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第11話 チェス兵団

第三位階中位

 



 周囲に気を付けつつ東進し、どうにか支配エリアに帰ってきた。



『マスター、ご無事で!』

「なーんとかな」

『直ぐに転送しますかっ?』

「いや、走って帰る。ナビを」

『お任せください』



 いや、ほんとに死ぬかと思ったわ。


 毎回コアの声を聞いて安堵するばかり。


 あれらを物ともしないくらい強くなりたいねぇ。



『付近に熊などの大型個体が少数存在します、大きく迂回して帰還しましょう。先ずはそこから正面に真っ直ぐ移動してください』

「OK」

『それから、何があったかの報告をお願いします』

「OK」



 微に入り細を穿つ、もとい見たまんまの情報を伝え、初級ポーションを飲みながら走る。



『角の生えたうさぎとそれが多数潜む大地の裂け目ですか……』



 考える間隙。チカチカと明滅しているのが目に浮かぶようだ。



「ルー先生が即半分くらいになった。相当数がいたのか強いのがいたのか……」

『……角うさぎの実物が無い以上何とも言えませんが、遭遇時に足を攻撃されたのならば意図して狙った物と考えるべきでしょう』



 ……確かにな。音も無かったし威力もそれなり。ただの狼だって首を狙うのだから、角うさぎも急所を狙って然るべきだ。



『角の形状はどうでしたか?』

「指くらいの長さで真っ直ぐ。反りはなくてナイフみたいな角だったな」

『であればホーンラビットの亜種と言えますね。一聞する限りだとブレイドラビットにも近い様に思えますが、この世界特有の種なのでしょう。角は敢えて抜けやすい構造をしている物と考えられます』

「成る程」



 となると敢えて足を狙うのは……機動力を削ぐと共に高い位置にある急所を狙いやすくする為、か。



『……外敵を仕留める為だけではなく、万が一の際の逃走成功率を向上させる為でもあるかと』

「……それもそうだな」



 生き残らないと意味がない訳で、おそらく草食であろううさぎは逃げてれば生き残れる筈だ。

 そうなると——



『月夜塚は極めて特殊な環境であると言えるでしょう』

「そうか」



 つくよつかー? 名前付けるの早くなーい?



『複数個体が一つ箇所に集まり定住しているのだとしたら、その地には統率能力を持つ上位個体がいる物と考えられます。ルーセントソードが半減したのは上位個体の攻撃による所が大きいのではないでしょうか?』

「あり得る」



 なんならD級並みの危険度だな。近寄らんとこ。



「行かなければ問題ないな」

『賢明な判断です』



 死にに行く様なもんだもんな。





 太陽が中天にかかる頃、拠点に到着した。



『改めましてマスター。無事のご帰還お喜び申し上げます』

「ああ、ありがとう」



 俺も嬉しいわ。何度でも言うが死ぬかと思った。毎回だけどな。


 取り敢えず昼飯食って休もう。


 生物は様々な欲求を満たす事でストレスを軽減する。つまり飯を食えば疲労が軽減される筈だ!



「取り敢えず昼飯食べるわ」

『ではバンムオンのステーキをお召し上がりください』



 わちゃわちゃと寄って来た連中を撫でたり抱き上げたりした後、椅子について出された飯を食う。



『お召し上がりながらお聞きください』

「んむ」



 美味いんだよなぁ。

 下拵えがしっかりしてるから味が染みてて肉も柔らかいし。


 疲労感からぽやっとそんな事を考えつつ、コアの報告を聞く。



『鉄9tを消費し、チェス兵が9,000体増加しました。総数1万と2体の内訳は、黒と白でちょうど半分ずつです』

「ふも」



 美味い、具合に増えたな。


 中々の戦力だろうが、防御力高めとは言え死ぬ可能性もあるし、安心できるくらい進化するまで運用出来ないのが惜しい所だ。



『数が十分揃ったのでチェス兵の特性を試行しましょう』

「合体だな」

『はい。コピーしたデータによると、マスターにもご満足頂ける程かと存じます』

「ほう?」



 マジで? そんなに? ……コアがそう言うって事は相当だぞ。



『先ずは此方です』



 コアがチカリと明滅すると、チェス兵達がゾロゾロと現れ、黒と白の軍団が綺麗に整列した。

 その先頭にいる2体が、最初の2体だろう。


 2体が槍を振ると、軍団の中から3体ずつが前に出た。


 円陣を組む様に寄り集まり、ピカッと光る。


 新たに現れたのは、馬に乗ったチェス兵。



『チェス・ミニマムナイトです』

「ほう」



 騎兵はカタタッカタタッっと高らかに音を響かせ、俺が軽く走るくらいの速度で辺りを走り回った。

 そうと思えば一瞬速度が増し、小さな風切り音を上げて槍が空を貫く。


 ……成る程。コレは強いぞ。



『一定以上の硬さを持つ相手には弱いですが、攻撃力、防御力、機動力はH級の中でも極めて高く、付近に生息するG級以下の魔物はコレを倒し得る手段を持ちません』

「それより上は?」

『F級相手では時間稼ぎくらいなら出来るでしょうが、倒し切るのは困難です』



 此方にやって来たミニマムナイトのポーンの所を持ち上げてみると、馬も浮かんだ。

 どうやら足をぷらぷら出来る割に芯の所は馬と合体しているらしい。



『続けまして、チェス・ミニマムビショップです』



 先と同様に3体が前に出て円陣を組み、強い光の後に現れたのは、ポーンより一回り大きな兵士。

 手には棍棒の様な太い何かが握られており、またポーンと比べてガタイが良いのでパワーがありそうだ。



『チェス・ミニマムビショップは、修復リペアの魔法が使えます』

「……木工修復ウッドワークリペアの上位互換?」

『汎用性を重視した結果性能は控えめとなります』



 成る程、道理だ。


 ビショップはブンブンと棍棒を振り、ガンッと床を叩き付けた。


 攻撃力自体はそう高くは無さそうだが、魔法が使えるならそんな物だろう。コレでもH級だろうしな。



『次です』



 コアが言うや、次は軍団から5体のポーンが前に出た。


 現れたのは、キャタピラの付いた近代的な戦車。



「……」

『チェス・ミニマムルークです。砲弾は秒速500m程の榴弾。生成には5時間掛かり、最大の保持容量は5発までです』

「全弾でおよそ1日か」

『砲弾生成の工程は、素材生成が4時間。整形が1時間であり、素材の供給があれば1時間で弾の生成が可能です』

「ふむ」



 …………強くねコレ? コレ強くね? いや、マジで、もし弾が頭に当たったら中で弾けて即死するよ俺? E級殺せちゃうよコレ?



『距離にも寄りますが動く的に対しての命中精度は低く、主に着弾後の炸裂により飛散する金属片で攻撃します。また機動力が低く小回りが効かない為、動く対象への攻撃は苦手です』

「確かに」



 キュラキュラと動き回るその速度はおおよそ早歩き程度。

 砲身の回転速度も戦場では致命的に遅く、動き回る敵には当てられないだろう。


 ただし、命中の確率が10%にも満たないのだとしても、その数%は実質即死率だ。十二分に脅威的である。



『また、石を取り込む事でも砲弾を生成する事が可能です。その場合は射程距離含む命中率、威力、共に大きく低下しますが、石材の吸収、整形は1時間あれば十分です』

「手段の一つとして覚えておこう」

『それが良いでしょう』



 ……とか言っておいてなんだが、例えばシャドーハイカーとかに持たせて近接格闘の距離で頭狙えばポーンと弾けて終わりだろ?

 ポーンだけに頭ポーンって冗談キツイぜ。石弾でも死ぬわっ!


 ……ワンチャン鎧猪なら石弾くらい弾くかもしれないが。



『次はチェス・ミニマムクイーンです』



 9体のポーンが進み出て合体。現れたのは、ミニマムポーンの倍以上の背丈を持つ、豪奢なドレスを着てティアラを被った女性的なフォルムの兵士。


 それが手を掲げるとポーンが持つ物より2回り大きな槍が現れ、更にそれが変形して棍棒になり、続けてクイーンがジャンプしたと思ったら下半身だけ馬になってケンタウロスみたいになり両腕が槍に変わった。

 更に続けてジャンプすると元に戻り、そうかと思えば片腕がぶっとい砲身になっている。


 コレはマジでやばいな。



『見ての通り各形態の全ての機能が使えます。その変わり、修復リペアは出力低下。馬では機動力が少し低くなる他投槍攻撃が出来ません、また砲弾の保持容量は1発まで。基本的な命中率は低くなっています』

「そうか」



 確かに性能そのままだと強すぎだもんな。9体分のポーンの力しか無い訳だ。



『また変形には魔力を消費する為、変形を繰り返すと魔力を必要とする修復リペアや砲撃を行う事が出来なくなります』

「そりゃ道理だな」



 そもそも合体にも魔力を消費している筈だし、クイーンは汎用性が高い反面消耗が大きくスペックも低めな訳だ。


 ただし、状況への即応力が十二分だから、例えば戦車の時に急いで逃げなければならないとなった時、分裂して馬になっても合体出来ない2体は置き去りだが、クイーンなら即時退散出来る。

 それに威力が低いらしいとは言え、近接射撃の命中率は小回りの効くクイーンの方が上の筈だ。


 全体的なスペックは下がるだろうが、生存力や殺傷力はクイーンが遥かに上だろう。


 なんだったらそのまま運用しても良いくらいだ。



『次に、チェス・ミニマムキングです』



 クイーンの時と同様に9体のポーンが合体し、現れたのはクラウンを被った王様兵士。

 チェスや将棋のキングは弱い印象だが、それに違わずキングは何も持っておらず、一見して大きいだけで戦闘力は無さそうだ。


 そうと思った刹那、キングが手を翳し、複数の魔法陣が現れた。


 光の先にいたのは——



『——これこそ正にマスターが欲する物です』

「…………マジかよ」



 現れたのは、ミニマムポーンよりも更に小さな兵士達。

 ポーンらしき物が8体。ナイト、ビショップ、ルークらしき物が2体ずつ。そしてクイーンらしき物が1体。


 クイーンだけはミニマムポーンより一回り小さい程度だが、全体的なサイズはそれこそ指先くらいしか無い。


 しかしコレは……まさか……。



『名称はチェス・タイニーポーン類。魂無き魔法人形です!』

「おおっ!」



 やっぱりか! これなら死を恐れずに敵と戦える……!



『……ただし、その操作範囲はキングの性能によって変わり、ミニマムキングだと半径10m程度が限界です』

「……まぁ、仕方ないな」



 そりゃポーン9体分だもんな。



『また、処理能力が及ばない為全体の動きは悪く、その性能も低い為付近に生息するG級にも破壊される可能性がある他、召喚には魔力を消費する為、15体を召喚した直後はポーン1体すら再召喚出来ません』

「因みにルークやクイーンの殺傷力は?」

『F級ならば眼球を破壊出来る程度。G級では頭骨を貫けず、直接脳に攻撃出来ても当たりどころによっては即死させる事が出来ません。H級ならば弱点に当たれば即死、それ以外でも動きを鈍らせる事は可能かと思われます』

「ふむ」



 そこそこだな。



「進化に期待って所だな」

『……そうですね。次の段階に進化すればミニマム系を召喚出来る様になりますので、戦力は大きく増加する事でしょう……次が現状最後の合体です』



 キングで最後かと思ったら、未だもう一つあったらしい。


 軍団から進み出て来たのは、10体のポーン。


 現れたのは、クイーンやキングよりも一回りは大きなポーンだ。



『チェス・プチポーン。チェス・ミニマムポーンの進化種です。正確にはそれよりもサイズと性能で劣りますし、コレ以降の合体は不可能ですが』

「合体ウォーカーと同じだな」



 アレも合体すると殆ど何も出来ないしな。



『チェス兵については以上です』



 チェス兵の進化に期待が高まる良い報告だったな。



 

 



「進化に期待って所だな」



 ……いえ、ポーン等に爆石の類いを持たせて突撃させれば十分なダメージを与える事が出来る筈です。

 ですがマスターがそれに気付いていない筈も無い。


 きっと無意識的に忌避していらっしゃるのでしょう。

 魂を正確に感じ取れないマスターは、それらの明確な差を知り得ない。致し方の無い事です。


 今は私も目を瞑りましょう。



『……そうですね。次の段階に進化すればミニマム系を召喚出来る様になりますので、戦力は大きく増加する事でしょう……次が現状最後の合体です』



 

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