第17話 防衛拠点
遠征における問題点と言うのは、中々に多い。
本丸である俺が危険に対して無防備なのは勿論の事、敵は基本群れて生存率を上げる為、数的不利を常に被る。
更には、基本的な肉体性能にも差があり、当然力は敵が強く、また速度の一点に置いても、狙われたら逃げると言う選択肢が取れない程には早い。
中には白身魚よろしくその場を動かず奇襲して、毒で攻撃しようなんて生物もいるが……此方には万能薬があるから基本的に毒は余程やばく無い限り無視して良い。
問題は4つ。
戦うパワーと戦利品を持ち帰るパワー。単純なパワー不足に、敵から逃げる。もしくは逃げる敵を追うスピードの不足。
それから、まともに戦える頭数の不足。そして何より……俺が戦ってる問題。
その内後者2つに関してはどうしたって時間が掛かり、時間を掛けてたら侵略を受けてしまう。
となれば改善出来るのは前者の2つであり、俺はいつも通りエンドレス走り込みをしつつ、いろんなエンドレス筋トレを行なった。
ポーションを使用しひたすらに訓練に励むのは、一種の現実逃避。
何かやっていないと、悪い考えばかりが浮かぶ。
背中を預けられる仲間がいない。常に這い寄る危機がある。増えた仲間は脆くて庇護対象。
俺がやらなければ。俺が強くならなければ。そんな言い訳をして、脳死で訓練を続ける。
何も考えなくて良く、ただ限界まで何かをやってはポーションや活心で回復する。それが心地良かった。
だがまぁ続けて見れば、少しずつ、確かに、限界が底上げされて行くのを感じ、そうなればだんだん面白くなって来る訳で、今となっては趣味みたいな物だ。
……或いはそんな軽い気持ちも、自己防衛の思い込みかもしれないが。
ひたすらに訓練に没頭していると、また夜明けが来た様だ。
『マスター、おはようございます』
「おう」
今日で転生して15日目、ちょうど半月くらい。
長い様な短い様な……長いと感じるのはバンムオンとの戦いとそれによる仲間の死があったから、短いと感じるのは脳死で訓練してたからか。
どんな気持ちにも理由があるな。どんな思いも噛み締めて行こう。
差し当たり朝飯から噛み締めるかね?
テーブルに出された料理を前に手を合わせる。
「いただきます」
『ごゆっくりお召し上がりください。報告を始めます』
いつだって清々しい気持ちなのは、活心のおかげかな? そんな事を思いながら飯を食い、コアの報告を聞く。
『先ずはそうですね……ジェリーとゲルが倍に増えました』
「ヤッタゼもぐもぐ」
倍ね、まぁ餌が殆どないしそんな物だよなー…………何匹いたっけ? …………250万匹くらいいなかったっけ? ……倍……?
「……明日1,000万匹行く?」
『行きますね』
となると、ジェリーは1000匹で1Pだから……ジェリーだけで1万か……いやそんなでも無いな、その次の日は2万になる訳だが。
『ジェリーは大気中の余剰魔力を吸収して増殖しています。従って一部地域にジェリーが密集すると増殖速度が低下します』
「洞窟内だとほぼ無尽蔵に増えると?」
『はい。魔力拡散が起きる地上部ではやがて効率が落ちて行くので、袋小路の森の制圧を提案します』
「余裕がある時にぼちぼち進めて行こう」
『それが良いでしょう』
制圧ってか皆殺しな。
駆逐するってなると若干抵抗感あるが、そもそも発展と害獣の駆除はいつの時代どんな所でも起きている事だ。
俺等は侵略者であり、殺さない利益が殺す利益を上回らない限り殺戮を躊躇う権利は無い。
『続けて、シャドーハイカーがシャドーウォーカーを生成しました』
「よしよし」
シャドー達は夜限定だがかなり戦力になる。
高い隠密性能に加えて小さい割にパワーもあり、形状自在だから補助も出来て、バディを組ませると戦闘力、生存力が上がる。
その反面……魔法や魔力が介在する攻撃に弱いらしい上にポーションが効かない訳だが。
ともあれ、増えてくれるとDPが増加するだけじゃないお得感がある。トテモウレシイ。
『最後に……ペルタが全て進化しました』
「もぐもぐよしっ」
ペルタは増殖系の魔物だから増えても進化しても戦力にはならないが、得られるDP実質10倍はありがたい。
数は確か此方も300万くらいいた筈なので、3,000Pが3万になるのは大きい。
やっぱり、ペルタの繁殖場が必要だな。
グァームの方は、戦闘力はありそうだが水中限定だからなぁ……まぁ……世界の支配と言う点で考えると、やがては必ず水中に侵攻する事になる。
その時はグァーム達の進化した姿が戦場を駆け回る事になる筈だ。
……何かしら訓練とかさせてやりたい所だな。
『進化、及び増殖は以上です』
「おう、お疲れ」
いつも通りコアへの感謝もしっかり噛み締め、飯を掻き込む。
『次に、外敵の状況ですが……昨夜から今朝に掛けて、牛や兎が袋小路の森へ数度侵入しました』
「ほう」
『その多くは平原へと戻りましたが、数匹の兎が南西の山付近を彷徨いている他、川を遡上した小型鰐の数体が現在もゆっくり遡上を続けています』
「ふーむ……」
完全に侵攻が始まってるなこれ。
兎くらいなら迷い込む事もあるってか、足が強めの兎と角兎は多分根幹を同じくする奴等だろうから森に来るのは有り得る話だが……鰐は今までこっちに生息していないし、狭くて早い川を態々複数体が遡上している以上、間違いなく侵攻は始まってる。
「……鰐、か」
『想定ランクはF級。アーカイブによると、形状が古代種、ガルガーダーに酷似していますが、その幼体のサイズでありながら成体の様です』
「ふむ」
となるとガル某が退化したとか劣化したとかそう言う系だろうな。
つまり進化すればガル某になると。
現状水中戦力は無いに等しいから、あまり鰐には来て欲しくないな。
『河川工事を行う事で川からの外敵の侵入を抑える事が出来ます』
「ほう」
河川工事? ……有りだな。唯一の川を堰き止めるとなると生態系壊滅待った無しだが、例によって侵略者なので良し。
『そのついでに渓谷部に砦を設置し、陸上型魔物の侵入抑制及びマスターの中継拠点とするのが良いと考えます』
「ふむ」
確かに、一々ここまで戻って来なくても良いのは利点になり得る。
殆どは時間を代償に走って鍛えながら帰って来てるが、急ぐ必要に迫られたらDPをほんの少し使って転移する事になる。
そこに拠点を作るのは、DPや時間の節約にもなるし、ホームとして開拓すれば罠も張りやすい。
敵が攻め込んで来た時に本丸で直接対決よりも別の拠点で少しでも撃ち減らす方が良いだろう。
おまけに、場所も良い。
袋小路の森は基本的に山に囲まれていて、そこには崖もあれば大岩もあるし木々もあり、行く手を阻んでいる。
牛達が引き返したのは、邪魔な物が多く身動きが取り辛かったと言うのが大きいだろう。
そんな中にあって渓谷は、雨季とやらで増水していない今はなだらかで、進軍するには適している。
此処に壁を築くだけでも十分な防衛力を期待出来る筈だ。
……まぁ、D級がマジで鬼気迫って進軍したら、木々とか岩とか関係ないけどな。整地されちゃう。
「……D級の突撃にも耐え得る拠点が欲しいな」
『現状では石材を積み上げる程度の事しか出来ません』
だよなぁ……金属をもっと集めればマシになるか?
『勇猛大平原の地下に石灰、袋小路の森北部に珪石や石膏、火山灰土が見られる他、袋小路の森中央の湖には粘土層が多くあります』
「ふむ?」
『それらと十分な金属を回収すればセメント、ひいてはモルタル、コンクリートの作成が可能です』
「ほう?」
コンクリート作れんの? となると石積んでるだけの壁も補強出来るって事か。
コンクリートがD級の攻撃を何処まで耐えられるかは未知数だが、幅を厚くすればそれもある程度問題解消にはなるだろうし……。
「取り敢えず実行だな」
『はい……石灰の採取に300P。粘土の採取に60P。珪石の採取に10P。石膏の採取に8P。金属類は630Pで魔鋼3t、鉄30tを回収するのが良いでしょう。各種素材や石材の加工は300Pあれば可能です。土地の整備は広範囲に及ぶ為、100Pは必要かと。拠点等の設置は30Pあれば問題ありません』
「ふむふむ」
内訳聞いてもイマイチ分からんが、つまり……1,438Pで拠点が作れるって事か。
洞窟拠点は土ほじくるだけだったから合計で1,000掛かってないだろうし、何なら規模は地底湖も合わせて10倍はあるだろうが……まぁ、D級を止める為の拠点と思えば安いもんだ。
『因みにですがマスター、内装は——』
「——お任せ! 実行!」
『はい……完了しました!』
良し、見に行こ。




