閑話 そんな日常と非日常
【ある虫と木の記録】
「もぐもぐ」
「……」
よくたべる。
「むしゃむしゃ」
「……」
……ほんとによく食べる。
「もっしゃもっしゃ」
「……」
……無くなったら止まる……よね?
「むぉっしゃむぉっしゃ」
「……」
……もう無い、よ?
「(キョロキョロ)」
「……」
止ま——
「……ガリッ」
「ッッ!!!???」
後に彼の者はこう語った——命の危機を感じた……と。
◇◆◇
【彼等の生き様】
また、この時期が来た。
空がたくさん泣いたあと、猪達が何故か押し寄せて来る。
ただ今回は今までと違った。倒しても倒しても、猪はたくさんやって来る。
食べ物がたくさんあると喜ぶ奴もいたが、オレはそうじゃない。大変かもしれないと思った。
「母達、逃す!」
担い手がそう言った時、オレ達は迷いなく頷いた。
何か、良くない事が起きようとしている。そんな気がしたから。
◇
光る武器を持つ奴と担い手を含めた同胞達で、布森の小窟へ移動を始めた。
空に大きな光が出る時間だ。
オレ達は不安だったが、担い手がいれば大丈夫だと思った。
結構歩いた時だったか、ガサッと草の鳴る音が聞こえた。
「敵、猪! 母達守る!」
そこから暫くの事は、よくおぼえてない。
ただ、光る武器を持つ奴や担い手が猪達と戦って、オレ達は母達を連れて逃げ、また猪が現れて戦って、そして……跳ね飛ばされた。
気付いたら洞窟で、同胞は半分くらいしかいなかった。
オレも、足とか、手が痛い。
立ち上がれないくらい痛くて、もう死ぬのかと思った。
それからどのくらいの時間が経ったか、ある時急に、葉っぱ臭い水が掛かって、痛みが無くなった。
歩ける様になって皆を見て周り、入り口が塞がっている事に気付いたが、不思議とご飯が出て来て食べる事には困らなかった。
痛みも苦しみも無くなって、美味いご飯が毎日食べられる。
……もしかするとオレ達は、長老が偶に言ってる、天の上にいる方達に助けられたのかもしれない。
それからしばらく経って、担い手が天なる方を連れて来た。
天なる方はオレ達の命を助け、安全な場所と食べ物をくれた。
良い事を返さないのは悪い事だ。
戦士としてオレが出来るのは戦う事だけ。
天なる方はオレ達の為にあの怪物と戦うらしい。
怖いし、死ぬかもしれない。けど、天なる方はオレ達と母達を助けてくれた。
オレは戦う。
死んだとしても、怪物がこの森から居なくなるなら、それはオレが死ぬ悪い事があっても、もっと良い事だから。
◇◆◇
【袋小路の森:サーチ記録】
生態系の頂点に立つのは、熊と猪の2種である事が分かっています。
これらが極めて狭い範囲内で大量に発生しているのは、袋小路の森が恵みに富んだ森である為でしょう。
大量の木の実や果実、薬草類が自生している他、地中には岩塩層が多く見られ、海が近い為塩分濃度の高い土が取れる場所が多くあります。
生命魔力を塩分の補填に消費しなくて良い分、日々の活動に必要なエネルギーを十分確保出来るのでしょう。
地脈の噴出孔がある事も、生物の大量発生に大きな影響を与えている様です。
敵対者が常に存在している為、単体が十分な進化を遂げる分のエネルギー確保には時間が掛かるので、種の繁栄という選択肢を優先したのだと思われます。
また、中央に存在する湖近傍の地形から、袋小路の森には定期的に雨季の様な出水期が存在する事が見て取れます。
この雨季が過ぎ去った頃、昆虫達の動きが活発化し植物が一斉に開花、その暫く後、十分な実りが得られる頃に獣達の出産がある模様です。
今は丁度産まれた獣達が動き回り始めるタイミングで、最も外敵の数が多い時期であったと予測出来ます。
その一方で、弱い外敵が多いと言う事でもあり、一部例外を除いて対処は簡単だった事でしょう。
また森の南部は繊維質の植物が多く見られ、食糧が少ない事から、大型の魔獣が少ない傾向にあります。
我等が神の配置は完璧でした。
土地自体は火山噴火等の隆起で出来ており、岩塩層があるのは海が切り離された為。鉱石が多いのはマグマの活動が盛んであった為です。
北部にはそれ以前の火山活動により形成された山脈が存在し、未サーチですが溶岩は海、もしくは西の草原へ流れた事が想像出来ます。
未確認ですが、西の草原は一部凹凸の激しい部分も見られる事でしょう。
袋小路の森とは大きく環境が異なる為、全く別の進化をした生物が生息している物と考えられます。
現時点で利用可能な資源は、『岩塩』『金属』『木の実』『植物繊維』。
……可食昆虫も生息していますが、黙っておきましょう。




