第5話 鎧のマスター
いつのまにか後ろにいた白い大きな鎧は、ピタッと止まるとぺこりと綺麗にお辞儀した。
「こ、こんばんワ」
くぐもった声。
肩の所にコアマジロが浮いているので、同期とやらだろう。
「……あぁ、こんばんは」
俺が手を差し出すと、白鎧はそれを握った。
ぐぐっと押しのけられる様な力の発散。これは……俺より強いか?
「よろしく兄弟」
「は、はい! よろしくお願いしまス!」
取り敢えず胡麻擂っとこ。
「積もる話もあんだろ。立ち話もなんだから座る所行こうぜ。ここは初めて?」
「は、はい、初めてデス」
「実は俺もそうなんだ。でも少し知ってる。案内するよ」
それとなく類似点を挙げ、ついでに少し恩を売る。
大鎧は疑う事なく付いて来た。
コアの声が頭に響く。
『……彼の鎧個体はC級相当です』
『……マヂデ?』
マヂカヨ。行ってもDくらいかと思ってた。
え? って事はバンムオンとまともに殴り合えるレッヴェール? ……胡麻擂っとこ。
適当に皿を取り、それを白鎧に渡す。
そうやって細かい所で点を稼ぎつつ、寿司を取って行く。
白鎧は肉メインに野菜少々。やっぱデケェからかな。本体がどうかは知らんが。
取り敢えず好物が被んなくて良かった。
『しかしこれ……食べんの意味あるのか……?』
『この食材は全てF〜E級相当の力を持っている様です。食べればその分だけ力が魂に蓄積します。勿論本体で食べる分には及びませんが』
『お持ち帰りに期待大だな。そういや、この体って影しか食えないのか? ってか鎧は中身あんのか?』
『食事可能な義体が用意されている様です。心配は無用かと』
ふーん……って事は……。
試しにとシャドーウォーカーに刺身を渡すと、ウォーカーは暫しむにむにした後それを体に取り込み——飛び跳ねた。
ぴょんぴょんと喜びを露わにし、もぐりもぐりと刺身を食っている。
こりゃ良いな。おらもっと食え。
ウォーカーで遊びつつ料理を取り、暫し彷徨いていると、ある事に気付いた。
帰りの扉の横に、本日の御招待客と書かれた立て札がある事に。
「……はぁん? マジで?」
書かれていたのは2名分。
影のダンジョンマスター様と鎧のダンジョンマスター様だけだった。
…………同期って少ねぇの? まぁ、取り敢えず飯は大量に持ち帰れそう。
◇
鎧のマスターにあれこれ会場の説明をし、庭のテラス席に着く。
整備された庭を月光が静かに照らしていた。
「まぁ、会場に関してはこんな所だな」
「色々と教えて頂いテ、ありがとうございマス!」
「良いさ、持ちつ持たれつだからな。何よりこのパーティーの趣旨はお祝いと交流だしな」
「はい! それでもデス!」
差し当たり飯を食い、会話のインターバルを作る。
ヒョイっと寿司を食うと、それを見た鎧も肉に手を付ける。
さぁ、どうやって食うんだ? その鎧でっ……!
そんな俺の熱い思いとは裏腹に、鎧は肉が刺さったフォークを口元に持っていき——カシャンッとバイザーが上がった。
そこにあったのは、虚空。
虚空でフォークは止まり、そうかと思えば、一口にはやや大きなサイズの肉が消失する。
ヒョイっとフォークが肉を刺し、口元の虚空で消滅する。
肉が刺さって虚空で消滅する。
肉が消滅する。
「……あのぅ……見られていると、少し食べ辛いのデスガ……」
「あぁ、すまん。どうなってんのかなと思って……」
……食べ辛いと言いつつ変わらぬ吸引力に戦々恐々としつつ、俺は視線を斜め下に逸らす。
そこでは、小さな白鎧が一心不乱に肉を貪っていた。
……ペットと飼い主は似るって言うよな。
そんな事を思いつつ、刺身を貪るウォーカーも見下ろす。
……ペットは飼い主に似るんだよな。
気を取り直してコアに声を掛けた。
『それで、コア。アレが何か分かったか?』
『私のデータにはありません。従えた訳でも無いでしょう』
『ふむ、根拠は?』
『コアの生成時期が私よりも後だからです。およそ1〜3日程度後にダンジョンマスターになった物と思われます』
『成る程』
つまりこの白鎧は後輩って訳だ。俺よりランクが2段上だけどな。
おおよそ8日前後なら、確かにDPも全然貯まってないだろうし、機能欄でチラッとだけ見た事がある魔物使役とか言う機能は取らないし取れないだろう。
この白鎧がC級としての力を遺憾無く発揮し、D級の群れとかをばったばったと薙ぎ倒していない前提だが。
つまり……元々生成出来る魔物が違うって事か……?
少し情報を聞き出してみるかね?
……胡麻擂りつつ好感度上げ上げ狙いでな。
◇
少しの時間を置き、些細な導入から切り込んで行く。
「……お腹空いてるのか?」
「え……」
些細って言うかマジで疑問。一応満腹感あるよ? 義体でも。見てるだけで満腹だもん。
どんだけ食べられんのコイツ。
少し戸惑う白鎧が口を開く前に一押しする。
「……あんまり食べられてないのかと思ってな」
「あ……いえ……毎日ご飯は食べてマス」
「そっか、良かった」
まぁ、小規模の世界を一つ支配したってくらいだからな。そりゃあ食べて行けてるだろう。
ここを起点に更にもう一歩。
「余った飯はテイクアウト出来るらしいぞ」
「takeout、それはとてもありがたいデスネ!」
「招待客俺達だけらしいし、半分ずつにしよう」
「はい!」
さりげなく全部持ってかれない様に牽制し、話を繋ぐ。
「普段は何食べてるんだ?」
「お味噌汁とご飯……お魚とか食べていマス」
「和食か……狩った獲物とかを食べたりは?」
「あぁ……そのぅ、設備がなくて料理が出来なくテ」
「成る程……」
そりゃ設備がなけりゃ出来ないわな。切ったりワンチャン焚火で焼いたりが限度だ。
「コアに頼んでやって貰えば良いんじゃないか?」
「え? ……もしかシテ、そちらのコアさんは料理が出来るんデスカ……?」
「……出来るが?」
「…………」
何やらコアマジロ2号をじっと見下ろす白鎧。それに耐えかねたか、コアマジロ2号の声が響く。
『……少し焦げただけですが?』
「すこシ……?」
『火加減は料理の基本ですよ。慣れない内は弱火で火の通し方を覚えてみては?』
『誰にでも得手不得手はあります。忠告は受け取りますが過度な期待は控える様に』
成る程な。コアも性格や能力にばらつきがあるのか。
となると機能が違うのもあり得る話だ。と言うか料理とかは基本機能かと思ってた。コアには足を向けて寝られないな。
「配下には何か食べさせてるか?」
「えっと……コアさんが、別にあげなくて良いト」
「別にあげなくて良いみたいだが、早く強くなるらしいぞ」
『小規模の世界では獲物も回収DPも少ないのです。節約しなければなりません』
『それもそうですね。地脈が欠片程度しか機能していない場合もありますし、小規模世界でのDPの節約は必須と言って良いでしょう』
「そ、そうだったんデスネ……」
「成る程」
確かに、そう言った面でも小規模世界に行くのはリスキーなんだな。
……どうも地脈って物は生物の活性と関係が深い様だし、逆説的に生物が少なければ地脈も弱って行くのかね?
ともあれ続きだ。
「まぁでも、兄弟の連れは……何か食べる機能とかあるのか? 義体では食べてるが」
「いえ、この子達は元々食べる能力がなくテ」
『分裂等を目的として金属を取り込む事はできます。パワーはありませんがね。と言うか、そちらも知っているのでは?』
『どうやら我々に与えられた権能は一律ではない様です』
『……通りでその黒い生物に見覚えが無いと思いました。情報の共有は可能ですか?』
『願ってもない事です。恐らくそう言った意味で神々は交流の場を作ったのでしょう』
そう言うや、コアマジロ達は俺と白鎧を見上げた。
『情報の共有を行いたいと思います。許可を』
『情報の共有を行うべきであると考えますが、良いですか?』
「俺は構わないぞ。苦労をかけるが頑張ってくれ」
「私も構いまセン。お願いしマス」
コアマジロ達は認可を受け、ピトッとくっ付いた。
『少々時間がかかりますので、そのまま食事を続けてください』
『暫し目を離します。勝手に帰らないでくださいね?』
「そんな事しまセンヨ!」
ふむ、声を荒らげるくらいに仲が良いんだな。
他のマスターとコアの仲が良い事に、不思議と少し安心した。
やっぱり同じ立場の奴が安泰だと、こっちも大丈夫な気がして良いよな!




