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第3話 神の御前

第三位階中位

 



 別に呼び出しではなかった。


 なんでも、此度の功績に対する記念パーティーへの招待状なんだとか。

 あげられた功績は2つ。『袋小路の森』の支配と、小規模世界一つの支配だ。


 後者に覚えはないが……どうやら同期との交流も兼ねたパーティーらしいので、同期とやらの功績なんだろう。


 参加出来るのは俺とコア、それから同伴者1名までオーケーと言う事なので、取り敢えずシャドーシーカーを連れて行く事にした。


 細かく相談し、コアに送られて来たデータに入力を終え、じゃあこれで行ってみようかと参加に丸を付けた所で、コレである。



 一瞬プツッと、何かが途切れた様な覚えのある感覚がした後、目の前には見知らぬ広場があった。



「……はやくねぇ?」

『……レスポンスが早いのは良い事ではないですか』



 いやそうだけどもんんーー??


 真横から聞こえた声に視線を向けると、そこには宙に浮く虹色っぽい球体があった。

 正確に球体では無く、四足があり、顔っぽい物もある。小さなアルマジロと言うかハリネズミと言うか……いやでもコアだよなぁ?



「えぇーと、コ……あるぇ??」



 それに手を伸ばした所で、ようやく気付く。


 先ず俺の声がノイズが掛かったみたいにもやもやしている事と、手が、そしてそれに繋がる身体全部がまっくろなシルエットになっている事に。


 なんぞこれ?


 そうと思ってる内に、足に何かが入った様な不可思議な感覚が訪れ、それがすすすっと肩まで上がった所で、シャドーウォーカーが肩から生えて来た。



「……なんぞこれ……?」

『義体です』

「擬態? ……あぁ、義体か」



 成る程……つまり、浮いてる謎生物がコアの仮の体で、シャドーウォーカーの中にはシャドーシーカーが入ってて、俺はシャドーナニカーに入ってるとそう言う事?


 と言う事は、だ。



「変身……!」



 平べったくなぁれっ! そう念じると、体がほろほろと崩れる様に溶けて行く。

 それと同時に這う様なイメージも追加すると、更に早く溶けて地面に広がった。


 すげぇ。ほんとにシャドーナンカーだ。


 イメージ的には這ってる感じだが、体は案外意のままに動く。

 練習すれば意識せずに色々出来る様になるだろう。



「おぉー」



 ナイフを突き上げるイメージをすると、平面からいつものナイフと同じ形状の物が出て来た。



「これ切れそうだな……」

『シャドー系上位種と同等の義体なのでしょう。そのナイフには本物と同様の殺傷力があります。観測されるエネルギーから、ランクはE級。おそらくシャドーシーカーの上位種、シャドーストーカーです』

「おぉー。シャドーナントカーのなんとかはストーカーか……」



 なんか嫌。


 じゃあ次は動物にと思ったが、四足までは行くがそれ以上にならない。

 全体的にフォルムが丸っこくて、風船みたいになる。



「んんー」



 細部をイメージすると一時的にカッコよくなるが、それを維持するのが少し難しい。

 一方で四角や丸は簡単だ。維持も楽だし……これは多分慣れが必要なんだろう。


 更に試しと、体から球体を切り離してみると……。



「ふむ……なんだろな……」



 遠いと言うか鈍いと言うか、切り離した部分だけ水中に入った様に動きが遅く、また気を抜くと緩やかに楕円に変わって行く。

 更に気を抜くと、徐々に形が人型になり始め、じわじわと端から、宙に溶ける様に消え始めた。



「やべ」



 それに触れると、ぷるんっと弾かれた様に影が戻って来た。

 ……若干チリチリと痛い気がするのは、その部分が死に掛けたからだろうか?



『……そこにコアが生じていると、分裂と言う形で増殖が可能です』

「成る程なぁ」



 これ、面白いな。


 ちらっとシャドーシーカーもといウォーカーの方を見ると、ちょうど自分の影を球体状に切り離す所だった。

 ウォーカーは両手を翳し、球体の形をグネグネと変形させ、ナイフを形成する。



「おぉー! すげぇ」



 切り離した部分でナイフ作ったぞコイツ。流石、産まれが違うな。

 結構しっかり訓練しないと切り離した部分の整形は出来ないだろうし……。


 ウォーカーは切り離した影をピッドにしたりペルタにしたりモームにしたりと、自由自在に変形させている。



「……ずっと遊ばせて放置してたけど、こう言った訓練をさせる方が良いかね?」

『……普段から遊びで体の形を変えていますから特に訓練の必要は無いと思われます』



 そうなんだ。じゃあいいか。


 人型に戻りながら、さて状況確認だと顔をあげると——



 ——そこには金髪の美少女が立っていた。



「……」

「……あら? もう良くって?」

「うむ」



 だれぇー?


 忽然と現れたそれに驚愕のあまり一周回って冷静になった。

 見上げた美少女は、側頭部に天を突く様な虹の双角を生やしたブルースピネルの瞳を持つ美人。


 髪は一つ結びに纏められ、服は宝石のあしらわれた豪奢で煌びやかなドレス。


 コアはストンと地面に着地し、最初から下がっている様な頭を更に下げた。


 どなたとか言い辛い雰囲気だが、俺は言うぞ。言うぞ!



「えー……どなたでしょうか?」

「わたくしは此処の支配人をしている者でーすわっ」

「成る程、お世話になります」

「礼儀正しくて好感触ですの」



 にぱっと子供の様に笑う彼女の前で、地面をコロコロしていた体の居住まいを正し、お辞儀する。



「初めまして、名無しの権兵衛です」

「存じておりますわー。わたくしは凡ゆる財宝を司る宝玉の亜神ですの。以後お見知り置きくださいな」

「どうもよろしく」



 差し出された手を握る。


 ずしっと重い。いや……まるでそう、巨大な山を前にしている様な、または星空を見上げている様な……とんでもない密度・・を感じた。


 微動だにせず、声も発さず首を垂れるコアを見て、コレは間違いなく神の一柱なのだと確信した。


 神って全部こんなもんなのかね? 自然と敬語っぽくなると言うか、畏怖の様な感覚が湧き出てくる。



「義体の調子は如何かしら?」

「上々です」

「本体と同じ物はもう少し頑張ったら用意して差し上げますわー。それまで頑張って生き延びてくださいな」

「はい、頑張ります」



 魂に響く様な激励を受けた所で、邪女神様とは違う亜神とか言うらしき女神様が手で広場を指し示した。


 コツコツッと歩むのに合わせ、取り敢えずコアとウォーカーを拾って後に続く。



「会場は此方でーすわっ。砂時計をご覧くださいまし」

「砂時計……」



 広場の奥の壁に同化している砂時計とやらは、やたらとデカい。

 砂は落ち始めたばかりの様で、下に小さな山が出来ていた。



「全ての砂が落ちたら終了でーすわっ。それまではご自由にお楽しみくださいな」

「ふむ」



 ですわの時だけやたらと元気だなと思いつつ見回した四角い形状の広場には、左右に色んな料理の乗った長いテーブルがあり、更に左には大きな窓とその先の庭っつうかお洒落なガーデン。

 そして右には壁に埋め込まれる様に受け付けと言うか……フードコートのテナントみたいなのがあった。



「料理は立食で、お持ち帰りも可でーすわっ。お帰りは後ろの扉から、何時でも帰れましてよ? 先ずは右手奥の受付に行ってくださいまし」

「はい」



 なんだろ? わざわざ行けって事はなんか貰えたり? もう501万も支援して貰ってるのに?


 くるりと此方を振り返り、神様は優雅にカーテシーをした。



「それでは迷宮主ダンジョンマスター様。今宵の祝宴、存分にお楽しみくださいでーすわっ! あ、義体は特別性ですの。日の元で遊んでも大丈夫でーすわっ」



 そこまで言うと、女神様は優雅に微笑み手を振りながら、ふわりと姿を消した。



「……はぁ」



 やばいな、気付かぬ内に緊張してたか? 一気に肩の力が抜けた感じがする。


 気を紛らわすべく、まだ首を垂れているコアをつついた。



『……』

「コア」

『……』

「おーい」

『……もう、神様の御前なのですから、もっとありがたく首を垂れてください!』

「えぇ……」



 いや、でも亜神って言ってたぞ。



『言っておきますが、亜神も神ですよ? 我々では決して届かぬ高さにおわす、その御姿を拝見する事すら本来叶わぬ程の偉大な方々です!』

「えぇ、ごめん?」

『マスターには信心が足りませんっ』



 プンスカ怒るコアマジロを宥めつつ、俺は亜神様改め女神様の言う通りに、奥の受付に向かった。



 

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― 新着の感想 ―
[一言] 最初から読み直してやっと追いつきました。今後も楽しみにしてます。
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