ、ルー先生が迫った。
振るわれた斬撃が片方の足を2本切り裂き、2度目の斬撃が振り下ろされた剣鋏と衝突する。
そこから光る剣鋏と2度の衝突を経てルー先生が消滅、そうと思った次の瞬間、蟹がまた飛んだ。
——明確に俺を狙った斬撃。
それを脱兎で横に回避する。
2本の斬撃は空ぶって、防壁を切り裂いた。
深々と剣鋏が防壁に突き刺さる中、俺はスクロールを起動した。
放たれたのは、フレイムブラスター。
防壁と鋏を熱膨張させ、引き抜くのを阻害すると共に、剣鋏の付け根を狙って甲殻へ少しでもダメージを重ねる。
それと同時に5倍ルーセントソードも発動させた。
「ルー先生!」
それを合図に、俺とルー先生は同時に蟹へ迫る。
狙いは剣鋏の付け根。
ルー先生は無傷な方へ、俺はフレイムブラスターでダメージを重ねた方へ迫る。
俺の怪力、シーカーの怪力、バンムオンの力、それを上乗せしたペインナイフのオーラの刃を、赤くなった甲殻へ叩き付けた。
果たして——
——剣鋏が束の間に光を帯び、その光が霧散した。
脱出する前に間に合った……!
そうと油断した刹那、迫り来るのは蟹の胴体。
此方を押し潰さんと迫るそれに、右拳を振るった。
凄まじい轟音。
たった6本の足で行われた体当たりに、悪い体勢から放たれた拳は、辛うじて拮抗した。
その大きな隙に、ルー先生が閃く。
放たれた幾度かの斬撃は、蟹の片方の足4本を全て切り落とし、その機動力を奪う。
それへ俺も合わせて、最後のスクロールを起動した。
放たれたコールドストームが、蟹の残す2本の足を凍結させる。
攻撃力も、機動力も、全てを奪われた蟹。
その、爆石により赤く変色した胴体目掛け、俺は最後の一撃を敢行した。
これで終わってくれ……!
右拳が光る。
赤黒いオーラを纏い、力が増大する。
その拳を、気合いを込めて、全力で叩き付けた。
——ドゴォォオッ!!
響く爆音。
山をも砕く一撃は——
——見事に蟹の胴体を破壊した。
「はぁ、はぁ……しっ!」
俺は感じる疲労感に鞭打って勝利に喜びをあらわにするも、そこへ声が掛かる。
『まだですね』
「っ」
咄嗟に、残る魔力を振り絞り、脱兎で防壁へ帰還する。
冷静に見下ろした巨大蟹は、確かにまだ生きていた。
「虫の息、だな」
ぶくぶくと青い泡を吹き、青い血を溢れさせながらも、蟹はまだ辛うじて生きている。
何かあるともしれないし、トドメを刺した方が良いだろう。
「コア、サンダーボルトを」
『はい、マスター』
渡されたそれを、巨大蟹に放った。
雷撃は一瞬の内に迸り、巨大蟹の体内を蹂躙する。
『はい……仮称グランサージの討伐、完了しました。おめでとうございます』
「あぁ、おめでとう」
今回も今回で、強敵だった。
俊敏性は言わずもがなで、斬撃の威力は余裕で迷宮の壁となった防壁を切り裂くし、状況判断能力も高い。
5倍ルー先生がいなかったら負けていただろう。
足6本と鋏1本を落とした功績はデカい。1,000DPに見合う十二分な功績だった。
『獲得DPは9,000、ほぼC級に近い個体でしたね』
「そうか」
どうりでキツかった訳だ。
俺自身、攻撃力を得るとアグレッシブになるのもいけなかったな。危うく押し潰される所だった。
俺はまだまだ未熟者なんだと言う事を肝に銘じておかないとな。




